42.理香
「ななななな、なんだこの男はーーーー!!」
いつの間に帰っていたのか、父である渉の叫ぶ声が聞こえた。
テッペイのキスに陶酔してしまっていたルリカもさすがに気付いて、パッと唇から離れる。
「違うの、お父さん、これはその……」
「きさまぁぁああ!!」
普段は温厚……ではないが、それなりに普通の父親が、拳を作ってテッペイに殴りかかっていく。
テッペイはその拳を右手のひらでパシッとはじいたかと思うと、左フックを繰り出した。止める間もない。
「ぐふっ」
「きゃあ、お父さん!」
「あ、やっべ。まともに入った」
ドサっと音を立てて倒れる渉。どうやら気を失ってしまったようだ。
人に殴られたのなんて、初めてに違いない。
「ちょ、なにやってんのよテッペイーー?!」
「だって、殴りかかってくるんだもんよ」
「だからって、殴り返さないでよ! 一発くらい受けてやるっていう気概を見せなさい!」
「やだっつの、いてーのに」
孕ませた女の父親を殴り倒す男が、この世のどこにいるというのか。ここにいた。
渉と一緒に帰ってきていた弟の
「ははは! すっげー、この人がテッペイさん?!」
「理香とテッペイくん、ちゃんと結婚することになったのよー」
「そうなんだ! よかったね、お姉ちゃん!」
京太はテッペイに近付くと、もう親しく話している。テッペイは誰とでも仲良くなれるし、京太もコミュニケーション能力は高いので、楽しそうだ。
家族が楽しく話している姿を見るのは嬉しい。できれば、父親とも上手くやってほしかったが。
「お父さん気絶しちゃったし、ビールでも出しましょうかテッペイくん」
「やった、ラッキー」
「まったく、お父さんったらこんなところで寝ちゃって、邪魔ねぇ」
「あー、俺、運んどくぜ。寝室どこ?」
そういうと、テッペイは意識のない渉をお姫様抱っこした。このことが知れたら、渉はショックでまた寝込むに違いない。
一華の指示で渉が寝室に放り込まれると、夕食を急いで作り、四人で乾杯する。
「めでたいわねー。妊娠して帰ってきたときにはどうしようかと思ったけど」
「ホント、結婚できてよかったよね、お姉ちゃん。おめでとう!」
「ありがと、京太」
「テッペイさんみたいな兄貴ができるの、嬉しいなー」
みんなでわいわい食事を取るのは嬉しいが、やはりここに父親がいないことに引っ掛かりを感じてしまう。
反対されそうだと思って寝室に目をやると、一華がにこりと笑った。
「理香、お父さんのことは気にしないで。お母さんが上手く言っておいてあげるわよ。反対なんかさせないから!」
「うん……ありがとう、お母さん」
父親の扱いが一番上手い母親が言うのだから、大丈夫だろう。
事実、途中で起きてきた渉を、一華は上手く言いくるめて納得させていた。
今日は泊まっていってという一華に、渉は理香と同じ部屋はダメだ、客間で寝かせろと言って譲らなかったが。
そうして別々の部屋に眠ることになったルリカとテッペイだが、周りが寝入った時刻になると、テッペイがこっそりルリカの部屋に入ってきた。
なんとなくそんな予感がしていたので、ルリカも起きて待機している。
「なんだ、起きてたのかよ。夜這いしようと思ってたのによ」
「だと思った。でもダメだからね、妊娠してるんだから」
「げー、マジかよー」
「一緒に寝るだけなら、いいよ」
そう言って上布団をめくり上げると、テッペイは遠慮することなく入り込んでくる。
「しばらくエッチ禁止かー……しょうがねぇな、キスで我慢するか」
そういうとテッペイは、目元や鼻先、おでこにこめかみ、色んなところにキスをしてくれた。
ちゅっちゅと音を立てられ、そのくすぐったさにルリカはクスクスと笑ってしまう。
「なんだよ?」
「んー、なんか幸せで、笑っちゃう」
そういうと、今度は唇にちゅっと軽くキスされた。
ちょっと物足りないなと思っていたら、テッペイは視線を下げてルリカのお腹を見ている。
「このお腹ん中に、子どもがいるんだよなー」
不思議そうに、しかし感慨深そうにルリカのお腹を撫でるテッペイ。そしてどこからかスマホを取り出すと、カメラロールを立ち上げた。
「今もこうやって、動いてんだもんな」
再生される、子どもの心音動画。
トトトトトトトトト……という早い鼓動の動画を、寝転んだまま二人で眺めた。
それをじっと見ているテッペイの顔が印象的で、ルリカはぎゅっとテッペイに寄り添う。
何度かその動画を再生していたテッペイだが、満足したのかほっと一息ついて、スマホを枕元に置いた。
「おい」
「なに?」
顔を上げると、近い位置にテッペイがいて。
なぜか少し膨れっ面をしている。
「あのな、あんま言わねーから、よく聞いとけよ」
「うん? なに?」
「理香」
本名を言われて、ドキンと胸が鳴る。
普段することのない真剣なテッペイの顔に、ドキドキさせられる。
「お前のこと、愛してるからな」
「……ええ?! なんて?!」
「聞き返すんじゃねーよ! めっちゃくちゃ恥ずかしーんだっつーの、俺は!!」
「え、だって前、愛とかわかんないって言ってたよね?!」
「今もよくわかんねーよ!」
そんな風に言うテッペイの顔は、すごく照れていて……かわいい。
「わかんねーけど、適当には言ってねーよ。俺、ルリカのことは前から好きだし。これが愛っていうなら、多分そうだろ」
「やだテッペイ、照れててかわいー!」
「くそ、もう黙れって!」
そう言ってテッペイは、またルリカにキスをした。
嬉しくて、くすぐったくて、あたたかいキスだ。
「どうしよ、テッペイ……めちゃくちゃ幸せ」
「あー……うん、俺も」
「ねぇ、テッペイ」
ルリカはテッペイに最高の笑顔を向けて。
「私もテッペイのこと、愛してる」
そういうと、テッペイは最高のイケメンで「理香」と呼び。
この後、めちゃくちゃキスされた。
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