第18話 今、言われたいセリフナンバーワン

ついに、ついにスイフト様とパートナーになる日がやってきたっ!

不束者ですが、私フロレーンシア・ベルガモットが一生のパートナーとなることを誓います!


「最高に鬱陶しくて若干ヒキます、お嬢様」


「え? 最高にうっとりしてしまうほどヒクですって? お上手ね、サラは」


「耳と頭、どっちがおかしいんですか? お嬢様」


「あなたの目と頭は正常よ?」


「話し聞けよ、お嬢様」


「まぁ、口の悪いメイドね。今日は気分がいいから許して差し上げますわ」


「まぁいいですけど。でもさすがにその化粧はひどすぎます。メイドとして主人のその姿だけは人目に晒すわけにはいきません。しばらくじっとしててください」


「あら? いい出来だと思ったのだけど」


「いいから座って下さい。白塗りすぎですし、目もアイラインを引くというよりはアイブロックとでも言うべき新しい手法を生み出してます。チークはほんのりどころか太陽のようにまん丸です。控えめにいって化け物です」


「バカ殿?」


「いえ、さすがの私もそんなことは一言も言ってないです」


 サラに諭されて鏡を見てみれば、まさにバカ殿メイクだ。

 うぬ、何故私はこれをとてもかわいいなどと思っていたのか……。

 恋に溺れるとはこのことか……。

 サラよ、ありがとう。


「はい、いいですよ。いつもメイクしてないんですから、これくらいでも十分素敵です。随分お痩せになられましたし。後二ヵ月間くらいこのペースなら以前の体型に戻れるんじゃないでしょうか」


「そう。ようやくね。いつも食事と訓練ありがとう、サラ」


「とんでもありません。私はお嬢様のメイドですから」


「口は悪いけどね」


「嫌いじゃないでしょう?」


「そうね、大好きよ」




 朝のハートフルな一コマを繰り広げて、いざ決戦の時。


 スイフト様との訓練はまずまずの出来だった。

 スイフト様の指揮は動かない的、二人っきりでは真価をはっきりすることはできない。

 とはいえ、訓練は訓練。動きを合わせるよう動いてみる。

 なんていうか予想の範疇っていうか普通っていうか……。

 なので、無詠唱魔法を取り入れてみることにした。


 私が使える無詠唱魔法は大きくわけて三つ。


 一つ目、『風魔ふうま』。

 風を一定範囲内に吹かせる魔法。

 強弱はかなり自由度が効く、お気に入りの魔法だ。

 弱ければそよ風程度で髪や服を自然に揺らすことができる。

 室内でも。

 え? 逆に不自然? 聞こえませんねぇ。

 逆に強くすれば、非常に勢力の強い台風並みの威力も出せる優れものだ。

 ちなみにモロック様の帽子を飛ばしたり、サラを叩き伏せたのはこの魔法である。


 二つ目、『どこでもウィンドカッター』。

 風の刃の大きさこそ小さいものの、どこからでも風の刃を生み出せる優れもの。

 私から周囲十メートルくらいの位置であれば上でも相手の後ろにでも魔法を発動させることができる。


 三つめ、遠くの音や声を聞く魔法。

 これは人には言えない盗み聞きのような魔法なので名付けることをやめた。

 音は空気を振動させて響くので、一定空間の振動を私の耳元で再現させる魔法である。

 便利だけど、改めて考えると犯罪の匂いを感じる魔法である。


 一つ目と二つ目の魔法の内容をスイフト様に告げて実際に動きを確認する。

 これが思いの外上手くいかなかった。

 詠唱魔法と違って声を出さないため、タイミングが取りづらいのだ。


「う~ん、難しいね。動かないまとだと改善点も見つけにくいし、一回模擬戦で試してみたいんだけどどうかな?」


「力不足で申し訳ありません……。模擬戦に異論はありませんわ」


「お? 何々~? 模擬戦? ならあたし達と……、フロストはやらないかぁ」


「いえ、お受けしても構いませんよ」


「え? どういう風の吹き回し~?」


「アニー様を集中狙いさせて頂きますけれど」


「え? 何それ、ひどくな~い? でもま、それはそれで燃えるねっ! よし、やろう~」


「わかりましたわ。その代わり、一つお願いがありますの。アニー様はバックラーを装備して頂けますか?」


「ふ~ん、いいよ。絶対負けないからね~」


 ふふふ。

 ここでスイフト様に私が役に立つことを見せるのだっ!


