第28話 チョコレートの箱(彩香side)


 週が開け、ついに…ついにこの日が来た。

 この日をこんなにも待ち遠しく思い、それ以上に、ここまで緊張したのも初めて。

 お姉ちゃんに教えてもらって、一緒に生チョコ作って、ラッピングも頑張った。


 うん。お天気もいいし、今日はいい日になる気がする。


 よし!いざ出陣だ




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 いつもの時間に登校し、それとなく彼の教室の前を通ってみたけど、やっぱりまだ来てないみたい


 でもいざとなると、どうやって渡したらいいのかはまだ考え中だった


 下駄箱の中に入れとく?

 それとも机の中にこっそり忍ばす?


 いやいや、やっぱり直接渡したいじゃない


 じゃあ偶然ばったり会ったふうを装って、軽い感じで渡してみる?

 それとも呼び出して人気のない所で渡す?

 それで…想いも伝えちゃう…?


 キャー!そんなの照れる!!無理無理!



「七瀬さん、おはよ。どうしたの?」

「へ?」

「なんか楽しそうだったから」

「そ、そんなことないわヨ…」


 友達の早川さんに声をかけられ、焦る私。

 彼女は私の数少ない友達だと思える女子の一人で、クラスも同じだからこうして気軽に話しかけてくれる


「あ、もしかして…誰かにチョコ…渡す?」

「え!?」

「あ!そうなんだ。ね、誰?」

「いや…あの、そういうんじゃなくて…」

「ついに春が来たんだ」

「まだ来てないから」

「じゃあ、これから来るんでしょ?」

「うっ…」


 そう言ってくる早川さんを、少しだけ面倒に思うけど、でもこうして、恋バナっていうか、そういう話が出来るのも、また少し嬉しく感じる私がいた。

 そして彼女は私に小声で言う


「あのさ、もしかしてだけど、あの子?」

「え?あの子、って?」

「ほら、柊くんの友達の…」

「っ!?」

「八神くん…だっけ?」

「…ど、どうして…そう思うの?」

「あ、図星なんだ」


 楽しそうな笑顔で私を見てくるけど、え?

 なんでバレた?


「なんとなく、目で追ってるな、って思ってたんだよね」

「そ、そ、そんなことないわよ…」

「ほら、動揺が隠せてないよ?」

「うぅ…」

「でも、本当に八神くんなら、急いだ方がいいかもよ?」

「え?なに?どういうこと?」

「うん。あのね、柊くんに彼女いたでしょ?それでショックだった女子達が、いつも一緒にいた八神くんって、普通っぽいけどそんなに顔も悪いわけじゃないし、柊くんと同じバド部でそこそこ運動も出来そうだし、イケメンよりお手軽感あっていいよね、とか言ってたんだよ」


 ちょっと、なにそのお手軽感って。

 しかも褒めてるようで全然褒めてないから。そんな事言ってるような人達に、八神くんを渡せる訳ないじゃない


「ね?酷い事言ってると思わない?」

「思う」

「だから、そんな子に先に告られるくらいなら、って思ったんだけど?」

「え!?いや…だからそういうんじゃ…」

「ちょっと教室覗いて見ようよ」


 そう言って早川さんは、私を彼のE組まで連れて来た


「あ、いたよ?」

「う、うん…」


 彼と目が合うと、途端に緊張で顔が強ばる


「ほら、ね?」

「分かった…」


 彼女に促され、私は勇気を出して彼の元へ。

 すると、いきなり八神くんは頭を下げて、私に謝ってきた


「え?…なに?なんで謝るの?」

「あの…この前の事…だよね」

「え?」

「その…咄嗟だったとはいえ、嫌な思いさせて本当にごめん…すみませんでした…」

「え…あの、だからなんの話を…」


 なんで?なんで謝るの?何かされたっけ?


 八神くんは周りを気にしてるのか、私だけに聞こえるくらいの小さな声で言う


「えっと…手とか握っちゃって…彼氏がいるのに、本当にごめん…」

「え……」


 ……彼氏?誰の?

 え?私達って、もう付き合ってたんだっけ?


「あの…もうああいうことはしないし、なんなら俺のこと、無視してくれていいから…」


 ちょ、ちょっと…何を言ってるの?

 あなたのことを無視するなんて…そんなの出来るわけないでしょ…やだよ……


 その後も八神くんは何か話しかけてくれてたけど、私の耳には何も入ってこなかった


 そして、視線を少し下ろした私は見てしまう



 彼の鞄の中のそれは、明らかに女子から貰ったチョコレートの箱だった






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