第16話 太った人は好みじゃないの
魔物は多種多様だが、動物や植物と基本的には似ている魔物がほとんどである。
そんな魔物と動物の違いはなんだろうか。
元々この世界の人間として育ってきたので違和感はなかったけど、前世の知識を得た時に不思議に思ったことだ。
まず、人間を見つけると必ず攻撃してくる。
明らかに生きるための狩りではなく、人間絶対殺すマンとばかりに攻撃を仕掛けてくる。
前世で知る動物との身体的に異なる特徴は二つ。
目が赤い。
もう眼球全体が赤い。
そして、どこかの部位が異常発達している。
それ以外は多少の違いはあれど大きくは変わらないみたいだ。
なので、見ればわかるし、見れば襲われる。
返討ちにしないといけないので、見敵必殺の精神は人間も同じだ。
しかも繁殖力が強いのか、はたまた別の理由か、その数は減ることはなく、時にスタンピードと呼ばれる多数の魔物による暴走が発生し、街が襲われることもある。
そのため、学院でも授業の一環として魔物討伐を行っている。
さらに、学院での経験を元に貴族の子弟は領地に帰ってからさらに魔物討伐を行うのだ。
裏を返すと、それ以外は他の動物と変わらない。
つまり、食べられる魔物が多いのである。
新鮮な肉である。
戦いでは何もしなかったからとクレアがビッグフットラビットを血抜きして簡単に解体処理をほどこす。
部位に分けるなどは帰ってからかな。
異常発達した部位は魔物によってはとても美味しかったり、食べれるものじゃなかったり、毒があったりと様々だけど、ビッグフットラビットはももが大変ジューシーである。
赤身の旨味とあふれる肉汁が素晴らしい。
スイフト様と交渉が必要だろうけど、これは譲れないね。
血抜き、解体現場を見ていたスイフト様が顔を真っ青にして護衛の人と一緒に繁みの方へ向かっていった。
うむ、私はできる女。
今のは見なかったことにしよう。
その後は色々と落ち着いたスイフト様指揮の元、もう一度戦闘を行って学院へと戻った。
学院で解体をしようと思っていたけど、さすがにそれは止められた。
解せぬ、と言いたい所だけど貴族の子息子女が沢山いるし、解体する場所も勿論ない。
これは仕方がないか……。
倒した魔物は肉だけじゃなく、素材として売れるものもあるので商会で通常通りの価格で買い取ってくれた。
通常通りなのはスイフト様の男気かな? 値下げしようとしたら、商人としてはともかく同じ学院の男子としては、ね。
解体自体は今日中に行ってくれるみたいだけど、お店の都合が今はわからないので明日取り行くことにした。
その分の代金を引き、パイソン商会から買い取り分のお金を頂いた。
「今日は狩りに付き合ってくれてありがとう。それに、フロスト嬢には守られてしまったね。今度は僕が君たち二人を守れるように頑張るよ。立派な指揮官になって、ね」
何その照れるように言う感じ。
きゅんとしちゃう。
今度は守ってくれるの? うん、待ってる。
「いえ、こちらこそありがとうございました。スイフト様の指揮はとても動きやすかったですわ。私達はしっかりと指示で守られていましたわ」
「はいっ! お姉様の言う通り、すごく的確だと思いましたっ。村ではあんな風に人に指示を出す人がいなかったので、びっくりしましたっ! さすがスイフトさんですねっ」
「ははは。そう言って貰えると助かるよ。もっとも、フロスト嬢には僕の指示は必要なかったように見えたけどね」
「まぁ。そんなことはありませんわ。わたくしはかよわい乙女でしてよ?」
「……っ。 ふ、ふふ。そ、そうだね。次こそは最初から二人の乙女を守れるように頑張るよ。それじゃ、また学院で」
「はい。今日はありがとうございました。また、学院でお会い致しましょう」
「お疲れさまでしたっ!」
「あのご令嬢は一体何者なんです?」
「ただのベルガモット男爵家のご令嬢だよ」
「ただの、ねぇ。男爵家であれば領主や家族が狩りに出ることもあるんでしょうけど、身のこなし、状況判断、狩人でやっていける腕ですよ」
「そうだね。僕もあれ程とは思わなかった。それにクレア嬢もかなりの光魔法の使い手だよ。回復も強化もかなりの回数使えるはずだ。今度の学院での狩りも彼女達と組めれば安全になるだろうね」
「へー、あの嬢ちゃんもですか。しかし、あのご令嬢がデブでさえなかったらねぇ」
「……。そうだね、あれで太ってさえいなかったら……。それにしてもビッグフットラビットが綺麗な状態で二体も手に入ったのはラッキーだったね。さ~て、いくらで売るかなぁ。いっしっしっ」
おい、護衛。
お前の顔覚えたからな? またしても魔法で会話を盗み聞きして、若干ヘコんだ。
六月になった。
スイフト様とはあれから仲良くしてもらっているし、ジョルジオ様もたまにお話しするようになった。
モロック様はクレアとは話すことはあっても私とは話してくれない。
同じモブ仲間なのに。
貴様メインキャラの仲間入りを狙っているのかっ!?
