第21話 終わった
部員全員の試合も終わり、解散となった
家の人に迎えに来てもらう者もいれば、電車に乗って帰るために、駅に向かう者も
行きは奏汰や他に何人かと一緒に、俺も電車で来ていたんだけど、
「遥斗、ごめんな」
「ううん、気にしなくていいよ」
「遥斗くん、ごめんね…」
「莉子ちゃんも気にしないで」
高校は別々になっちゃったけど、彼女も中学から一緒にバドミントンを始め、今でも続けているので、今日の大会にも来ていたのだ
せっかく二人でデート…とまではいかなくても、二人で少しブラつけるなら、俺も邪魔したくなかったし、試合後の俺の姿を見られたのが恥ずかしかったのもあるしで、ここで別れることにした
二人が手を繋いで歩いて行くのを見送ると、俺は体育館の入口横の自販機で缶コーヒーを買って、近くのベンチに腰を下ろした
中ではまだ試合が続いているので、かすかにシューズと床の擦れる音や、ラケットを振る音が聞こえてくる
あまり何も考えず、ぼーっと空を見ていると、今はお昼を過ぎたくらいの時間なので、空はまだ明るかった
缶コーヒーを飲みながら視線を下に下ろすと、視界の隅に人影があるのに気付く。
なんとなく注意をそちらに傾けると、それは女性のようで、白っぽいロングコートにブラウンのパンツスタイル。そして何より、何かオーラが見えるくらい美人っぽい
(うわ…美人じゃね?)
ちょっと、あまり見すぎてもヤバいよな、と思って目線を下に下ろし、スマホを見てるふうを装ってみた。
でも、こちらに近付いて来てる気配を感じ、少しだけ顔を上げてみると、
「…八神くん」
「え?…な、七瀬さん…?」
え?…なんでこんなとこにいるの?
「う、うん…」
「どうしてここに?」
「えっと…たまたまこっちに来る用があって、それで…この週末、試合とか言ってたし…。うん、たまたまよ、たまたま」
確かにそういう話はしたと思う。
その時は「へー、そうなんだ」と素っ気ない返事でその話題はすぐに終わったはず。
それなのに、たまたまとか、その慌てようとか、…それは、無理があるんじゃない?
(もしかして…見に来てくれた…?)
隣に座った七瀬さんだけど、少し恥ずかしそうにしている
「たまたま…なんだ…」
「そ、そうよ!」
「は、はい…」
「でも…」
「え?」
「でも…ちょ、ちょっとだけ見たわ…」
「なにを?」
「…試合…してるとこ…」
「あ…そう…なんだ…」
「うん…」
やっぱり見られたのか…なんか恥ずかしい…
「俺あんまり上手くないし、すぐ負けて終わっちゃって」
「そ、そんなこと… 」
「でも、今日はなんか楽しくやれたと思う」
「そうなの?」
「うん。奏汰に色々言われてね」
「柊くんになんて言われたの?」
「それは秘密」
「教えてくれてもいいじゃない」
「だめだよ。これは秘密」
俺がそう答えると、「ケチ…」と俺に聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟き、少し拗ねるような素振りの七瀬さん
(そういうの、可愛くて困るんだけど…)
「でも、最後の試合、残念だったね…」
「え…あれ…見てた…の?」
「うん…凄い悔しそうだった…」
(まさか…あれも見られた…?)
「うん、まあ…。でも、平気だから」
「そう?」
「うん。全然平気だよ」
「本当に?」
「本当だってば」
「あのね…私、こういう試合とか見るの初めてで、運動部も入ったことないから、よく分からないかもしれないけど…」
「うん」
「えっと…ううん!なんでもない!」
「はい?」
「うぅ…」
「ちょ、ちょっと、大丈夫?」
どうした?情緒不安定になってない?
「だって…だって……もう!」
「え?なんで怒られてるんだろ…」
「お、怒ってなんかないもん!」
「そ、そう?」
キッ、っと俺を睨んでたけど、顔を赤くして俯くと、俺に視線を合わせることなく言う
「あの…真剣にやってるとこ、初めて見て…その…」
「うん…」
「…負けて悔し涙我慢してるとことか…」
「っ!?」
(見られてた!?…え?…お、終わった…)
何が終わったのかは分からない。
でもそう思ったのは間違いない
俺は頭が真っ白になり、ベンチにもたれ掛かると空を仰いだ
そのせいで、その後七瀬さんが言った言葉は何も頭に入ることはなかった
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