第25話 ダイエットの効果が出ています!

 私とスイフト様、それにウィル様とルーリー様がそれぞれの部隊を呼ぶ。

 明日もこの二部隊で行動するためだ。


 全員が集まるとスイフト様が早速切り出す。


「さっき教師から注意事項を受けた。その内容をみんなにも知っておいてほしい。結論から言うと、ロックホーンの群れが二つ以上存在している可能性が高い。

 僕達が見つけた痕跡以外にも他の部隊が多数の痕跡を発見しているみたいなんだ。三方向に別れて調査したにもか関わらず、ね。

 ウィルとも話したんだけど、僕達は群れが二つ以上いる想定で行動する。ロックホーンに遭遇した時のケースに合わせて方針を決めておきたい」


 スイフト様はロックホーンと遭遇するパターンを分けて、その時々に行動すべき方針を話してくれた。

 基本的に先陣を切るのはAクラスのメンバーが中心である私達の部隊。

 特にハナビス様とアニー様だ。


 一つ目、ロックホーン一体のみと遭遇した場合。

 発見したら周囲を警戒しつつ即座に討伐する。


 二つ目、二、三体のロックホーンと遭遇した場合。

 ウィル様の部隊でロックホーンが逃げないように包囲網を構築し、周囲を警戒する。

 その間に私達の部隊で討伐する。


 三つめ、四体以上のロックホーンと遭遇した場合。

 ハナビス様、アニー様を中心に敵を引きつけ、他のメンバーでクレアを守る。

 その間に私やルーリー様をはじめとした後衛が一体ずつ討伐する。


 四つ目、クイーンを含むロックホーンの群れと遭遇した場合。

 私達の部隊でクイーンを討伐する。

 通常のロックホーンはウィル様の部隊で討伐だ。

 通常のロックホーンの数が多い場合は状況に応じて対応するけど、基本的には私とクレアが遊撃として動く。


「木が密集している場所や少し開けた場所など、その場その場で臨機応変に立ち回る必要があると思うけど、基本の方針はこれで進めよう。細かい指示は戦闘になったら僕かウィルから指示を出す。

 ないと思うけど、クイーンを含む二つ以上の群れに遭遇してしまった場合は救援要請を出して、その場で耐えるしかない。発見し次第、すぐに救援要請を出して。何か質問はある?」

 

 いくつか質問が上がり、それにスイフト様が答えていく。

 みんな緊張はしているけど、方針がしっかりと認識合わせできているので、不安はそこまでなさそうだ。

 前世のプロジェクトでもこういうリーダーは頼りになったなぁ。


 やるべきことが目の前にあるので、あまりアニー様とスイフト様のことは考えずに眠ることができた。




 そして、翌日。

 全部隊が準備を終えて整列した。


「今回の魔物討伐は知っての通り、ロックホーンの群れだ。しかし、昨日リーダーに伝えているが群れが二つ以上生息している可能性が高い。昨日と同様、二部隊ずつ三方向へ展開し、これを討て。魔物を発見、討伐できずとも夕刻までには戻るように。


 二つ以上の群れに同時に遭遇した場合は必ず救援要請を出せ。我々教師が向かうまでは何としてでも耐えろ。

 諸君らの実力ならば、必ず今回の討伐を達成できると信じている。


 討伐、開始っ!!」


「「おー!!」」


 教師の激に生徒が一斉に声を上げる。

 領地でお父様がやっていたけど、演説は気合いが入るね。

 前世ではこういうのだるい~とか思ってたけど、生死にかかわるような場面ではこうかはばつぐんだ!!


「僕達も行こう。隊列は昨日の打ち合わせ通りに。


 出発っ!」


 スイフト様の掛け声で出発する。

 隊列はクレアを中心とした後衛が真ん中に、先頭をアニー様、ハナビス様。

 横と後ろをウィル様達の部隊で固める。


 慎重に山を登ること一時間。

 今の所ロックホーンに遭遇することも、異常も見つかっていない。


 以前スイフト様とクレアと魔物を狩りに行った時は一時間くらいで随分と疲れてしまっていたけど、今は全然平気だ。

 訓練の成果と、何より痩せたからかな!


