第16話 しまい込んだ何か(彩香side)


 ホームルームも終わり、帰ろうとしたところで声をかけられた


「七瀬さん。朝話してたカラオケだけど」


 ニコニコと笑顔で宮沢くんが話しかけてきた


「あ…それは…」

「一緒に行くよね?」

「あの…」

「行くよね?」


 変わらずの笑顔だけど、なんだか圧が…


 私が愛想笑いを浮かべて、これをどうやって断ろうかと考えてると、知らない間に周りに人が増えていた


「七瀬さんも行くでしょ?」

「そうなんだ。じゃあ、俺も行こっかな」

「じゃあ、ってなんだよ、じゃあって」

「私も行く。宮沢くん、いいよね?」

「ああ、いいよ。大歓迎だよ。大人数の方が盛り上がるしね」


 どんどん断りにくい状況になっていってる。


(どうしよう…)



 私がもう諦め始めたその時、


「楽しそうだね、なんの話?」


 八神くんのお友達の、柊くんが輪の中に入ってきた。

 その隣には八神くんもいて、私の方を心配そうな目で見ていた


(もしかして、助けに来てくれた…?)


 だったら…だったら、嬉しいな…



 でも彼は、たぶんこの状況に萎縮してるのか、言葉を発することはなかった。

 大人しそうな彼からすれば、こんな陽キャみたいな人達の中で、何か話すには勇気がいることだろう。仕方ない…よね…



 柊くんの話ではこの後、お昼を食べてから部活に行くらしい。

 大会が近いそうで、こんな日でも練習するなんて。本当に、この遊ぶことしか頭にない人達も、少しは見習ってほしいくらい


「ほらほら、柊くんは忙しいらしいし、俺達だけで行こうよ。ね?七瀬さんも」


 宮沢くん…諦めそうにないよね…


「あの、私は…」

「ね?みんなで行こうよ」


 なんとか言葉にしようとしても、すぐに遮られてしまう。

 なんでこの人はこんなに押しが強いわけ?

 もう…八神くんもこれくらいグイグイ来たらいいのに…

 いや…変な意味じゃなくて…何か話題を変えてくれたらいいのに、って意味で…


 そんな事を思っていると、


「な、七瀬さん…」

「八神くん…?」

「あの…ご飯食べに、今日学食行くって約束してなかったっけ?」




 あ…


 八神くん…



「え、ええ、そうね。そうだったわね」


 ああ…八神くん……



「え?七瀬さん?マジで?」

「そうなの。ごめんね」

「え?なんで?ていうかこいつ誰?」

「宮沢くん。彼は、柊くんのお友達だよ」

「へえ、そうなんだ。それで?柊くんのお友達の君が、なんで七瀬さんと約束なんてできるの?柊くんが約束したのかな?」

「いや、そうじゃなくて…」

「悪いけど、君じゃ無理だよね」


 宮沢くんって、とんでもなく失礼な人だ。

 しかも自分の事しか考えてない、見てないナルシストっぽいし、本当に嫌い


 もう流石に私も言ってやろうかな、ってなりかけた時、八神くんが宮沢くんに言い返してくれた


「お、俺は…友達だから…」

「柊くんのお友達なんだろ?」

「…違う。七瀬さんとも友達だ」

「は?もういいから邪魔しないでくれる?」


 もういい加減にして。

 これ以上、ここにいたくない


「嘘じゃないわ」

「え?」

「八神くんは私のお友達よ」

「ちょ…え?な、七瀬さん?」

「ごめんなさい。先に八神くんと約束してたから、今日はみんなで楽しんで来て」


 呆気に取られた宮沢くんを見て、少しいい気味だな、なんて思っちゃった


「行きましょ?」


 私はそう言って彼の鞄に手をかけ、引っ張るようにして教室を出た



 出て来たのは良かったんだけど、ちょっと…恥ずかしくなってきちゃった…


 なに、これ…

 恥ずかしいんだけど、でも…なんだか彼の鞄を引っ張ってるのが嬉しくて…

 やばい…顔がにやけてきそう…


 私は自然と早足になってしまって、そのまま廊下を歩いて行っていると、


「七瀬さん、ごめんね」

「どうして?」

「なんか困ってるふうだったから…」

「そうね…」


 やっぱり…八神くんは八神くんね


「彼…あ、宮沢くんのこと、ちょっと苦手で、でもしつこく誘われてどうしようかな、って思ってたから、助かったわ」

「そ、そう…。なら良かった」

「ええ。ありがとう」


 あ…また素っ気なく言っちゃった気がする…


「じゃあ、俺、奏汰と学食で昼ごはん食べてから部活行くんで」

「そう…」

「じゃあね」


 なんだか寂しく思うけど、でも、しょうがないよね…

 でも、柊くんがこのまま私一人で帰ったら、もしそれを見られた時に、また誘われるようなことになるかも、って言ってくれて。

 そして、私も学食にお昼誘ってくれたから、喜んで一緒に行くことにした


 柊くんもいい人だな。やっぱり、八神くんのお友達なだけあるよね



 私はいつもの私を演じながら、でも内心凄くドキドキしながら、二人と一緒に学食へ


 みんなで同じカレーライスを頼んで食べたんだけど、八神くんはあきらかに緊張してるふうで、それを見てたらなんだか私も緊張してきちゃって。

 でも、凄く楽しくて、そして、嬉しかった





 学食から出て二人は体育館に行くと言うので、私は今日のお礼を…と思ったけど、うまく言葉が出て来ない。

 なんとか「バドミントン頑張ってね」って言えたけど、なんか、こういうの…照れる…




 私に背中を見せて歩いていく二人を見送りながら、今朝、心の奥にしまい込んだ何か…

 それがなんなのか、少し分かった気がした





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