第22話 あびだぁって知ってますか?

 一学期の部隊が正式に決まったので、訓練内容をみんなで相談して決めた。

 まずは個別に課題を設けてそれに取り組んでいくことになる。


 それぞれの内容は。


 クレア。

 最も重要とされたのがクレアの自衛手段だ。


 以前にサラとスイフト様から動き方などを教わっていたが、まだまだらしい。

 模擬戦ではそれで良かったけど、今度は魔物との戦いになる。

 部隊の生命線になる回復魔法の使い手が、魔物の凶悪な爪や牙で動けなくなる可能性が一番怖い。

 なので、クレアには盾の扱い方を覚えてもらい、最低限自衛ができるようになってもらう。




 ハナビス様。

 ハナビス様はとても強いけど、アニー様や私がギリギリ合わせられている状況だ。

 なので、こちらが合わせるだけでなくハナビス様からも合わせて貰うため、まず私達の動きをよく見て貰うことにした。

 お互いがお互いの動きを理解したらより深い連携の訓練に移る予定だ。




 アニー様。

 Aクラスの面々より明らかに剣技が劣っていると感じているようで、ハナビス様に教えてもらったり、他の部隊の人と模擬試合をしていくそうだ。

 Aクラスの面々といってもハナビス様とジョルジオ様基準はちょっと間違っていると思う。




 スイフト様。

 私の、いや私達の部隊のリーダー。

 ハナビス様と同様改めてみんなの実力を見て貰い、隊列や連携などの考案をしてもらう。

 ただ、彼も前衛としてはハナビス様やアニー様より実力が劣ると感じているようで、個別に模擬試合をしたいそうだ




 私。

 私もクレアを除く三人と比べると動きは格段に落ちる。


 模擬戦の時は避けれない攻撃をクレアが光の盾で必ず防いでくれると信じての動きだし、実力はまぁ大したことはない。

 けど、そこらの魔物から自衛をするだけならなんとかなる。

 今更ハナビス様のように前線で戦おうと思わないので、これをしなければならない、と言うものがない。


 あるとすれば、花嫁修業かしら。うふふ。


 とはいえ、魔法関連はいくら練習してもいいのだ。

 魔力量は魔法を限界に近づくまでひたすら使うことで増えると言われているので、それをするか。

 それとも無詠唱魔法を新しく使えるようになるかどちらかだ。


 無詠唱魔法で新しく使えるようになって欲しいものはないかスイフト様に質問してみた。

 スイフト様も急なことだったので、今は浮かばないとのことだった。


 これと言ってやるべきことがないので、魔力を限界に近づくまで消費するために今使える無詠唱魔法を連発するのだった。


 余談だが、私の魔力は同年代にしたらかなり多い方だというのが、訓練を通してわかった。。

 貴族令嬢とは思えない寝る食う魔法だけをしてきたこの五年間を甘く見て貰っては困るのだよ。


 それでもハナビス様との模擬戦で魔力が切れたのは、どこでもウィンドカッターをアニー様、スイフト様との模擬戦からずっと使い続けていたから。

 通算で十回以上。


 そのうえ、詠唱魔法のウィンドカッターも使っていたのでウィンドカッター計五十回分くらいになる。

 たぶん同年代なら二十発がいい所なのではないだろうか。

 知らんけど。




 あと制服を新調しましたっ!

 ちょっとー、前のがぶかぶかっていうかー? わたしー痩せちゃってー?

 ふふふはーっはっはっはっ! 来る! 来るぞっ! 私の時代がっ!






