第11話 この八神くん
あれからスマホを見る度に、Lineの通知が来ていないか確認してしまう。
もちろん、七瀬さんからの
そして当然、来る通知は奏汰や男連中からだけで、彼女からのメッセージはまだ一度もない。
いや、年が明けてすぐに、「あけましておめでとう。今年もよろしくお願いします」と、新年の挨拶メール的な物は俺から送った。
そして返ってきてのはよくある「あけましておめでとう」のスタンプのみ
うん。そんなもんだよね
そしてその後、俺から送ることも彼女から俺にメッセージが来ることもなく、今に至る
そんなに気になるなら自分から何かしら送ればいいだろ、と思われるかもしれないけど、ちょっと考えてみてほしい。
クリスマスの時は、瑠香さんのお膳立てがあったからこそ、ああいう展開になったけど、彼女のような誰もが知る美少女と、俺のようなカースト底辺の男子が友達になり、しかも連絡先を教えて貰えるなんてありえない
教えてもらったこのアカウント、いったい何人の男子が欲しがることだろう
あれからそんなことばかり考えながら、気が付けば冬休みも残りあと僅かとなっていた
たぶん彼女から俺に送ってくることはまずないだろうし、かと言って、なんて書いて送ればいいんだよ…
でもあの時、少しでも彼女のためになれればと思ったのは間違いなかった
(仕方ない…送るか……)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
今…いや、あれからずっと私は…七瀬彩香は悩んでいる
それは、八神くんにLineするかどうするか
元々、お姉ちゃんの事があったから、名前だけは彼の事を知っていた。
お姉ちゃんはずっと、彼にもう一度会って、ちゃんと感謝を伝えたいと常々言っていた。
それは痴漢に遭ったこともそうたけど、そのおかげ、と言えばなんだか微妙だけど、あんなに素敵な彼氏と出会えた。
だって、リアルに守ってくれる王子様なんだもの。
だから、私も協力したいとは思ってた
でも名前だけで、どこの高校に通ってるかも分からない彼を探すなんて、そんなの私には無理だった
そして私は「運が良ければうちの高校にいるかも」なんて思って、殆ど諦めてた頃にクラスメイトから、柊くんの友達の名前が八神遥斗くんというらしい、という話を聞いた。
お姉ちゃんが探してる男の子と同じ名前
柊くんは女子に人気の男の子で、私もちょっといいな、なんて思ってた。でも、彼の口から「はると」という名前が出た時に、私は咄嗟にその呼ばれた男子を探した。
けど、その子は急いで走って行っちゃって、顔は見れなかった。だから、私はどんな子なのか気になって、柊くんと同じ部活だと言うから、見学に行くことにした
体育館の二階から見てると、私の方をチラチラと男子が見てるのが分かったけど、そんなのはもう慣れっこだからよかった。それよりも、八神遥斗くんがどんな子なのか、そればかりで頭の中が一杯だった
「ほら、七瀬さん。あの柊くんとよく話してる男子、あの子が八神くんよ」
見てみると、私が想像してたよりもずっと普通の男の子で、声を挙げてお姉ちゃんを助けてくれた、そんな正義感が強くて勇気があるような感じには見えなかった
(本当にあの子なの?)
「でも八神くんって、いつも柊くんと一緒にいるんだよね」
「そうそう。なんでだろ」
「ね。つい見比べちゃうけど、可哀想」
「それは言い過ぎだよ」
「ね、七瀬さんもそう思わない?」
「え?…ああ…そう…なのかな…」
「でも、やっぱり柊くんカッコいい」
「ホントだよね」
隣で楽しそうにそんな会話してるけど、なんだか気分が悪くなってるのに気付いた
だって、お姉ちゃんを助けてくれたかもしれない子が、そんなふうに笑いものみたいにされてるのが嫌だった
自宅に帰り、大学から帰ってきたお姉ちゃんに彼の事を伝えると、「本当に!?」とビックリして、しかも少し涙ぐんでて。
本当に…そんなに会いたかったんだね
でも、彼がお目当ての八神遥斗くんなのか疑ってた私は、彼の特徴なんかを話してみた。すると、「そうそう、いかにも見た目は普通の男の子で、それなのに、あんなに勇気があるなんて、凄いよね」と
そっか。そうなんだ。
本当にあの子が、八神遥斗くんなんだ
その後、テスト前に図書館で私の噂話されて嫌な気持ちになってた時、柊くんはカッコよくあの場の空気を変えて連れ出してくれた。
良かった…なんて思って柊くんの方を見たら、その後ろには八神くんもいて。
その顔は、ホッとしたような、安心したような表情だった
やっぱり、お姉ちゃんを助けてくれたのは、この八神くんなんだ…
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