第24話 二月と言えば


 新人戦も終わりすでに二月。

 三学期も残すところあと一月半ほど。同時に、高校一年生というこの時間も、残りそれだけになったということ


 俺は変わらずの日々を過ごしていて、いつものように学校へ通い、部活のある日は部活。

 友人達と学校帰りに遊びに行ったり、テスト勉強に励んだり


 うん。本当、普通



 でも、にわかに奏汰の周りが騒がしくなる。

 俺じゃなくて、奏汰の周りだけ


 そう


 男子なら誰もが意識するイベント


 二月と言えば?…





「あの…八神くん…」

「あ、はい」

「えっと…柊くんって…」

「あ、あいつ、彼女いるよ」

「え…そ、そうなんだ…」

「うん」

「そ、それじゃ…」


 これで何人目だ?

 もう数えてないから分かんないぞ?


 それくらい、この一週間、俺はこのやり取りを何度も何度も繰り返してきた。

 普通ならいい加減うんざりしてくるもんだけど、俺は中学の時にも同じ事を経験してるから、慣れたものだった


 でも、それもこれも、今年で終わりだ。

 彼女がいるということがもっと周知されれば、この煩わしいやり取りも減るというもの



 それにしても、やっぱりあいつ、モテるな


 本人にその自覚はないっぽいけど、こういう光景を子供の頃からずっと俺は見てきた


(俺とは違うからな…)



 そう。モブの俺とは違う。

 これだけ女子から人気もあって、もしそれを奏汰が鼻にかけるような奴なら、間違いなく俺は友達やってない。

 昔からあいつはそんな素振りは見せないし、誰に対しても同じように優しく接してきた。


 もし俺が奏汰みたいにモテたなら、同じように振る舞うことが出来るんだろうか…



 …あまりに現実離れし過ぎてて、想像も出来ないな……



 まあいいっか。

 俺には無縁の世界の話だし、間違いなく奏汰はいい奴だし。うん。それで問題ない




 でも、バレンタインか…


 去年までは、莉子ちゃんや仲の良かった女の子、あと咲希からも義理チョコ貰ったりしてたけど、高校に入って仲のいい女子なんてほとんどできてないし、むしろ奏汰の隣でずっと一緒にいる俺を、疎ましく思う女の子がいるのは間違いない


 あいつのマネージャーじゃないんだけど…、

 とは思ってるけど、まあそれも昔からだ。


(今年は…たぶん誰からも貰えないだろ…)



「遥斗、部活行こうか」

「え?あ、うん。行こっか」


 そんなふうに思ってると、いつも通りに俺に奏汰が声をかけてきた。俺の気苦労なんて何も知らないんだろうな。まあいいけど





 そして、奏汰と話しながら体育館へ向かう


 途中、廊下で女子が何人かで話してるところを通りかかった。

 中には七瀬さんもいて、俺達に気付くと、慌てて俺から顔を背ける


(あ、また…)


 新人戦のあと、体育館の外で話して以来、あまり彼女と話す機会もなく、そして、たまにこうして学校で見かけても、少し前のように話しかけてくれることはなくなり、むしろこうして避けられている。

 俺としても、みんなの憧れの的な七瀬さんに自分から進んで話しかけることは出来ず、毎回こういう気まずさを味わっていた


 それに気付いた奏汰が、小声で言ってきた


「ねえ、遥斗、何かしたの?」

「え?いや…特になにもしてないと思う」

「本当に?」

「うん。心当たりもない」

「だって…あきらかに避けられてない?」

「っ!…うん、まあ…」

「それとも、もしかして…」

「え?なに?」


 奏汰は「う~ん…」と悩んだあと、「やっぱり忘れて」とか言う


「なんだよ、それ」

「もしかして、だし、それに、もし本当にそうなら、俺から言うのは違うから 」

「だからなんなんだよ、それ」

「もうちょい自信持ちなよ、遥斗」

「意味分かんないよ…」


 本当、意味分かんねぇ


 でも「心当たりもない」とは言ったけど、もしかすると、試合の後話してた時、俺が真っ白になっちゃって話聞いてなかった事、それをずっと怒ってるんじゃ…



 今度、ちゃんと謝ったほうがいいかな…







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