第19話 マフラー(彩香side)
あれ以来、彼のことを…八神くんを見かける度に、無意識に目で追うようになった。
そのせいなのか、以前よりも話す機会は増えたと思う。
そして今日も、帰りに廊下で八神くんを見つけた私は、自然と話しかけた。
話していると、今日は部活はお休みらしいけど、いつも一緒にいる柊くんはいなかった。聞いてみると、
「あ、奏汰は今日、久々に部活休みだったから、莉子ちゃんの所に行ったよ」
「え?誰よ、それ」
私が頭で考える前に、勝手に口から言葉が出て来て自分でも驚いたけど、どうやら柊くんの彼女さんらしい
でも、「莉子ちゃん」ってなに?
なんでちゃん呼びなの?
うぅ…なんか胸の辺りがムカムカする…
「そう…。それで?どうして八神くんがその彼女さんをちゃん呼びなの?」
自分の言った声を聞いて、私は自分が少し怒っている事に気付く。なんでだろう…
彼の話では、その彼女さんも柊くんと同じように子供の頃から知る、幼馴染のような人とのこと
それを聞き、更に不機嫌になる私
(なによ幼馴染って、そんなの…ずるい…)
何がずるいのか分からないけど、でも、そう思う私がそこにはいた。
ついつい彼を問い詰めるように見てしまう
気が付くとなんとなく、私達に視線が集まっているように感じて、たぶん八神くんもそう思ったのか、場所を変えるため、二人で中庭の方に歩いて行く
んん~…でも、なんで私、こんなに怒ってるんだろ…。
そんな私の気持ちを見抜いたように、八神くんは中庭に着くと謝ってきた
「七瀬さん…怒ってるよね?」
「そ、そんなことないわヨ!」
そ、そうよ!怒ってなんかいないわよ!
しかもなんだか、ほわ~んとした目で私のこと見てくるし!
「ちょっと!その微笑ましいものを見る目はなんなのよ!」
「ご、こめん…そんなつもりじゃ…」
「じゃあ、どういうつもりなの?」
「可愛いな、って」
「へ?」
「あ……」
え……か、可愛い…って…
八神くんが、私のこと…可愛いって言った…
もう!なんなのよ!
不意打ちが過ぎるわよ!
もう!…もう…どういうつもりなのよ…
「ち、違う!違うから!!」
「…違う…の?」
「違わないけど…いやそうじゃなくて!あ、あの、なんて言うか……あはは…」
「…どうなのよ…もう…」
もう…本当に、私の今のこの動揺はどうしてくれるのよ…
「本当、ごめんね」
「もう…知らないわよ…」
「じゃ、じゃあさ、何かお詫びに奢るよ」
「お詫び…?…それじゃあ…」
「うん。何かある?」
少し恥ずかしかったけど、私はコンビニであんまんを買って食べてみたいと、彼にお願いした。そしたらボソッと「反則だろ…」とか呟いてたけど、何が反則なの?
本当に、この人は何を考えているんだろう
でも、そんなやり取りをしてるうちに、さっきまでのムカムカもなくなって、八神くんとこうして話してるのが、とっても嬉しかった
もっと彼と話がしたい。
もっと彼の事を知りたい。
そう思う私がいて、学校を出た後二人で歩いてコンビニに向かってたけど、近くのお店に行ってすぐお別れするのが嫌な私は、少しだけわがままを言って、離れたお店まで行ってもらうことにした
歩いていると、ツン…と、手の甲が軽く触れた感触にビクっとする。
そう。いつの間にか彼のすぐ隣を、私はくっつくようにして歩いていたようで、それで肩や肘、手が…彼と触れる…
チラリと彼の様子を伺うと、どうやら八神くんも気付いてたらしくて、少し恥ずかしそうに、顔もちょっと赤くなっていた
(やだ…ちょっと…可愛いいんだけど…)
ニヤけそうになるのを我慢してると、
「あの…」
「なに?」
「えっと…」
「だからなに?」
「いや…その…」
「はっきりしないわね」
うんうん。
気になってるんだよね?
