03.テッペイの家
テッペイ曰く、最近塗り替えをしたから新しく見えるだけで、それなりの築年数ではあるらしい。
そうは言うも、おそらく二十年も経っていないだろう。入り口にはセキュリティゾーンがあるし、近代的な建物という感じがビシバシした。
テッペイは慣れた様子で中に入り、エレベーターのボタンを押して最上階まで連れていってくれる。
どうにも落ち着かずキョロキョロと周りを見ていると、テッペイは嬉しそうに笑っていた。
「ここが俺ん家。まぁ入れよ」
テッペイが扉を開けると、そこにはスケートボードやらバスケットボール、バレーボール、ショートスキーの板からインラインスケート、野球のグローブやバットまで、色んなものが散乱している。
「汚ッ!!」
「そうか? これでもルリカを呼ぼうと思って片付けといたんだぜ」
テッペイがどんどん中に入っていき、ルリカも仕方なく玄関に靴を置いた。
ゴミは落ちていないようだが、なんだかとても雑然としている家だ。
物がたくさんあるというのに、収納が足りていないのか上手く片付けられないだけなのか、すべて床に溢れてしまっている。
しかし、狭いという意味ではない。むしろ、一人暮らしには十分広い、広過ぎる家だ。
「もしかして、リビングダイニング以外に二部屋ある?」
「おう」
「贅沢!!」
「前の家がめっちゃ狭くてよー、三ヶ月前に引っ越したんだ」
「そのお金、誰が出したの!」
「親」
「ほんっとサイッテーだよね?!」
ルリカがそう言っても、テッペイは気にもせずにカラカラと笑っている。
「大丈夫だって、バイト増やす予定だから!」
「増やしてないんじゃん?!」
「いいから、まあ座れって!」
ソファに促されて、ルリカは仕方なくそこに座った。
「テッペイのご両親って、お金持ちなの?」
「ぜーーんぜん。ただのリーマンとパート」
「あんたのお父さんとお母さんに同情するわ、ほんと……」
「あ?」
「親孝行しなさいってこと!」
「子どもは生きてるだけで親孝行してるもんなんだよ!」
「それ言っていいのは、子を持つ親の方で、子どもが言っちゃダメなやつだから!! せめて自立しなさいっ! 情けないっ!」
「へーへー」
テッペイの両親のことを考えると不憫で、つい声を荒げてしまう。しかしテッペイはなにも意に介していない様子だ。
同じようにソファに座ったテッペイは、買ってきた本に手を伸ばすと、堂々とエロ漫画を読み始めた。
「ったくもう……なんか疲れちゃった。飲み物ない?」
「んー、冷蔵庫適当に見ろよ。なんか入ってんだろ」
「あんたね! 私、お客様なんだけど?!」
「どうせここに住むんだろ」
「住まないってば!!」
何度も叫んでいると、本当に喉が渇いてきた。
キッチンに行くと、そこは思った以上にピカピカとしている。つまりは、ほとんど使われていない様相を呈していたわけだが。
勝手にパカッと冷蔵庫を開けると、スポーツドリンクとビールが大量に入っているのが飛び込んできた。他にはほとんどなにも入っていない。
ルリカは呆れながらスポーツドリンクを手に取って、ゴクゴクと飲み干す。
「ルリカー、俺もビール」
「私ビールなんて飲んでないし!! スポドリにしなさいっ」
「んだよ、飲めばいいのによ」
ドンッとテッペイの目の前にスポーツドリンクをペットボトルのまま出した。この状況でお酒なんか飲ませたら、なにをされるかわかったものではない。
ルリカはフンッと鼻息を吹き出しながらも、エロ漫画を片手にペットボトルを口に含むテッペイの隣に座った。チラリと横目で見ると、その手にある本はもう半分近くまで進んでいる。
「読むの早いね、テッペイ」
「エロだけ読んでるからな」
「あっそ」
「ルリカ、これ読んだことあるか?」
「ないよ!」
目に入ってきた漫画は、ちょうど真っ最中の場面で、ルリカはサッと目を逸らした。
「こういうの読まねぇの?」
テッペイがニヤニヤと聞いてくる。本当にクソ男だなと思いながらも、答えないという選択肢はなかった。負けたような気分になるのは、この男相手だと自分が許せない。
「読まないことはないけど、女性向けの方が多いかな」
「へぇ、興味ないわけじゃねーのか」
「ちょっと、ナチュラルに足を触るのやめてくれない?!」
太腿に伸びてきた手を、ペシッと叩くもテッペイは怯まず、むしろ嬉しそうにルリカを押し倒してくる。
ドサッと音を立てて、ソファーの肘当てにルリカの頭が乗った。
「ちょ、なにやってんの、バカッ!!」
「別にいいだろ」
「よくないーーーー!」
すぐ目の前には、楽しそうなテッペイの顔がある。近い。
無駄に顔だけはいいんだから、とルリカは熱くなる顔を必死に冷却しようとするも、中々抑えられない。
逃げようとバタバタと手を動かしたかったが、それはすでにテッペイに押さえ付けられていて。
「ルリカ、めっちゃいいにおいするよな」
どこか感慨深そうなテッペイの声が、ルリカの胸元から聞こえた。
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