七月中頃には魔物討伐を控えているので、六月からはAクラスやBクラスなど関係なく、部隊を想定して実技の訓練は行われると教師から説明があった。
部隊は六名だけど、色々な組み合わせを試して相性をみるようにとのことだ。
ただ、全員が全員毎回入れ替わると連携の訓練にならないため、ゲーム同様に二人一組のバディを組む必要があるらしい。
今週含めて二週間、色々な人と組んでバディパートナーを決め、それ以降は三組のバディで部隊を組んで訓練するとのことだ。
「ねぇサラ、スイフト様からお声かかるかしら?うふふ」
「さぁ。私は学院でのことはわかりませんからね。ただ、本格的にバディを組めるかはわかりませんけど、今週のどこかで一度組むんじゃないでしょうか。狩りの時とか普通にお友達してましたし」
「ふふふ。そうね、楽しみだわ~」
翌日はA、B、Cクラスの生徒が一同に集まって、バディを組むための情報収集と交渉の場が設けられた。
早速私の妄想をぶち壊したのは真っ赤な髪をツインテールにした元気溌剌な少女だった。
「ね~ね~、あなたフローレンシアよね? あたしはアニー・アプリコットっ! 一緒にバディ組もうよ~」
初対面のテンションじゃないっ! ってアプリコットって聞いたことあるような……。
あぁ!シトロン伯爵領に接しているアプリコット伯爵かっ!
「失礼ですが、お姉様の初めてのパートナーは私です。私が組んだ後になってしまいますがよろしいですか? お姉様の初めては私ですので」
「え? 聞いてないけど……」
何? 二回言うってそんな大事なことなの? しかも言い方っ!
「あなたはクレアね~! あなたとも組んでみたかったの~。それでいいから、クレアもあたしと一度バディ組んでよ~」
「お姉様と組んだ後でしたら、もちろんいいですよ。よろしくお願いしますね」
あ、これクレアはアニー様が伯爵家のご令嬢だって確実に気づいてないな。
今まで貴族とは縁がなかったんだし、仕方ないね。
「アニー様は何故わたくし達のことをご存知なのでしょう?」
「モロックとの試合見てたからね~。なかなか面白かったよ~。他にもBクラスで見てた人多かったから、声いっぱいかかるかもね~! でもあたしが先に組む約束したから~! それじゃまたね~」
おぉ、嵐のような人とはまさにアニー様のことか。
でも以前の試合を見てたら少なくとも戦力外と思われることはないだろうし、ありえるかもしれないなぁ。
その中に素敵な人がいればいいけど……。
はっ! 私の運命の人はスイフト様。
ごめんなさい男子。
私に声をかけてくれるのは嬉しいけれど、私にはもう心に決めた人がいるのっ!
ふふ、なんて罪作りな女なのかしら、私ったら。
その後、本当に十名を越えるくらいの方からバディを組まないかとお誘いを頂いた。
男女は半々くらいだったけれど、二週間で全員組むのはギリギリだし、スイフト様と組みたいので基本は保留にさせて頂いた。
その中で一名だけははっきりとお断りをした。
私、太った男の人って好みじゃないのよね。
「ということがあったのよ。明日もスイフト様以外からの男子から声がかかったらどうしましょう」
「どの口が言うんですか、お嬢様。とはいえ訓練も続けていて、大分お痩せになりましたからね。もっと他の男性からも本当にお声がかかるかもしれないですよ。色々な方と組んだほうが勉強になると思いますし、許す限り組んでみたら如何ですか?」
「珍しく建設的な意見ね……。そうね、何事も経験だわ。出来る限り色んな方と組んでみることにするわ。ってゆーか、スイフト様は何故声をかけてこないのかしら」
「さぁ? 太った女の人は好みじゃないんじゃないですか? お嬢様」
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