第2話 何処かで見たあの顔


 実際この日、本当に七瀬さんは何人かの友達と一緒に、体育館に見学に来ていた。

 二階から俺達がバドミントンやってるの見てたけど、みんな七瀬さんに気がいって集中できなくて、それでまた本田さん、あ、本田さんっていうのはキャプテンで、まあ、また怒られて

 うん。怖いけど、いい人なんだよ?


 そんな感じで何が何だか分からないまま、今日の部活は終わった



 そして家に帰る途中、俺は奏汰に聞いてみた


「なあ、なんで七瀬さんのお姉さんが俺の事知ってるんだ?」

「それは教えてくれなかったんだけど、聞くの普通逆じゃない?」

「そうなの?でも、俺もお姉さんいるとか、今日初めて知ったよ」

「うん。でも、聞いた感じだと嘘じゃないみたいだし、そのお姉さんの話からお前の事を知った、っていうのは間違いないね」


 ん~…分かんないな…

 七瀬さんのお姉さん…お姉さん……


 うん。考えてもなんの接点も思い浮かばない


「でも俺、マジでお姉さんなんて知らないんだよ」

「本当に?」

「うん。会ったこともない」

「ん?じゃあどういうこと?」

「俺が聞きたいよ」

「だよね」



 二人で考えてみるけど、答えが見つかるわけもなく、この日はこのまま家に帰った





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「あ、ただいま」

「…おかえり、兄さん」

「う、うん」

「じゃ、私は部屋行くから」

「うん。頑張れよ」

「言われなくても私は大丈夫だから」

「ごめん…」

「………じゃ」


 妹の咲希さきは中学三年で、今年高校受験を控えている。

 ちょっと前までは「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」と俺の後ろをついて回ってたのに、小学校高学年くらいから、いつの間にかこんなツンデレになってしまった。いや、デレてないからただのツンだな…なんか悲しい…


 でも、いつも玄関で待ち構えるの…ちょっと怖いんでやめてもらえないかな…


「何か言った?」

「え!?」


 そんな事を考えてた俺に、登りかけた階段の途中で振り返り、咲希は氷の眼差しで、吐き捨てるようにそう言い、心なしかその頬は少し紅潮している


(普通に怖ぇな…)


「なに?」

「え…別に何も言ってないよ…」

「そう…」

「うん…」


(そんな顔赤くしてまで怒らなくていいのにな…)


 後ろ姿を見送りながら、こいつもそういう年頃なんだなと、俺は自分を納得させることにした




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 その後、当たり前だけど、七瀬さんと絡むようなことはなく、日々過ぎていく


 もちろん、俺もどうにかなるとか思ってないし、あの奏汰の話も忘れ始めた頃、二学期の期末テストが近付いてきていた



「遥斗。教えてよ」

「なんでだよ。俺とたいして成績変わんないだろ」

「じゃあ、一緒にテスト勉やろうよ」

「それこそなんでだよ」

「だって、一人だとやる気出ないじゃん」

「まあ、それは確かにな」

「じゃあ、いいよね?」

「ん~…」

「二人は本当に仲良いよね」

「あ、本田さん」

「お兄ちゃんがいつも言ってるよ?あいつら息が合いすぎててキモい、って」

「なんだよそれ!」


 そう。このクラスメイトの本田さんは、バド部のキャプテンの妹さん。

 うちとは違い本田家の兄妹は仲がいいようで、羨ましい限りだった


「本田さんもお兄さんと一つ違いだよね」

「ああ、八神くんちもそうだっけ」

「仲良さそうだよね」

「どうだろう。普通かな」

「うちの妹なんてそっけないし、怖い顔でいつも玄関で待ち構えてるし、小さかった頃が懐かしいよ」

「待ち構えてるの?」

「うん。俺が帰るといつも玄関で仁王立ちしてるよ」

「はは♪なによ、それ」

「何故か毎日出くわすんだよね。タイミングが悪いのかな…」

「…それ、もしかして…」

「え?なに?」

「ううん、なんでもない」

「遥斗の妹はこいつに似て可愛いんだよ」

「奏汰…何言ってんだよ…」

「柊くん?それだとまるで、八神くんまで可愛いみたいに聞こえるよ?」

「え?可愛いよ?」

「だから何言ってんだよ!」

「そっか。八神くんはモテるんだね」

「モテないから!」

「だって、みんなの憧れの的、柊くんのお気に入りなんだもん」

「だから違うってば!」

「え?俺は遥斗のこと好きだよ?」

「いや、だからそういう話じゃないって!」

「ははは♪分かったわよ。じゃ、邪魔者は帰るわね」

「…くっ…」




 結局、奏汰に言われてそのまま図書館へ


「ガラッ」と扉を開けて室内に入ると、テスト前週間で部活動も中止となっているし、何人もの生徒が真面目に勉強している。

 が、すぐに少し異様な雰囲気に気付く


 それは、ある一角に対するもので、俺もそこへ目を向けると


「遥斗。あそこ、七瀬さん達いるね」

「…ん…みたいだね」


 そう。一緒に体育館にも見学に来てた友達とここにいる七瀬さん。

 でも、みんなからチラチラ見られたりヒソヒソ話されたり。たぶん、本人も気付いてると思う。

 なんか、可哀想だな…


「遥斗、どうする?」

「…いや、どうもしない」

「なんで?」

「なんでも何も、ここには勉強しに来たんだろ?それに、俺には関係ない人達だよ」

「そうかなぁ」

「うん。ほら、あそこ空いてるから」

「分かった」


 そう言って空席に向かい歩いて行く途中、彼氏はいるのかやら声かけろやら、やっぱ可愛いよな、付き合えないかな、なんて、そんな声ばかりが耳に入る。


 これなら本人の耳にも入るよな。こんなの、七瀬さんもいい気はしないだろう。

 それより、なんで周りの友達はここから連れ出してあげないんだ?気付いてるだろ?


 高嶺の花だと思って、遠くから眺めるだけだと思ってた人が、なんだか可哀想に思えた


 そう感じてふと目線を彼女にやると、


(あれ?…あの顔、何処かで見たような…)





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