第24話 残酷な天使
うまく、話せているかな?
うまく、笑えているかな?
いつも通り、できてるかな?
……。
早く、部屋に帰りたいな。
私はクレアを起こして、スイフト様がハナビス様を起こしにいく。
ハナビス様を待つ時間が、私にはとても長く感じられた。
スイフト様の気持ちも、アニー様の気持ちもわからない。
ただ部隊の仲間として、バディとして仲が良いだけかもしれない。
でも、そうじゃないかもしれない。
考えたって仕方ないし、今アニー様に聞いたら立ち直れないかもしれない。
だから、蓋をしよう。
せめて、この魔物討伐が終わるまでは。
ハナビス様がやってくると、スイフト様とアニー様の二人はそれぞれ男女用のテントへと入っていった。
ウィル様とルーリー様は先に戻っていたようだ。
三人になる。
焚火を囲んで暖かい飲み物を入れる。
野営といってもテントが二つあるくらいなのでずっと立って見張る必要もない。
時々三人で周囲をぐるっとするくらいだ。
ハナビス様は最初は寝ぼけていたようだけど、すぐにシャキとした。
クレアは最初からいつも通りしっかりしている。
一方私は、ボロボロだったと思う。
二人に話しかけられても空返事を返すばかりだったんじゃないだろうか。
自分では自覚がなく、返していたと思う。
一度三人で周囲を見回った後、少したったくらいだろうか。
――一で――外――ま――さい――
――フロ――たの――
――――――
不意に、抱きしめられた。
クレアが私の頭を両手で抱きかかえていた。
それだけで、急に目が熱くなる。
堪えられなくなる。
「お姉様、大丈夫ですよ。私がずっと一緒にいますから」
「うっ……あ、あぁ……。うえぇえええ」
蓋をする?
そんなこと、できるわけない。
考えないようにしようとすればする程考えちゃう。
すぐに気持ちは溢れちゃう。
怖いんだ。
想像通りであることが。
怖いんだ。
私なんか見向きされるはずがないって。
怖いよ。
フラれるのが。
怖いよ。
今のみんなとの関係が壊れるのが。
だったら、何も言わない方がいいの?
私は、どうしたらいいの?
どれくらい時間が立ったんだろう。
クレアはずっと私を抱きしめて、ただ頭を撫でててくれていた。
「ごめ、ごめ、グレア……」
「大丈夫ですよ。私はここにいますから」
クレアは何も聞かなかった。
ただ、ずっと一緒にいてくれた。
私がようやく落ち着いてしばらくすると、ハナビス様が戻ってきた。
玉のような汗が流れているのをタオルで拭いている。
汗がそれほどになるまでの長い時間、剣の素振りをしていたんだろう。
私が落ち着くまで。
ハナビス様にまで気を使わせちゃった。
「……。明日は、平気か」
「うん……」
何とも言えない空気のまま、交代の時間まで私達は見張りを続けるのだった。
恋愛なんて何回経験しても嬉しくて、楽しくて、悲しくて、辛いもなんだなぁ、なんてまたポエミーなことを考える。
前世の記憶が思い出せるにしても、結局私自身は十五年しか生きていないんだ。
自分の気持ちに正直でいよう!
