第14話 モヤモヤ(彩香side)


 結局、彼からLineの返事はなく、なんだかモヤモヤしたものを感じながら日々過ごし、気が付けばもう新学期が始まってしまった


 そのせいか、私としては珍しく、少しだけ家を出る時間が遅くなり、普段より遅めの登校になってしまった。

 ちょっとだけ憂鬱な気分になりながらも、行き交う生徒の数が増えてきた辺りから、いつもの私を演じ始める


 みんなと挨拶を交しながら、校門をくぐり、昇降口まで来たところで「おはよう…」と声をかけられる


(あ…八神くん…)


 八神くんに挨拶してもらった。

 か、返さないと…


「おはよう」


 自分でも驚くほど素っ気なかった


(え…なんで…)


「あの、その…」

「どうしたの?私、急いでるんだけど?」

「そ、そうだよね。ごめん…なさい」

「それじゃあ」



 私は急いで話を切り上げて、教室に向かうため階段を上るんだけど、胸の鼓動が早くなっているのを感じる


(なんでこんなに緊張するのよ)


 どうしてこんなふうになるのか分からない。

 言い方は悪いかもしれないけど、彼は見た目も普通で、柊くんのようなイケメンじゃない


 お姉ちゃんの事があったから話す機会があったけど、そうじゃなければクラスも違うし、たぶん今でも何の接点もないただの同級生の男子、ってだけだったと思う。

 それなのに変に意識しちゃって、今もつれない態度取っちゃった


(また怒らせちゃったかな…)


 あれからLineも送ってくれないし、やっぱり私からも送らないとだめよね


 でも、なんて書いたらいいか分かんないよ…




「おはよう、七瀬さん」

「え?…ああ、おはよう」

「新学期早々、どうしたの?ぼーっとして」

「いえ…なんでもないわよ」


 私に笑顔で話しかけてきたのは、同じクラスの宮沢くん。

 たぶん彼も、見た目は柊くんと同じくらいイケメンなんだろうけど、仲の良い男子や女子だと、こうしてにこやかな笑顔で話しかけたりしてるけど、そうじゃない人には凄く冷たい…らしい


 らしい、というのは、私が直接見たことがないから。でも、そういう話はたまに耳に入ることがあった。

 彼はバスケ部に入っているらしくて、前に私達がバドミントン部を見に行ったという話が出た時に、「なんでバスケ部じゃねーんだよ」と、舌打ちしてたいう話を聞いた


 こういう裏表があるような人は、いくら顔が良くても苦手…というかむしろ嫌い


(あ…もしかしたら、八神くんも…)


 裏表があるないって話になれば、私だって普段は猫被ってるようなものだと思う。

 みんなが望む「七瀬さん」を、その期待に応えるために演じている。


 でも体育館の裏で八神くんと話した時に、少し素の私が出てたと思う。

 彼がこれまで見てきた私とは違って見えたことだろう。私が宮沢くんを苦手だと思うように、彼が私のことをそう思っても仕方がない


(せっかく、友達になろうって言ってくれたのに…)


 あの時、私は嬉しかった。

 それは、彼は私の見た目なんかじゃなくて、私自身を見てくれてるんじゃないか、って思ったから


 それなのに、八神くんにあんなふうに素っ気なくして、私……



「七瀬さん?なんか落ち込んでる?」

「いえ、そんなことないわよ」


 私は努めて笑顔で、宮沢くんに答えた


「そう?あ、そうだ!今日始業式だけで早く終わるし、みんなでカラオケでも行かない?パーっと歌えば、元気出るよ?」

「ありがとう。でも、私は大丈夫よ」

「まあまあ、そんなこと言わないでさ」

「いえ、あの…」

「あとでみんなにも声かけとくからさ」



 私の肩をポンっと叩いて、彼は教室の中に入って行った。

 私はその触れられた肩をサッと払い、少しの間、廊下の天井を見つめる



 彼だったら…八神くんだったら、こんな時、私でも助けてくれるのかな…




 ……私、何考えてるんだろ…


 それより、どうしてこんなに彼の事ばっかり頭から離れないのよ!


 もしかして…私、八神くんのこと…?





 はあ…

 そんなわけないじゃない


 ちょっと嫌なことがあって、そんなふうに思っちゃっただけよ




 なんだか更にモヤモヤしたものを抱えてしまったけど、私はそれを心の奥にしまい込み、教室に入るとまた、いつもの私になった






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