第17話 機嫌が悪い


 あれからまた七瀬さんと一緒に学食に行く





 なんてことはあるはずもなく、登校する時に奏汰と一緒にコンビニに寄ったり、奏汰と一緒に購買でパンを買ったり。はたまた奏汰と一緒に学食に行ったり


 …そう考えたら、俺、奏汰以外に友達いなくない?

 そういえば前に咲希にもそんな事、言われたような記憶があるな…

 いや、いるよ?ちゃんといるよ?



 でも、友達…か…



 七瀬さんと仮でも、いちお友達ということになってはいるけど、これまではクラスも違うからそうそう会うこともなかったし、たまに廊下ですれ違っても、彼女はせいぜいぺこりと頭を下げてくれる程度だった。


 でもあの一件以来、よく校内でも七瀬さんを見かけて、話す機会は前より増えたと思う。


「八神くん」

「あ、七瀬さん」

「これからまた部活なの?」

「今日はオフ日だよ」

「そう」

「………」

「………」

「…え?」

「なに?」

「いや、なんでもないです…」

「…今日も…柊くんと、帰るの?」

「あ、奏汰は今日、久々に部活休みだったから、莉子ちゃんの所に行ったよ」

「え?誰よ、それ」

「あ、ごめん。莉子ちゃんっていうのは、奏汰の彼女なんだ」

「そう…。それで?どうして八神くんがその彼女さんをちゃん呼びなの?」


 ん?なんとなく、機嫌悪くない?


「えっと…その子も、俺と奏汰と同じように、子供の頃から知ってる女の子なんだ」

「柊くんは幼馴染なのよね?」

「まあ、そうだね」

「その彼女さんも幼馴染なの?」

「え?そう言われればそうなるかもしれないけど…。ど、どうしたの?」

「どうもしないわよ」

「そう…?」

「ええ」


 いや、あからさまに機嫌悪いだろ。

 だって、その俺を見る目は冷たい


(なんで怒ってるんだろ…)


 そして、今、放課後で帰りがけに廊下で話してるんだけど、周囲からの視線も微妙に痛い


「なんであいつ、七瀬さんと話してんだ?」

「そもそも誰だよ」

「クラスメイトじゃないよな?」

「友達とか?」

「ていうか、怒られてないか?」

「そういやそうだな」

「どうせ怒らせるような事でもしたんだろ」


 普段、常に奏汰が隣にいるので、俺単品に対して視線が向けられることは殆どない。

 でも今は俺だけ。モブAの俺だけ。

 そのモブAの俺が、男子憧れの的の美少女に詰められている状況だ


 でもこのままここで、注目の的になり続けるのは勘弁して欲しい。

 俺は歩いて、彼女と中庭の方まで来ていた


「あの…なんかごめん…」

「…どうして謝るの?」

「七瀬さん…怒ってるよね?」

「そ、そんなことないわヨ!」


 え?…なんでキョドってんのさ…

 でも、ちょっと可愛いな

 あ、そっか。

 周りに人がいなくなったから、ちょっと素の七瀬さんになってるんだな


「ちょっと!その微笑ましいものを見る目はなんなのよ!」

「ご、こめん…そんなつもりじゃ…」

「じゃあ、どういうつもりなの?」

「可愛いな、って」

「へ?」

「あ……」


 お、俺は…俺はなんてことを…!!


 七瀬さんは耳まで赤くして、咄嗟に俺から視線を逸らす。でも、俺の様子を伺うようにチラチラ見てくる


「ち、違う!違うから!!」

「…違う…の?」

「違わないけど…いやそうじゃなくて!あ、あの、なんて言うか……あはは…」

「…どうなのよ…もう…」


 彼女は拗ねたように、プイッとそっぽをむいてしまう


 それ、可愛すぎだろ



 あまりの可愛さに冷静さを取り戻す俺。

 美少女って凄いな


「本当、ごめんね」

「もう…知らないわよ…」

「じゃ、じゃあさ、何かお詫びに奢るよ」

「お詫び…?…それじゃあ…」

「うん。何かある?」

「えっと…笑わない?」

「うん。笑わない」

「…誰にも…言わない?」

「言わないよ」

「あのね…私…コンビニの…」

「うん。コンビニの?」

「………」


 ん?

 何か言ってくれてるのは、口元見てれば分かるんだけど、声が小さ過ぎて全く分からない


「え?ごめん、よく聞こえないよ」

「…もう……だから…コンビニで…あんまん買って、食べてみたいの…」


 消え入りそうな、やっと聞こえるくらいの声の大きさで、さっきと同じくらい顔を赤くして、もじもじしながらそう言う七瀬さん


(これ…反則だろ…)


「これ…反則だろ…」

「はい?」


 あ!!思ったまんま口から出ちゃった…


「わ、わ、分かった!じゃあ行こう!」

「ちょ、ちょっと、何が反則なのよ!」

「俺もよく分かんない」

「え、なによ、それ」


「全く…」といった感じで、俺にジト目を向けてるく七瀬さん。

 でも、いつの間にかこんなふうに、普通に話せるようになった。

 七瀬さんと友達になれたのかな?

 だといいんだけど…


 彼女も同じように感じてくれてるといいな、

 なんて思いながら、俺達は学校を後にし、コンビニに向かうのだった





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