 昨日の模擬戦の様子を見ていたスイフト様は、アニー様の行動を予測して作戦を立ててくれた。

 基本は私とスイフト様でアニー様を攻撃して、無力化したらクレアに降参を迫る形になる。


 ホーリーシールドを全員に掛けてもらってから試合開始する。

 ホーリーシールドの効果が消えたらその人は退場だ。


 まずはウィンドカッターでご挨拶。

 アニー様の足元を狙う。

 その魔法は読み切っていたのか、クレアの光の盾で防がれる。

 ウィンドカッターより速度で優れるウィンドバレットに変えると一度だけ当てることができたが、その後はクレアに読まれて防がれる。


 前衛の勝負ではアニー様がやや優勢。

 だけど、私が魔法を撃ちやすい位置にスイフト様が誘導してくれるので、戦況自体は五分だろうか。

 スイフト様に良い所が見せたい……。


 よし、決めた。

 私は詠唱魔法を使いながら、無詠唱魔法の準備をする。

 ウィンドカッターとウィンドバレットなら無詠唱魔法のイメージを邪魔しないで使える。

 詠唱魔法で牽制しながら、どこでもウィンドカッターでアニー様を後ろから攻撃する。

 クレアも二つの魔法を防ぐことはできず、アニー様に直撃する。

 バランスを崩した所に一気にスイフト様が攻勢を仕掛け、一気に私達が優勢となる。

 一度傾いた天秤は戻ることはなく、ほどなくしてアニー様のホーリーシールドの効果が切れた。


「にゃは~。負けた~っ!」


「参りました。さすがお姉様ですねっ!」


「詠唱魔法と無詠唱魔法のコンビネーションがここまで強力とは僕も思ってなかったよ。フロスト嬢の無詠唱魔法は自分で判断して柔軟に使ってもらった方が良さそうだね。小人数の戦いだったらフロスト嬢が負けることはないんじゃないかな」


「そんなことはありませんわ。スイフト様がアニー様相手に上手く立ち回って下さったおかげです


「よ~し、それなら明日はあたしとスイフト対フロストとクレアで組んで模擬戦はどう~?」


「わたくし、スイフト様と戦いたくないのです……」


「いや、僕もフロスト嬢と一度模擬戦をしてみたいな。無詠唱魔法が相手にいる時の経験を積んでおきたいんだ。ダメかな? フロスト嬢」」


「……。スイフト様がそうおっしゃるなら」






「勝利の栄光をお姉様にっ!」


 なんかクレアはゲームと随分キャラ変わってない……?


 何度目かになるかわからない模擬戦が始まる。

 今回は私とクレアのペアなので、前衛が不在である。

 クレアに前衛を任せるわけには行かないので、私が前に出ることにした。

 武器は木のダガーを二つ。

 二刀流に憧れはあるけど、一本は予備なので普通に一本で攻撃を防ぐためだけに使う。


 開始直後から詠唱魔法と無詠唱魔法を併用する。

 出し惜しみしたらすぐに押し負けることは明白。

 前ではなく横に走りながら魔法を使って時間を稼ぐ。


 二回程詠唱魔法と無詠唱魔法を使った所で予想外のことが起きる。

 何を隠そう、息が上がって詠唱を唱えられなくなったのだ……。


 もう詠唱魔法、使えない……。


 すぐにアニー様とスイフト様に距離を詰められる私。

 アニー様の攻撃をダガーで受けて、その勢いを利用して回転するように移動しながらスイフト様の攻撃を避ける。

 その移動の隙に攻撃されてもクレアが光の盾で防ぐ。


 同時に無詠唱魔法の準備は進める。

 どこでもウィンドカッターは後ろから発動させるので、避けることはできない。

 けど、風魔ほど発動は早くない。

 発動準備ができたら隙がある方に打ち込んでいく。


 そんな攻防を何度繰り返しただろうか。

 私の息は上がってきてしまい、回避できない攻撃が増えてくる。


 このままじゃ、押し負けるっ!?


 私は予備で持っていたダガーを左手で逆手に持つ。

 一回だけでいい! 持って! 私の肺活量!


 詠唱魔法を唱えだす私。

 アニー様の、スイフト様の攻撃を受け、避ける。

 次の攻撃はクレアが必ず防いでくれると信じて、一歩を踏み出す。


 まずは左手で持ったダガーをアニー様の顔目掛けて投擲する。

 ダガーはあっけなくバックラーに弾かれる。


 が、視界は塞いだ。

 ウィンドカッターをスイフト様に向かって発動し牽制する。


 すの隙に右手で持ったダガーでアニー様の右脇腹辺りに振りぬく。

 さらに、どこでもウィンドカッターを後ろからアニー様に直撃させる。


 ようやく、アニー様のホーリーシールドの効果が切れる。


 けれど、私の息は完全に上がってしまった。


 チャンスと見たスイフト様が一気呵成に迫ってくる。

 私も受け流したり、クレアが防いでくれたけど、攻撃が来ないと分かっているのか、防御を捨てたスイフト様に圧し負け、私のホーリーシールドの効果も切れてしまう。


 クレアは接近戦はてんで動けないので、私達の負けだ。

 くっそーっ! スイフト様とは戦いたくなかったけど、負けたらやっぱり悔しいっ!




「くそ~っ、さすがに前衛いなければ完勝できると思ったのに、あんな攻めをされるとはな~」


「いえ、ぜぇはぁぜぇはぁ、わたくしも、もう、必死で……うげっほげっほ」


「確かに思った以上に苦戦しましたね。クレア嬢がフロスト嬢に合わせるの異常な程に上手い。二人がバディを組むのがベストかもしれないね」


「なっ……!?」


「本当ですかっ! 私すごく嬉しいですっ! お姉様、私と組みましょうよっ!」


「いや、えっと、その……」


「スイフトはもうバディ決めた?」


「僕はまだです。他にも組んでみたい人も特にいないですし、本命は目の前で決まってしまいましたからね。どうしようかと」


「それじゃあ、あたしと組もうよ~。そんで、フロストとクレアと部隊組めば最強でしょっ!」


「いいですね。それじゃあ、改めて。僕とバディを組んで頂けないでしょうか、レディ」


 ぎゃぁあぁあああ! そのセリフは私の物よぉぉおおぉおぉおおお!!

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