06.パーティーが終わって
「わり、俺も明日の朝イチで彼女に会いに東京に行くから、帰るな!」
拓真とミジュが帰った後、ヒロヤというライトジェットの髪型をした男の子が帰っていく。
「僕たちもそろそろ帰ろうか、結衣」
「うん」
今度はルリカと同い年だという大人カッコいい大和という人と、結衣という今時のかわいい女の子が寄り添って帰っていった。
「私も帰るけど、一ノ瀬氏はまだいていいからね!」
「送りますよ。補導されたら困るんで」
「そっか、一ノ瀬氏は二十歳になったばっかりだしね!」
一ノ瀬という背の高い落ち着いた男の子と、この中で一番年上だという中学生のような女性が一緒に帰っていく。
後に残った三島夫妻と晴臣が後片付けを始めたので、ルリカもそれを手伝った。
例によってテッペイはなにもせずに、お酒を飲みながら残った料理をつまんでいる。
「ったく、みんな帰んの早いよなぁ」
「なに言ってんの、テッペイ! もうとっくに十時回ってるんだから、お
なんだかんだと、四時間以上もここで楽しんでしまった。
地元への終電は十一時八分発だから、そろそろここを出ておきたい。
「帰ったらヤらせてくれんの?」
「バカッ! 誰がヤらせるかっ」
「じゃー帰んねぇ!」
「わけのわかんない駄々をこねるんじゃないッ!!」
「ルリカが約束してくれるまで、ここに居座ってやる!」
「晴臣くんに迷惑でしょーが!!」
いつものように言い合いしていると、それを見ていた晴臣がプッと吹き出した。
「ははっ、ルリカさんと鉄平さん、いいコンビっすね!」
「え、ど、どこが??」
「鉄平さんとそんな風に言い合える人、そうそういないっすよ」
後ろでは三島がうなずいていて、なぜかどこか嬉しそうだ。
「ルリカさん、どうするっすか? 別に鉄平さんを置いていっても、俺は問題ないっすけど」
「でも、そういうわけには……連れて帰るよ。荷物を鉄平の家に置いてあるし」
「ルリカ、約束しろー。じゃないと俺は帰らねーからな!」
「わかったから、もう!」
そう言うと、テッペイは『お?』という顔をして、フラフラと立ち上がった。
「うし、帰るか」
切り替えの早い行動に、周りも呆れ気味だ。
「大丈夫っすか、ルリカさん」
「テッペイのあしらいは慣れてるから、気にしないで。あ、遅くなっちゃったけど、このパーティーの会費はいくら……」
「ルリカさんの分は、もう鉄平さんが払ってくれてるから大丈夫っすよ」
「あ、そうなんだ……」
お礼を言おうと振り返ると、テッペイが酒臭い息を吐きながらガバッとルリカの肩を抱いてくる。
「ヤらせてくれんなら安い出費だ!」
「あんた、本当にサイテーだよね。お礼いう気なくしたわ」
胸に移動しようとした手をバシッと叩いてテッペイを引き剥がすと、ルリカ一人でさっさと玄関に向かう。晴臣がすぐ追ってきて、コートを着させてくれた。
「晴臣くん、本当に迷惑掛けちゃってごめんね」
「平気っすよ。俺ら、いつものことなんで慣れてますから。鉄平さん、あんなですけど、たまにはいいところもありますし。……多分」
最後の多分というところは、さっと目を逸らされてしまった。
ネットでダメ男は、やはりリアルもクズ男なのだろうか。
「あ、でも、バレー中はすげぇ頼りになる人なんで! 男の俺から見ても、めっちゃカッコイイっすよ、鉄平さん。今度良かったら練習見に来てください!」
一応、頼られる部分もあるにはあるらしい。ただのクソ男じゃなかったと、ルリカは少しホッとする。
「ありがとう。まぁ、機会があれば……ね」
玄関でそんなやりとりをしていると、テッペイが三島に支えられながら廊下を歩いてきた。
「大丈夫っすか、鉄平さん」
「あー、いけるいける。何回でもいける」
「芳佳、タクシー呼んでやって。このまま帰らせるのは危ない」
三島は後ろにいる妻にそう言って、自分は財布からお金を取り出した。
「これ使って」
「え、そんな、大丈夫です! 歩いて帰れますから!」
「鉄平はこんなだし、駅まで一人で歩くのは大変だよ。もうバスもないし」
「ラッキー、雄大さんあざーっす」
三島がルリカに差し出した一万円札を、横からテッペイが奪っていく。
それに対して怒るでもなく、三島はにっこりと笑顔をルリカに向けた。
「鉄平の連れてきた子が、しっかりしていてよかったよ。鉄平はこういうやつだけど、根はいいから。……多分」
やはり多分のところは目を逸らされてしまった。
ルリカも同じ気持ちだ。テッペイは悪い奴じゃないと思う。……多分。
「みなさん、本当にありがとうございました。今日、すごく楽しかったです!」
ルリカはそう言って、晴臣の家を出た。
タクシーに乗って、テッペイの家に帰るために。
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