第18話 マフラー


「あの…」

「なに?」

「えっと…」

「だからなに?」

「いや…その…」

「はっきりしないわね」


 七瀬さんと二人で校門を出て、学校から少し離れたコンビニ目指して歩いている。

 最寄りのコンビニじゃないのは、「他の人に見られたら恥ずかしいから」らしいけど、それは全然構わない


 うん。問題はそこじゃない


「で?なんなの?」


 俺の顔を覗き込んで、「ん?」と、訝しげにたずねてくる彼女


(くそう…何やっても可愛いな…)



 なぜ俺がこんなにも動揺しているかというと、七瀬さんの俺との距離が近いのだ


 俺のすぐ横を歩いていて、肘が当たる。

 なんなら、手の甲も時折り触れるほど


 前に瑠香さんと会うために、カフェに連れて行かれた時は、俺が七瀬さんを尾行してるふうな、それくらい離れてたのに、今日はやたら近い


 気になるから、俺がそれとなく距離を取ろうとすると、彼女もまたそれとなく元のポジションに収まろうとする


 その気になれば…その、その気になれば、手も繋げる距離に…彼女の手が…そこにある


 これ、普通…なのかな…

 友達って、男女でもこんなもんだっけ…?



「えっと…どこのコンビニに行くの?」

「話逸らしたわね?」

「そんなことない…です…」

「ふーん」

「それで…どこまで行くの…?」

「もう少し向こうまで」

「…分かった」


 それから何軒かのコンビニを素通りし、そのままひたすら歩く。


(どこまで行くんだ?)


「七瀬さん?」

「なに?」

「そろそろどこか入らない?帰りのこともあるし、ほら、遅くなると、家族さんが心配するでしょ?」

「…そうね」



 俺はこんなにも焦ってるっていうのに、七瀬さんはいたって普通に見える。見えるけど、心なしか少し頬が色付いてるようにも見え、でも、夕日に当てられてそう見えるだけのようにも思えて。

 あと、俺的には、あんまりまじまじと彼女を見るわけにもいかなかった


 それは、やっぱり恥ずかしいから…


 だってそうだろう。

 誰もが目を引く美少女と、こんな至近距離で並んで歩いて、いくらもう付近に見知った顔がないとはいえ、やっぱりドキドキするし、恥ずかしい…



 そして俺は、次に目に付いたコンビニに入ることにした


 レジのカウンターに行くと、あんまんと肉まんを一つずつ注文し、受け取った俺はあんまんの入った包みを彼女に手渡し、イートインスペースへ


 けっこう歩いたし、少し冷えていた体は、温かい肉まんでじんわりと暖まる


「温かくて美味しいね」

「そうね」


「はふはふ」と、嬉しそうにあんまんを頬張る彼女は、普段見る可憐な美少女の時より、今の方が何倍も可愛く見えるのはどうしてだろう


 そう思ったら、無性に顔が熱くなり、それを誤魔化すように俺は肉まんを口にする


「お腹減ってたの?」


 首をコテンと傾けて、そう問いかけてくる七瀬さん


「肉まんも美味しそうね」

「う、うん…。美味しいよ…」

「どうしたの?」

「いや、大丈夫…だから」


 彼女が何をしても、何をされても、ただでさえ元々が美少女なのに、全てが輪をかけて可愛く思えてしまい、顔を合わせることも躊躇われてしまう


 俺は急いで残りの肉まんを口に放り込み、外の景色を眺めながら、七瀬さんが食べ終わるのを待つ


「やっぱり、食べるの早いわね」

「そう…かな…」

「ふふ。やっぱり男の子だね」

「あ、あの…急がなくてもいいからね」

「ありがとう」




 少しして七瀬さんも食べ終わり、二人で席を立ち、店を出ることにした


「あんまん、どうだった?」

「うん。甘くて温かくて美味しかった」

「そっか。ならよかった」

「うん」

「暗くなるの早いし、帰ろ?」

「そうね…」


 彼女の最寄り駅まで送って行くため、また二人で並んで歩いて行くけど、少し表情が優れないように思える


「大丈夫?寒い?」

「え…ううん、大丈夫」

「本当に?」

「ええ…」


 そうは言うけど、さっきまでエアコンの効いたコンビニの中にいて、急に外に出たからやっぱり寒いんだろう。

 その証拠に、片方の手で自分の腕をぎゅっと掴み、時折り摩っているようにも見える。

 俺は咄嗟に鞄の中に入れていた、自分のマフラーを取り出した


「風邪引いたら大変だから、よかったらこれ使ってよ」

「え!?…そ、それは…悪いわよ…」

「今使ってないし、俺は大丈夫だから」

「でも…」


 少し俯いて、でもチラチラと恥ずかしそうにこちらを見てくる七瀬さん


 あ!…そうか…そうだよな…

 いくらなんでも、俺のマフラーはまずいよな


「ゴメン!こんなの…俺のマフラーとか嫌だったよね、本当にゴメン!」

「え!あ…えっと…そうじゃなくて…」

「ううん、俺、余計なこと言っちゃって…」

「ち、違っ…そうじゃない…から…」

「え…」


 彼女は俯いたまま手を出し、俺の手からスルリとマフラーを抜き取ると、サッと自分の首に巻いた。そして、


「ありがと…」

「う、うん…」

「じゃあ…行きましょ?」

「…そ、そうだね…」

「ん…」




 二人して無言で、早足で歩いて行く。


 チラッと隣の七瀬さんの様子を伺うと、マフラーから出た顔半分は、耳まで真っ赤で、自然と俺も自分の耳を触ってみると、熱くなっているのが分かった





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