主人公と違和感

 取り合えず、俺は家にいても状況は変わらなそうなので学園に向かうことにした。

「れなちゃんおはよう~」

 登校の終盤。

 校門前でいきなり背中に柔らかい感触が伝わってきた。

「お、おあはよう」

 その正体はれなと同じく学園内で絶大な人気を誇る西園寺 心だった。

 スポーティーなボブに褐色で弾力がある肌。

 彼女が学園で人気があるというのは納得だ。

「ん!おーはーよ!」

 おそれくはれなの友達であろう西園寺に話を合わせておくことにした。

「あれ?今日は普段みたいにおっぱい揉んでこないの?」

 西園寺は冗談と言った感じではなく、どこか困惑した様子で呟いた。

「き、今日は気分じゃないていうか~」

 流石に男の俺がこうして胸に触れるのは道徳的にも法律的にもアウトだろう。

「なにそれ~れな、枯れてる男子みたいーウケる」

 なんて会話をしている間も男たちから見られ続けていたので、俺は西園寺を促し足早に教室へ向かった。


 教室内にはもうほぼ全員が揃っていた。

 だが、俺は元々あまり友達が多い方ではなかったので誰も知らなかった。

 あれ?そもそも、俺の名前って何だっけ。

「今日は遅かったねー」

 俺が荷物を出していると顔普通、身長普通なまさに俺みたいな男子が話しかけてきた。

 だが、俺と違う所が一つだけある。

 男子の左右に肩に美少女が抱き着いていた。

 は?リア充かよ。消〇ろよ!

「あ、ああうん。ちょっとバタバタしちゃってー」

「そういう事だったのかーもう、れなはドジっ子だな?」

 きんもちわっる!イケメンにしか許されない禁断の奥義ウィンクをするな!

 俺らがやったらただのテロだから!

 俺がリア充くんと社交辞令で話してやってると、右肩に抱き着いている金髪ツインテールで小柄な美少女が睨んできた。

「ちょっと!私の井上君とイチャイチャしないでよね!あんたなんて、モテるんだから他に男いるでしょ?」

「...井上君はあなたの物ではありません!私のです!」

 左肩にぶら下がっている美少女が井上君とやらにさらに抱き着いて呟いた。

 ...羨ましい...じゃなくて、公共の場でやるなよ!

「あのー私、もう荷物出しに戻っていいですか?」

 俺は満面の笑みを浮かべながら嫌味ったらしい声でそう呟いた。

「う、うん!」

 井上君はそんな俺の暗黒微笑に頬を赤らめ、声を上ずらせた。

 ...美少女強すぎだろ。

 俺が感心やら嫌悪やらで呆れていると

『そいつは異常よ。あなたに取って大切な人も彼によって洗脳されているわ』

 今の俺の声、つまりはれなの声が脳内に響き渡った。

「は?え?」

 それっきりもう、声が聞こえてくることはなかった。

 こうして、謎を残しながらも俺の学園生活は幕を開いたのだった。


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