第3話 ファーストコンタクト


 周りの友達には笑顔で接しながらも、その表情には、微かに悲しみや憤り、そして、諦めのようなものが伺える


 辛そうな、そしてそれを押し隠すような、そんな、切なくなるような表情には、俺にはどこか既視感があった


(可哀想に…)


「ちょっと、遥斗…」

「え?」


 図書館なので小声で話しかけてくる奏汰


「ここで勉強するの、やめる?」

「…どうしようか」


 奏汰も察したようで、そう提案してきてくれたけど、でも…


「それとも、王子様になる?」

「は?何言ってんの?」

「だって、どう見ても嫌がってるでしょ」

「だよな。で?なんで王子様?」

「この状況って、ほとんど見せ物じゃん。助けてあげないと可哀想だよ」


 そう言われて、気付いた


 俺も、同じだ…


 可哀想だなんだって思ってても、俺もここにいる男子連中と同じだ。だって、高嶺の花だとか言って勝手に持ち上げて、それこそ好奇の目で見てたんだよな


「奏汰…俺も…同じだよ…」

「遥斗?」

「俺も…なんだかんだ言っても、ああいう目で彼女の事を見てたんだな…」

「遥斗…じゃあ、どうする?」

「………」

「ここから他の所に移ってもらおうか」

「いや、まだ何も言ってないじゃん」

「もう、その顔で分かるよ」

「…助かる」

「長い付き合いだからね」



 奏汰はニッと笑うと、スタスタと歩いて行くので、その後を俺も追う。


「みんな、捗ってる?」

「あ!柊くん!」

「ほら、ここ、図書館だから静かに…」

「はぁ…はぃ…」


 軽くウィンクして悪戯っぽく「ね?」と微笑みかける奏汰。

 やば…カッコ良過ぎ…俺でも惚れる…


 ほら、女子達がとろん…ってなってる…

 ハッ!七瀬さんまで…!

 …うん、まあ、これはもう仕方ない…



 でも奏汰の登場で、室内の空気は一変する


 それまでは、男子の七瀬さんに対する好意が充満してたような図書館が、今度は女子の奏汰へのそれに書き換えられた


 イケメン恐るべし…


「なんかここだと勉強しにくそうかな。遥斗、他所に行こうか」

「へ?あ、うん」

「じゃ、じゃあ私達も…」


 そう言って奏汰に付いて行く女子達に、七瀬さんもその後に続く


 廊下を歩きながら、前方で楽しそうに女子達と話しながら歩く奏汰を、俺は最後尾から一人眺める


(結局、助けたのは奏汰だったな)


 俺は横にいただけで、何もしてない。

 でもまあ良かった。どうせあそこじゃ勉強する気にもならなかったし、そもそもあんまり勉強したくなかったし


「柊くんも勉強?」

「うん。テスト前で部活もないしね」

「この前、見学行って見たよ!」

「あはは。ありがとう」

「真剣な顔で打ち込む姿も…」

「あはは…」

「ねえ!今度、一緒に勉強会開かない?」

「ああ、それもいいかもね」

「やった!」

「でも、遥斗も一緒に、だよ?」

「え?…ああ、うん…」


 くっ…!

 露骨!!露骨に嫌そうにすんなよ!

 誰だよ、何様だよ!


 …と、心の中で怒り心頭ながらも、スンと冷静を装うイケメンの友人Aな俺


「あ!でも俺、彼女いるから」

「「「「え!?」」」」

「うん。莉子りこのいないとこで他の女の子とお勉強、っていうのは…ね?」

「う、うん…そうだね…」


 莉子っていうのは奏汰の彼女で、俺も知ってる女の子。なぜなら、莉子ちゃんも奏汰同様俺達と古い付き合い。

 そう…小五の時にできた彼女…というのは、この莉子ちゃんのこと。

 あれだけ女子にモテても誰かに靡くことなく、奏汰はずっと莉子ちゃん一筋なのだ



 打ちのめされた女子らを見て、少し満足した心の狭い俺


(さ、帰ろ帰ろ)


 俺は短期集中詰め込み型なんだ。まだテストまでは日にちがあるし、スマホでゲームでもしようと、そんな事を思っていると、前を歩いていた七瀬さんが振り返る


「八神くん、ありがとうございます」

「へ?」


 あ、ビックリし過ぎて、素で「へ?」とか言っちゃった。どうしてくれるのさ


「え…あ、いや、あの…俺は何もしてないから…えっと…」

「そうですか?」

「はい…声かけたのは…奏汰ですから…」


 つられてこっちまで敬語になっちゃうよ…

 ああ…でも、やっぱり可愛いな…


「八神くんは、や・が・み・は・る・と・くん、ですよね?」

「ん?はい?」

「ですよね?」

「はい…たぶん…」


 たぶんじゃなくてそうだろ

 何言ってんだ俺は…


「やっとお会いできました」

「え…あぁ…はい…そう…ですね…?」


「ふふふ…」と微笑む彼女は、何か光線でも出てるんじゃないか?と思うくらいキラキラして見えて、俺はゆっくりと顔が熱くなっていくのが分かる


 え!?ま、まさか、本当に?奏汰が言ってたのはマジだったの?


「姉が、あなたに会いたがっているんです」



 はい?



 彼女とのファーストコンタクトは、あまりにも思いもよらない方向からのもので、この時の俺は、ただ混乱するばかりだった




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