第17話 私の隣は予約済み

 今日から即席バディを組んでの訓練が始まる。


 午前中は通常通りの授業が行われ、午後からはまるまる訓練になる。

 最初は即席で組む相手との情報共有を行い、その後は動きの確認をする流れだ。

 的に向かって訓練をする人達もいれば、バディ同士で模擬戦を行う組みもいる。


 初日はいつの間にかクレアと組むことになっていたわけだが、既にお互いができることはわかってしまっているので、早速訓練に取り組む。


 クレアはホーリーシールドをアレンジした無詠唱魔法をかなり練習していて、短時間で光の膜を自在に作れるようになっている。

 膜ってなんかダサいので、名前を『光の盾』と私が命名した。

 カッコいい。


 バディなのにいつのまにか一対一で以前の試合のような宝物を奪うゲームを初めてしまった。

 私が詠唱魔法で攻撃をしながら、クレアが防ぐ。

 クレアには攻撃手段がないけれど、私の魔法はそれで防げてしまうので、最後は体力勝負となり私が負けた。

 く、くやしい……。


「はぁはぁはぁ。お姉様、ありがとございました。ウィンドカッターは正面にしか来なかったですし、無詠唱魔法やウィンドカッター以外の魔法を使ってたら私が負けてたと思うんですけど、なんで使わなかったんですか?」


「ぜぇはぁ、だって危ないじゃない。ひゅっふ、ホーリーシールドが掛けてあっても、はぁはぁ、もしかしたらクレアを怪我させるかもしれないと思ったら、ふひー、強い魔法なんて使えないわ」


 詠唱魔法は良くも悪くも同じ効果、威力しか出せない。

 手加減ができない以上それ以外の魔法を使うつもりはなかった。

 回復魔法もあるのはわかってるけど、万が一にでも友達に痛い思いなんてさせたくないし。


「っ! お姉様っ!」


「ちょ、やめっ! うえっぷ、離れてぇ~」


 抱き着かれたクレアを必死にはがそうとしていると、周りの視線に気が付く。


「ちょ、クレアっ。おうっぷ、みんな見てるから、離れてぇ~っ!」


「そんなのさっきからじゃないですか。気にすることないですよ~」


 無駄にポジティブ!! ポジティブ!? よくわかんないけど、強引にはがさねば。


「にゃはっはっは~! やっぱり君たちすごいね~! 明日以降が私も楽しみだな~。そして、混ぜろ~っ!」


 予期せぬ伏兵アニー様が現れ、抱き着いてくる。

 クレアをはがしかけていたのに水の泡だ。

 もーっ、なんなの、この人達はーっ!




 その後、何故か昨日バディを申し込んできた人達が何名か来て、やっぱり取り下げると言ってきた。

 特に男子諸君が。

 解せぬ。


「フローレンシアが強いからじゃないかな~? 試合の時より痩せたよね? 動き自体はまだまだ遅いけど、前よりキレが良くなったね~。状況判断も良かったから他の男子からしたらメンツが保てなくなるかもって思わせちゃったんだと思うよ~」


 とはアニー様の言である。

 アニー様は火属性の魔法が使えるそうだけど、剣が得意なんだそうな。

 剣を振りながら詠唱魔法は使えないので、明日は完全に前衛、後衛に分かれて訓練しようと言われた。


 くっコロがリアルで聞けるかもしれないっ!?




「フロスト嬢、クレア嬢。今大丈夫かい? それと、そちらの方は?」


「スイフト様。御機嫌よう。こちらはアニー様です。勿論大丈夫ですよ」


「アニー・アプリコットだよ」


「アプリコット……。あぁ、アプリコット家のご令嬢ですか。僕はスイフト・パイソンと言います。お見知りおき下さい」


「うん、よろしくね~」


 アニー様は大分フランクな方だなぁ。

 男爵じゃ前世で言う大きめの市とか町くらいの範囲しか領地がないのに対して、伯爵だったら複数の県を合わせたくらいの領地になるっていうのに、まるで気取った感じがない。

 ゲームではいなかったはずだし、モブ仲間として仲良くなれたらいいな。


「それで、フロスト嬢、クレア嬢。僕と一度バディを組んでほしいんだけど、いいかな?」


「もももちろんですっ!」


「はい。こちらこそお願いしますね」


「おっ、おぉう。あ、ありがとう。フロスト嬢、クレア嬢。先約がなければ早いうちにと思うんだけど、どうかな?」


 く、食い気味になりすぎたっ!? 