 さらに一時間、山道を進む。

 整備されていない山道は歩きづらいし、神経を使う。

 部隊全体に少しずつ疲労が蓄積する。


「ロックホーン発見」


 アニー様が小声で部隊に告げる。


「周囲に他にいないか確認しながら散開。いないことを確認したら速やかに討伐。行こう!」


 スイフト様を中心にアニー様、ハナビス様が三方向へ移動する。

 私とクレアは中央のスイフト様の後ろで移動だ。

 ウィル様の部隊は別のロックホーンが来ても対応できるよう周囲を警戒している。


 アニー様、ハナビス様が手を上げて周囲にロックホーンがいないことを確認すると、スイフト様が手を上げ、勢いよく振り下ろす。

 

 攻撃の合図だ。


 機動力を奪うため、私が先制でウィンドカッターをロックホーンの前足を目掛けて放つ。

 足を切り裂かれたロックホーンがこちらに気付き、突進してくる。

 ウィンドカッターでは機動力を多少奪えても、足を切断することはできなかったようだ。

 今後の参考にしよう。


 ロックホーンがスイフト様へ接触する前にもう一度ウィンドカッターを逆の足に当て、機動力をさらに奪う。

 クレアが光の盾で補助をしながらスイフト様が迎え撃つ。

 ロックホーンの角を二度、三度といなしている間にアニー様とハナビス様が合流し、二人が剣を一振りするとあっさりとロックホーンを討伐した。


「うん。連携は問題ないし、敵も一体なら脅威にならないね。ハナビスかアニーなら一人でも余裕で倒せる。でも、ここから先はロックホーンの行動範囲内だと思う。みんな油断せずに行こう」




 その後も散発的に一体ずつロックホーンに遭遇し、討伐を繰り返した。

 昼はロックホーンにとって餌を探す時間だから、それぞれが思い思いに行動しているのかもしれない。


 全部で四体程討伐しただろうか。

 群れがどれほどの大きさかはわからないけれど、大きくても十体を少し超えるくらいらしい。

 三分の一から二分の一は倒した計算になる。


 出発から四時間経過後に、休憩を取りさらに進んだ。

 そして、ついにクイーンを発見する。

 その周囲には六体のロックホーンが付き従っている。


 こちらが発見したとほぼ同時に、クイーンは周囲を見渡し始めた。


 その姿に私は一瞬見惚れてしまう。


 他のロックホーンに比べて、角や体が大きいわけではない。

 むしろ体はやや小ぶりだけれど、その角は白金の色を帯びなんとも美しかった。


 場違いなことを考えていると、クイーンが一声鳴く。


「見つかったっ! 雑魚の数が多いけど、みんな作戦通りにっ!」


「「了解!」」


 クイーンの鳴き声と共に駆け出すロックホーンの群れ。

 先頭を走るのはクイーンだった。

 角を正面に構え、突き刺すように突進してくる。


 クレアがクイーンを相手する三人にハナビス様から順番にホーリーシールドの魔法をかける。

 魔法の守りを得たハナビス様が、ギリギリまでクイーンを引きつける。


 突進を接触ギリギリの所で回避して、クイーンの懐側へ斜めに入り込みながら剣を振る。

 しかし、クイーンは驚異的な反応速度で角をハナビス様の剣に合わせ、頭を振り上げることで攻撃を防いでいた。

 突進の勢いは弱まったけど、このままの進路だとクレアの方に行ってしまう。


「くっそ! 捌ききれねぇ! フロスト!!」


「お任せ下さいっ!」


 山を駆け下りてきたクイーンの突進の勢いを完全に殺すことができなかったハナビス様を風魔によってカバーする。

 勢いが弱まり、頭を上げているクイーンに向かって強風を叩きつける。

 頭と体に強風をくらったクイーンは態勢を崩し、ようやく突進の勢いが止まる。


「次の相手はあたしだよ~っ!」


 アニー様がバックラーをクイーンの顔面に向かって横から叩きつけ、角を振らせ無いように剣で牽制する。


 突進の勢いを完全に止められたクイーンはその美しい角で応戦しようとするが、こちらがしっかりと牽制して抑え込めている。

 スイフト様も詰めているし、あの三人ならもう大丈夫だろう。

 私はウィル様の部隊を見る。


 ウィル様の部隊はクイーンを中心に左右に散会したロックホーンを相手にするため、部隊を分けていた。

 前衛二人、後衛一人に分かれている。


 戦況は見るからに不利だ。

 前衛二人が山道を駆け下りてきた三体のロックホーンの突進の勢いを殺しきれずに押されてしまっている。

 このままではそれほど時間が掛からずに突破されて後衛に被害が出るかもしれない。


「スイフト様っ! ウィル様の部隊がっ!」


「くそっ! ハナビス、行ってくれ! フロストはハナビスとは逆を援護! クレアは回復魔法と光の盾でウィルの部隊を掩護だっ!」


 私の声を聞くまでもなく、全体を見渡していたスイフト様が苦い表情で叫ぶ。


「まかせとけっ!」

「了解っ!」

「わかりましたっ!」


 私達三人は同時に走り出した。

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