私が顔を覗き込んで、「ん?」とたずねると、急いで少し顔を背ける辺り…もう…
八神くんは歩きながら、それとなく距離を取ろうとするんだけど、私もそれに合わせてまた同じように距離を詰める。
その度に彼がドギマギしてるのが分かって、それを見るのがまた嬉しくて、
でも…私、何やってるの?
え?ちょっと待って…
考えてみたら、私…かなり恥ずかしいことやってない?
え?え?これ…え??
やば…恥ずかしい…
彼も赤くなってるけど、たぶん、間違いなく、今私の顔も赤くなってると思う。
本当に…何やってんのよ、私は…
そして八神くんに「あまり遅くなってもなんだから」と言われ、お店に入る。
彼が注文してる背中を見つめながら、なんだか寂しくなってるのに気付く
(そっか。もうここでお別れか…)
二人でイートインスペースに行き、彼は肉まんを、私は彼にもらったあんまんを食べる
こうして食べるのは初めてで、温かくて美味しかった。
私が食べてる横で、八神くんも美味しそうに食べてて、しかもあっという間に食べちゃって。やっぱり男の子なんだな、って思ったり
「やっぱり、食べるの早いわね」
「そう…かな…」
「ふふ。やっぱり男の子だね」
「あ、あの…急がなくてもいいからね」
「ありがとう」
ああ
なんだか、そんなさり気ない気遣いがとっても嬉しい。
やっぱり、八神くんは優しい人なんだ
「あんまん、どうだった?」
「うん。甘くて温かくて美味しかった」
「そっか。ならよかった」
「うん」
「暗くなるの早いし、帰ろ?」
「そうね…」
うん。ちょっと寂しいけど、仕方ないよね。でも、またこうして二人でどこかに行けたらいいな
…って!なにそれ!
え?まさかデートとか?
二人で遊園地とか!?
…なんか妄想で頭がぐるぐるする…
そんな妄想を私が一人でしてるなんて知る由もない八神くんだけど、駅まで送ってくれると言うので、「まだ少し一緒にいられる」なんて思いながら、また歩いて行く
さっきまでお店の中にいたから感じなかったけど、やっぱりこの季節、夕方になってくればそれなりに冷えてくる
(ちょっと、寒いな…)
でも、彼をここまで連れて来たのは私だし、心配はかけられない。
そう…そう思ってたのに…
「大丈夫?寒い?」
「え…ううん、大丈夫」
「本当に?」
「ええ…」
八神くんは鞄の中で何か探し始め、そして
「風邪引いたら大変だから、よかったらこれ使ってよ」
「え!?…そ、それは…悪いわよ…」
「今使ってないし、俺は大丈夫だから」
「でも…」
彼はチェック柄のマフラーを取り出して、私の方に差し出してきた
(嬉しい…でも…)
うん。気付いてくれたのも、その優しさも凄く嬉しいんだけど、でも、それは…やっぱり恥ずかしいよ…
「ゴメン!こんなの…俺のマフラーとか嫌だったよね、本当にゴメン!」
「え!あ…えっと…そうじゃなくて…」
「ううん、俺、余計なこと言っちゃって…」
「ち、違っ…そうじゃない…から…」
本当に違うの…私…
恥ずかしくて彼の顔は見れなかったけど、私はマフラーを受け取り、顔が見えなくなるように急いで巻いた。でも、
(あ…これ…八神くんの匂い…)
そう思った瞬間、胸がキュンってなって…
もう…こんなの、私……無理だよ…
「ありがと…」
「う、うん…」
「じゃあ…行きましょ?」
「…そ、そうだね…」
「ん…」
もうこれ以上、自分の気持ちは誤魔化せない
もう…間違いない…
私……私は…八神くんのこと…
好きになっちゃってる…
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