今回の魔物討伐が落ち着いたら二人の気持ちを確かめよう。
そして叶うなら、私の気持ちを伝えよう。
朝、目が覚めると、気分は大分良くなっていた。
クレアの胸で泣いて、心を少し整理して。
昨日は随分とクレアに甘えてしまったな。
お礼を言わなきゃ。
「あの、クレア? き、昨日は、ありがと……」
自分で思ってた以上にか細い声になってしまった。
そしてクレアはこう答えるのだ。
「何かありましたか? 私はいつも通り、お姉様と一緒にいただけですよ?」
私は泣いてないって、何もなかったって、そう言うんだね。
それなら、クレアが傍にいてくれるなら、いつも通りに元気で頼れる私でいないといけないね。
「そう。なら、今日も二人で元気にいきましょう!」
「はいっ、お姉様!」
クレアは本当に、天使みたいな子だな。
私の友達にはもったいないくらい。
ありがとう、クレア。
でも少し、残酷だよ。
ちょうどお昼頃、サーマ山脈の麓にあるサーマ村に到着した。
そのまんまのネーミングだ。
サーマ村は人口六〇名という小さな村だった。
今回サーマ山脈で魔物討伐が行われるのは、サーマ村からの大量の魔物を目撃したと救援要請が王都にあったかららしい。
とはいえ、こういった報告はかなりいい加減な物が多く、正確な情報は得られないことがほとんどだ。
特に大量という言葉。
具体的な数字がなく、主観的になりがちなのだ。
例えば王都の騎士団からすれば大量という数は百を超える魔物を想像するだろう。
しかし、村では自分達には手が追えない数を見つけてしまうと、大量な数と認識してしまう可能性がある。
そりゃ、死にたくはないからね。
多少大げさでも討伐隊が来てくれるように大量と言うのも不思議じゃないでしょ。
なので討伐隊兼、先遣隊として学生が派遣される運びとなった。
村に着いて最初の行動目標は山の調査である。
クレアが作ったお昼をウィル様達の部隊と食べ、準備開始だ。
山の調査も昨日から引き続き二部隊で行う。
調査はどれくらいの魔物が存在しているか、である。
サーマ村からはロックホーンの目撃情報が報告されているけど、これも本当か確かめるのもミッションの内だ。
私達は足跡などの痕跡を探すのがメインのミッションになる。
移動の疲れもあるし、戦闘はなるべくさける方針なので浅い所を中心に調査する。
もちろん魔物と遭遇してしまった場合、こちらが戦いたくなくても向こうから襲ってくる。
その場合の戦闘は避けられない。
調査の結果、もし違う魔物であったり、数が本当に大量であったら討伐は中止になると思う。
私達の目標は村の防衛に変わって、騎士団が派遣されることになるだろう。
でも、私は知っている。
ここに出るのはロックホーンで間違いなく、クイーンも存在するのだ。
この魔物討伐の場所と時期はゲームと全く一緒なのだから。
二部隊で調査をしていると、村からの報告は正しかったことがわかった。
私達は実際にロックホーンらしき生き物の足跡と、固いもので傷つけられ、抉られた樹木を発見したからだ。
足跡の数も複数確認できている。
木を抉るのはロックホーンのマーキングの一種で、足跡と合わせると間違いないだろうとはスイフト様の言葉である。
うむ、間違いない!
しっかりと調査結果が得られた私達は村へと戻り、教師に報告を行う。
次は寝床の確保である。
サーマ村のような小さな村では宿泊施設は少ない。
六部隊の全員が集まり、かつ教師達や御者などを含めると四十名を越える人数を収容できる宿なんてない。
数少ない宿泊施設は身分の高い、ごく一部の人達だけが使用できる。
その人達は宿や村長の家などに泊まることになり、他の人達は野営である。
無論、私達は昨日と同じ野営組。
ただ、昨日と違うのはここが村で、ある程度の防備が備わっているということ。
といっても木の柵で覆われているのと、櫓がある程度だけど。
他にも六つの部隊が交代で見張りをすることになっているので、単純に休める時間が長くなるのはありがたい。
夕飯は今日もクレアが作ってくれた。
サーマ山脈で採れるきのこと村で分けてもらったミルクを使ったきのこたっぷりのシチューである。
王都から持ち込んだ鶏肉がよく煮込まれ、ほろろと口のなかで簡単に崩れる。
シチューはきのこと野菜の旨味がしっかりと出ていて、じんわりと体が温まる。
うん、めっちゃうまい!
前世で食べたシチューにも負けてないと思う。
はしたないと思いつつもパンをシチューに浸すことを止められない私を責めないでほしい。
あ、もちろんおかわりしました。
お腹も膨れた所で、各自が思い思いに過ごしていると、教師から班の代表二名が教師達の所へ集まるように命じられた。
はて? なんだろう?
一向に検討はつかないけど命じられたからには行かなければならない。
私達の部隊からはリーダーであるスイフト様と私が行くことになった。
すぐに向かうと私達が一番乗りだった。
そのすぐ後に他の部隊も集まって、最後に来たのはアルヴァン様とジョルジオ様だった。
全部隊が集まったことを確認し、教師が口を開く。
「諸君、本日は移動に調査ご苦労だった。各部隊の報告で気になる点があったため、諸君にも共有する。各部隊の報告でこの山脈にロックホーンの群れが住み着いていることは確定した。
ただし、全部隊から足跡や痕跡の報告があった。行動範囲が広い群れかもしれないが、二つ以上の群れが住み着いている可能性が高い。
この事に留意し、各自行動せよ。危険と判断したら上空に魔法を撃ちあげて救援要請行うことを徹底しろ。以上だ」
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