第13話 惨敗


 結局、あのあと返信することは出来ず、でも時間だけは無情にも過ぎ去って、冬休みは終わり三学期が始まった


 彼女とはクラスも違うし、これまでも意識でもしない限りは見かけるような事もそうなかったけれど、新学期初日、昇降口で七瀬さんと出くわしてしまう


 もちろん、嫌なわけないし、避けてるつもりもさらさらないんだけど、なぜか気まずく感じてしまう。

 でも、挨拶くらいはちゃんとしないと


「おはよう…」


 彼女の方を向いて、極めて冷静に、いつもの俺となんら変わらないよう声をかけたつもりだった


「おはよう」


 それに対して七瀬さんは、表情を変えることなく、ツンとした感じで返してくれる


(なんか、ちょっと前までの咲希だな…)


「あの、その…」

「どうしたの?私、急いでるんだけど?」

「そ、そうだよね。ごめん…なさい」

「それじゃあ」


 Lineの事を謝ろうと思ってたけど、とてもそんな事を口に出せる雰囲気じゃなかった


(惨敗だ…)


「あはは♪遥斗、見事な惨敗だね」

「くっ!…奏汰…」


 なんでこいつは俺の考えてることが分かる?

 心読まれてるのか?


「俺を置いて一人で先に行っちゃったのは、こういうこと?」

「いや、別にそういうわけじゃないって」

「でも、遥斗から七瀬さんに声かけるとか、一体どうしたのさ。何かあった?」

「いや、ないよ」

「遥斗がそう言うなら、そういうことにしといてあげるよ」

「そうしてくれると助かるよ」

「でも…」

「な、なんだよ…」

「何かあれば、すぐに言いなよ?俺で役に立つことなら、なんでもするからさ」

「ああ、ありがとう」



「俺で役に立つこと」か…

 七瀬さんは、奏汰の事が好きだったんだと思う。

 でも、彼女がいるってことが分かったから、たぶんもう諦めるんだろう


 咲希には「デートにでも誘ってみたら?」なんて言われたけど、それ以前に、まともに会話すら、いや、Lineのやり取りすら出来ない


 はあ…どうやれば七瀬さんともっと仲良くなれるんだろう…



 …というより、いつからこんなに七瀬さんのことばかり考えるようになった?

 俺は…彼女のことが好きなのか…?


 確かに、彼女は校内でも指折りの美少女には違いない。でも、俺は名前と顔を知ってた程度で、つい最近まで話したことなんて全くなかった。

 憧れのような存在で、雲の上の人間、俺なんかとは無縁の人だと思ってただろ?

 それなのに、ちょっと話したからって、瑠香さんのおかげでアカウント教えてもらったからって、そんなの、彼女からしたら煩わしいだけだったのかもしれない。


 その証拠にLineの返事だって、さっきみたいに素っ気なかったじゃないか。


 俺…調子に乗ってたな…



 そう思ったら自然と顔が熱くなり、俺は羞恥心で押し潰されそうになった



「遥斗?」

「ん?ああ…大丈夫…」


 なんとか平静を装いつつ、俺は教室に入るのだった





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