第12話 『お元気ですか?』


 お姉ちゃんの手前、あの時は流れでアカウント教えたけど、で、私も教えてもらったけど、男の子の連絡先教えてもらったのは、八神くんが初めてで。

 あ、そうじゃなくて、前から、聞いてもないのに勝手に教えてくれるよく知らない男子はたくさんいて、そういう人のアカウントは登録してないから、Lineに登録したのは彼が最初の男の子



 え…


 なんかそう思ったら恥ずかしい…


 彼が初めての人…



 …違う!

 そういうんじゃなくて!



 …まあ、彼からLineが一度は来ていた。

「あけましておめでとう。今年もよろしくお願いします」という、新年の挨拶が。

 私はなんて返したらいいか分からず、無料のスタンプ一つ返しただけで、何もメッセージは入れなかった、というか、入れられなかった


(もしかして、それで…怒った…?)


 ど、どうしよう…



 …でも、なんて書いたらいいの…?




 その時、ピロン♪とLineの通知が


(あ!八神くんからだ!)


 私は急いでメッセージを開いてみる。

 すると、


『お元気ですか?』



 え?…なにこれ…





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 悩みに悩んだ挙句、「お元気ですか?」ってなんだよ…


 送ってすぐ「これは流石にない」って思って削除しようと思ったら、速攻で既読が付いてしまったので、消すに消せなくなった…


 でも、既読は付いたけど、一向に返事はない




 …だよな


 そりゃ、返事に困るよな


 でも、すぐ既読が付いたってことは、もしかして、俺からのLineを待ってた…?


 いや…そんなはずない


 たまたますぐ気が付いて開けてみた、ってだけだろう

 そして、読んだはいいけど、返事に困ってスルーされた…と…


「ああ!!恥ずい!」


 自室であまりの恥ずかしさに身悶えしていると、咲希が「なに?うるさいんだけど?」と入って来た



 あの夜以降、咲希に特に変わりはなく、普段通りに俺にはつれない


「ごめん、なんでもない…」

「あ、そう」

「うん…」

「………」

「あの…もうでかい声出さないから…」

「………」


 なんで何も言わないんだ?

 用がないなら自分の部屋に戻ればいいじゃん


「…ねえ…」

「え?ん?」

「あれから、どうなの?」

「なにが?」

「……その、七瀬さんと…」

「特に何もない、かな。Lineも教えてもらったけど、ほとんどやり取りしてないし」

「…そうなんだ」


 咲希のやつ、どうしたんだろう

 なんか、心なしか顔も赤いし、もしかして…


「もしかして、熱でもあるのか?」

「ち、違うってば!」

「え!?」

「もう!」

「ど、どうしたんだよ…」

「だから…だから……」



 本当にどうしたんだ?

 俺が口ごもる咲希の次の言葉を待っていると、ピロン♪と通知音が鳴る


 ふとスマホを見ると、送り主は七瀬さん。

 俺は、訝しげに様子を伺っている咲希を横目に、メッセージを確認してみる。

 すると、



『元気です』



 え?…なにこれ…



 あ、そうか。

 俺が『お元気ですか?』とか無駄なメッセージを送ったばかりに、気を使っていちお返事だけはくれたんだな


 なんかすみません…



「誰から?」

「え?」

「今の、誰からなの?」

「ああ、七瀬さんだよ」

「っ!」

「…ん?」

「…兄さん?」


 咲希はさっきまでの雰囲気と少し違って、ニヤっと不敵な笑みを浮かべる


「咲希?」

「兄さんがあんな美人と知り合いとか、今でも信じられないけど、でも、たぶんもうこんな機会は二度とないよ」

「お前、自分の兄に対して失礼だな」

「だって、そう思わない?」

「いや…うん、まあ…」

「だから、少しくらい頑張ってみたら?」

「そんなこと、お前に言われなくても…」

「でも、兄さんが頑張るなら、私も頑張る」

「何を頑張るんだよ」

「それは内緒」

「なんなんだよ、それ」

「私のはどうせ、叶わない願いだから」

「そうなの…か?」

「そうだよ」


 咲希は「だから、ね?」と微笑んで、


「私がきれいに諦められるように、頑張んなよね」

「え?高校、うちに行くの辞めるのか?」

「それとこれとは話が別。今の調子なら問題ないと思うけど?」

「そ、そうか…。なら良かった」


「じゃあね」と手をヒラヒラと振り、背中を見せて部屋を出ていく咲希


 ぼんやりとその後ろ姿を見送りながら、咲希も大きくなったな、なんて親目線で、昔の事を思い返すと感慨深いものがある



 俺はお前のお兄ちゃんとして、ずっと傍にいるからな


 だから、俺も頑張るから、お前も頑張れよ





 さて、Lineの返信…どうしたもんか…



 そう俺が思案していると、「ガチャッ」と部屋の扉が開いて、振り返ると咲希がニヤニヤしながら俺を見ている


「な、なんだよ!」

「兄さん。デートにでも誘ってみたら?」

「な!?バカ!お前…!」

「じゃね~」




 全く…


 そんな簡単な話じゃないんだよ…





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