 部隊の訓練が様になってきた頃、部隊行動の訓練と魔物との交戦経験を積むため、街道沿いに稀にでる魔物を自力で見つけて討伐しろというミッションが教師から全部隊に言い渡された。

 一度でも魔物を倒せばミッション終了だけど、見つからなければ本格的な魔物討伐まで続けなければらないとのことだった。


 初めての実戦は緊張して思い通りに動けないからね、とはスイフト様の言葉である。


 私達の班は早々に魔物を見つけることができ、無事に倒した。

 その時、ハナビス様がしっかりと私とアニー様に合わせてくれた。

 ハナビス様がうまくおびき寄せ、アニー様に止めを刺させるという活躍っぷり。


「まさかハナビス様がここまでわたくし達に合わせてくれるなんて……」


「あ? 俺をなんだと思ってるんだ?」


「脳き……。なんでもありませんわ」


「フロストてめぇ」


「やーめーてー」


 ハナビス様が私にデコピンをしようとしてきたので、逃げる。


「おい、逃げんなっ」


「いや、逃げるでしょっ! おほほほ。わたくしを捕まえられるかしら~」


「こんのっ」


 あ、まずい。

 ちょっと揶揄いすぎた?

 ここで捕まるとどんな目に合わされるか……。

 ここは逃げきってみせるっ!


 一足先に走り出していた私だけど、まぁそのあの鈍足なもので、すぐに追いつかれそうになります。


 ハナビス様は私を捕まえるために手を伸ばし、少しだけ前のめりになった。

 そこですかさず風魔をハナビス様の頭上から発動する! すると相手はこけ、ない!?


 が、私には背中を押すように風がやってくる。

 私はその風を受けてスピードを上げて逃げるのだっ!


「あははは。捕まえてごらんなさい~」


「てめぇ!」




 二分後には捕まりました。

 すいませんでした、ハナビス様。


「ア、アア、アニーっ、アニーちゃん! 助けてっ!ハ、ハナビス様がっ」


 今だ呼び捨てすることに慣れない私はよくどもる。


「ちゃん付けかぁ。フロストはかわいいね~。でも、あたしじゃどうにもできないよ~」


「そんなっ!?」


「そういやお前は俺のことだけ様づけで呼ぶな? 普通に呼べば考えないでもないぞ?」


「なっ、それは……」


「なんでそんなに嫌がるんだよ?」


「だって、ハナビス様ですし……」


「あぁなるほど、デコピンを食らいたいんだな?」


「いや、あの、ハ、ハナ、ハナビス……」


 もう私は涙目だ。

 頭を押さえられ、私はハナビス様を見上げて懇願するしかない……。

 プライド? そんなものはデコピンの前ではゴミみたいなものじゃないかっ!


「……」


「ゆ、許して……」


「ん~……。俺にこんなふざけたことするのはお前だけだ。だから、ダメだ」


「なんでっ、考えるって!」


「何を、とは言ってねーしな」


「だからハナビス様はハナビス様なんだっ!」


「よし、覚悟はいいみたいだな?」


 バチンッ! と指が一閃。


「ちょ、ちがっ! あびだぁ!? めっちゃあびだぁ!?」


「あびだぁ?」


「お姉様。ちゃんと私が治してあげますから」


「その前に止めてよぉ!!」


「さすがにあれはお姉様が悪いですよ。はい、じっとしててくださいね」


 お父様、お母様、フロストはそんなこんなでみんなと仲良くやっています。


 この事を帰ってからサラに話したら、自業自得と言われた。

 解せ……るね。

 でもなんだろう、ハナビス様は私にとって、憧れ、なのかな? あの自由奔放さというか、自分に正直な所は私にはなくてとても眩しく見えてしまう。


 前世の記憶を思い出して、どこか私は仮面を被ってこの世界を生きているのかもしれないな、なんてポエミーなことを考えて眠りにつくのだった。


【後書き】

フ・ク・サ)いつもお読み頂きありがとうございます!

フ)ブクマ・評価を頂きました。ブクマ・評価は応援の証だと思って、一つ上がるだけでもとても励みになっています!

ク)次話からはいよいよクライマックス!

サ)魔物討伐に向かう部隊の一行! 動きだす恋模様! お嬢様の魔物討伐、恋の行方は!?


フ・ク・サ)今後とも本作をお読みいただけますと幸いです。☆をポチって応援よろしくお願いします!

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