「スイフト~、あたしが先に約束してるんだから、あなたはあたしの後ね~。フローレンシア、明日一緒に訓練しようね~。あ~そっか~、クレアは明日スイフトと組んだらいいんじゃない?」


「そうですね。それじゃあ、スイフトさんもそれでいいですか?」


「うん。僕もそれがいいかな。明後日にフロスト嬢とお願いするよ」


「あ、ね~ね~。あたしもフロストって呼んでいい? 友達でしょ?」


「ええ。もちろん構いませんわ」


 パリピかよ。

 おしゃべりしたらもう友達的な感じかよ。

 いや、なんか憎めないんだけどさ。


 何はともあれ、スイフト様から声を掛けて頂いたのは嬉しい。

 とても嬉しい。

 でも何でこのタイミングなのだろう?


「スイフトさんからは昨日声かけられると思ってたんですけど、なんで今日になって声を掛けてくれたんですか?」


 ナイスクレアっ!


「二人ともは昨日は大人気だったからね。Bクラスの人達に囲まれてて、割っていける雰囲気じゃなかったよ」


 なるほど。

 確かにあんなに人に声を掛けられたのは太る前の社交会以来だったかもしれない。

 あ、なんか涙が。


「そうだったんですね。今日はお声を掛けて頂いて、とても嬉しいです。バディもですが、また三人で部隊を組めるといいですね」


「うん、そうだね。そうなったらまたよろしくね」


「もちろんですわっ」




 翌日、私とアニー様でバディを組む。

 アニー様の剣技を披露してもらったんだけど、なかなかに鋭い。

 剣はショートソードと呼ばれる片手用のやや短い剣だ。

 片手用だが両手持ちをして振っている。

 威力は少し軽いように見えるけど、その鋭さはサラと然程変わらないんじゃないだろうか。

 何気にあのメイドはウチの領地でも上位の実力者なんだが……。

 いや、サラって一体いつどこでどんな教育受けてきたんだろう。謎だわ。


 ショートソードの重さは片手で持てない程重いわけじゃない。

 けど、長くて少し重い物を思っている以上、非力な女性の力では自在に動かすのは案外難しい。

 なので両手持ちをしているんだろう。

 後から聞いた所によると、両手が塞がってしまうので本来は左腕の手首辺りにバックラーと呼ばれる小さい盾を付けているようだ。


 何個か的を用意して、訓練を開始する。

 アニー様の奔放そうな性格とは異なり、動きはすごく素直で合わせやすかった。


 私も詠唱を大きめに声を上げると、発動のタイミングで射線を開けてくれる。

 相手が動かない的ではあるけど、とてもいいパートナーだと感じる。

 惜しむらくは、私のパートナーはスイフト様と心に決めていることか。


 アニー様が「これなら行ける~! 模擬戦やろ~!」と言い出した。

 スイフト様とクレアはお互いにできることは既に知っているので、連携も良い。

 なので、アニー様が二人に提案したんだけど。


「わたくし、スイフト様とクレアのペアとは絶対に模擬戦を致しません」


「え~っ、いいじゃんやろ~よ~」


「それでしたら、アニー様とは今後一切のバディ、部隊を組むことをお断りします」


「なんだよ~。そんな怒るなよ~。悪かったよ~」


「すいません、お聞き下さってありがとうございます。その他の方だったら模擬戦してもいいですわ」


「まじ? おっけ~。それなら相手探してくるよ~」


 二人には絶対に痛い思いをさせたくないからやらない。

 一対一ならやりようがあるけど、二体二だと流れ弾に当たってしまうとか万が一があるから。


 その後、十分程でアニー様が戻ってくる。

 なんと五組も集まっていた。


「アニー様さすがにおかしいでしょっ!?」


 思わず素でツッコんでしまった。

 にゃははと笑い、反省をしないアニー様はそのまま模擬戦を始めてしまった。


 結果から言うと五連勝した。

 模擬戦開始直前に負けたら言うことを聞く条件付けたんだ、とか言うんだもん。

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