04.テッペイの家を出て
鎖骨に唇を当てられたルリカは、ゾクンと体を震わせて叫んだ。
「バカバカ、あんたそれ、レイプだから!! 警察呼ぶよ!!」
「え……マジ?」
一応、こんな男でも、レイプをしてはいけないという認識はあったらしい。
ルリカの胸元からピュンと遠ざかったテッペイは、少し混乱してるようだ。
「よ、呼ぶのかよ、警察?!」
「呼ばないけど!」
「じゃあヤらせろ!」
「やだよ、こんな汚ない部屋でなんて!!」
胸元を押さえながら座り直すと、テッペイはすっくと立ち上がる。
「な、なに?」
「よし、片付けるぞ。ルリカも手伝え!!」
「……は?」
そう言ったかと思うと、テッペイはいきなりあちこちを片付け始めた。部屋が綺麗になったらヤれるとでも思っているんだろうか。あんなものはただの言い訳にすぎないというのに。
本当にこの男はバカだなぁと思うと、口は勝手に吹き出し、コッソリと笑った。なにより、一生懸命片付けているテッペイが、ものすごくかわいい。
「おい、ルリカ! さっさと手伝え!!」
「えー? もう、しょうがないなぁ」
どうして遊びに来て、人の家の片付けを手伝っているのだろうか。しかも、ヤられるために。
まぁやらせないけどと思いつつ、テッペイの超人的な頑張りで、部屋は次々と片付けられていったのだった。
部屋のあちこちがスッキリとなったテッペイは、ここ一番のドヤ顔を見せている。
「よし、これで綺麗になっただろ!!」
「本当、すごい綺麗になった! やればできるんじゃない、テッペイ!」
「じゃあいいよな、ヤらせろ!」
「ざんねーん、もう約束の六時になっちゃうよ。そろそろ行かないと遅れちゃうんじゃない? クリスマスパーティー」
テッペイは下半身に集中するあまりすっかり忘れていたようで、振り返って時計を確認している。
「ね?」
「大丈夫だ! 多少遅れても問題ねー!!」
「ダメでしょ!!」
「じゃあなんのためにこの部屋片付けたっつんだよ!!」
「部屋を綺麗にするために決まってるじゃない!!」
「ちくしょーーーー、俺の純粋な気持ちを踏みにじりやがってーーーー」
「あんたの気持ちは不純しかないわ!!!!」
真剣に悔しがっているテッペイを見て、ルリカはまたちょっと笑ってしまった。そうして落ち込んでいる姿に、ほんの少しだけ可哀想なことをしてしまったかと思う。ほんの、少しだけ。
「ほら、お酒の買い出しはテッペイが頼まれてるんでしょ。買いに行かないと」
そう促すと、テッペイは魂が抜けたようにフラフラと財布を持って立ち上がった。ルリカも一緒にマンションを出て後をついていく。
テッペイはまだ納得いかないようで、スーパーに到着してもまだぶつくさと言っていた。お酒を選びながら、心底悔しそうな顔を浮かべている。
「くそ、部屋片付けたら一発ヤらせてくれるっつったのによ……」
「言ってない言ってない」
「俺のジェットキカンボウMAXをどうしてくれんだ!」
「そういうこと、スーパーで叫ばないでくれる?!」
お酒売り場だから子どもはいないものの、周りの目が気になってキョロキョロ見回す。
テッペイは「今日はやけ酒だ」とグチグチ言いながら、お酒を次々にカゴへと突っ込んでいった。
「そういや、ルリカは酒飲めんの?」
「飲めるけど、たくさんは飲まないよ。今日中に帰らなきゃいけないし」
「一人暮らしだろ、別に帰らなくてもいーじゃん。俺ん家泊まっていけよ、な!」
またもガバッと大きな腕に抱き寄せられる。この男はまだ諦めていないのかと、さすがのルリカも頬をひきつらせた。
「ヤダ、絶対に帰るから!」
「遠慮すんなって!」
「揉むなバカッ!!」
「いてっ」
頬を張ってやると、やはり「くっそー」と言いながら不満そうにしている。そんな男を見て、ルリカは眉を下げながらも笑った。
自分でもバカだと思うが、テッペイのこういうところがかわいいと思ってしまうのだ。
口を尖らせるテッペイを見ていると、どうにも愛おしくて。
しかしこの男だけはダメだと、頭のどこかで警鐘が鳴っている。
だから、まだもうしばらくは様子を見ていたかった。
ルリカは、ゲームでのテッペイしか知らない。
リアルの彼は、どんな人なのか。どんな友達がいるのか。
周りの人にはどう思われているのか。
知らない人だらけのクリスマスパーティーなんて憂鬱だったが、そう考えると少しだけ楽しみになった。
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