第14話 悪役令嬢のダイレクトアタック!
予定外にモロック様との試合が行われてしまったけど、スイフト様との魔物討伐の予定に変更はない。
予定日は今週末だ。
場所と魔物は既にスイフト様が決めくれた。
強い魔物の目撃例がない山だそうだ。
学院で魔物討伐のカリキュラムがあるのは分かっていたので、魔物討伐用の服や装備一式は領地から持ってきている。
後でサラに出しておいてもらうようお願いしないと。
などと考えていると、マリアンヌ様といつも一緒にいる子爵令嬢であるルビー様から声をかけられる。
なんだろう? 彼女とはほとんど話したことはないけれど。
「フローレンシア、クレア、マリアンヌ様がお呼びです。こちらに来てもらえるかしら?」
えっ……。
私何かしたっけな……。
「分かりました。クレアもいいわね?」
「はい、お姉様」
戦々恐々とマリアンヌ様の所へ向かう私。
もちろん内心を外には出さないが。
クレアは堂々として見える。
前回マリアンヌ様から呼ばれた時とは大違いだ。
どんな心境の変化があったのやら。
「フローレンシア、最近良くない噂を聞いています。立場をわきまえず貴族の令嬢と腕を組んだり、姉と呼んだりする者がいると。他にも、先日は子爵の令息とも決闘もどきも行ったとか。
男爵家では平民との距離も近いのでしょう。しかし、ここは貴族が多く集まる学院。その貴族としての礼儀をあなたが教えるものだと思ってたのですが、私の勘違いだったのかしら?」
今回は随分ストレートな物言いだなぁ。
あ、もしかしてクレアにも通じるように? だったら釘を刺しにきたって感じなのかも。
「私が勝手にやっているんですっ。それをフロスト様はお優しいからそのままにしてくれたり、フォローして下さっています。だから、悪いのは私なんです」
「クレア、今は私に――」
「あなたが何かする度に、フローレンシアに迷惑がかかることを理解しなさい。その発言もフローレンシアの立場を悪くするのですよ? 平民に好き勝手されて、止めることもできない者だと」
「っ! 私、そんなつもりじゃ……」
「あなたがどう考えているかではありません。周りがどう見ているかが大事なのです。その責を負うのはフローレンシアにあると私は考えています。
クレア、あなたはフローレンシアにとってどういう人間でありたいのですか?」
「お姉様の、力に……」
あぁ、不味いなぁ。
マリアンヌ様が言っている内容はクレアへの教育っぽいんだけど、クレアにダイレクトアタックされると言い訳ができなくなる……。
認めるとこは認めて、認められない所ははっきりさせないと……。
前世の会社で何度もやってきただろっ(上司が)!
「マリアンヌ様、お言葉を遮って申し訳ありません。わたくしはクレアに未来の選択肢を残しておきたいのです。彼女が高みを望み、それ成せる力があるならば、以前にお約束した通りにわたくしは彼女がそこに立つにふさわしい振る舞いを必ずや身につけさせましょう。
彼女がそれを望まないならば、彼女の美しい心を損なわせたくないというわたくしの我儘です。なればこそ、わたくしの前でだけは素の彼女でいてほしいと願ったわたくしの責です」
あなたの言ったことは覚えているし、クレアが望むなら貴族社会に相応しい振る舞いを身に着けさせる。
けど、クレアが貴族社会に入ることを望まないならありのままのクレアでいてほしい。
学院にいる間は私が責任持つから、それまでは好きにさせてほしい、そんな感じの言い訳。
「そんなっ! お姉様は関係ありません」
「この場において、その言葉はフローレンシアのための物ではありません。あなたが言いたいことを言って、自分が気持ち良くいたいだけです。それでも、あなたはフローレンシアのためにと言うのですか?」
「っ!」
こればかりはマリアンヌ様に賛成だ。
この場であの言葉に価値はない。
けど、私にとって意味はある。
だから、守らなくちゃいけないんだ。
でも、落としどころはどうすればいい? 苦しいけど、言い訳はした。
がっつり私達を叱ろうとしていたわけではないはずだからたぶん大丈夫。
それに、マリアンヌ様はクレアに利用価値を見出している可能性が高い。
私達に釘さえ刺しておけばよかったのに、クレアの暴発で落としどころをどうするか決めかねているんだと思う。
こう拗れてしまうとマリアンヌ様はクレアに罰を与えざるを得ないかもしれない。
何度もマリアンヌ様の言葉に異議を唱えまくる感じになっちゃってるから。
ぐぬぬ、回避できないなら連帯責任で少しでも軽くしてもらうしか……。
そうするとクレアは気に病んじゃうかもしれない。
けど、今回はクレアにとって貴族社会を知るためのいい薬かもね。
こっちから連帯責任として話を切り出して、丸く収めてくれることを祈ろう。
「マリアンヌ様、今回の件で――」
「マリアンヌ、何をしているんだ? ここは身分に関係なく平等を唄う学院だよ? 家柄をひけらかすのは関心しないな」
公爵令嬢たるマリアンヌ様との会話に横入りして文句を言っても、呼び捨てにしても問題ない人物はこのクラスには一人しかいない。
顔を上げずともわかる。第二王子アルヴァン様だ。
ホントもうこれ以上ややこしくしないでよ……。
マリアンヌ様の目が一瞬大きく開いたかと思えば、すぐに伏せられてしまう。
「アルヴァン殿下、ご機嫌麗しゅう。そのようなつもりはありませんでしたが……。そのようにおっしゃるのでしたら、ここでお開きに致しましょう。問題ないわね? フローレンシア」
「はい。一言だけ申し上げれば、わたくし達はあくまでマリアンヌ様に教えてを請うていただけでございます」
「ふむ、君がそう言うならそういうことにしておこう。たしか、クレアだったね。君からは何かあるかい?」
チラリとこちらを見るクレア。
私は頷いて、クレアを促す。
「いえ、フローレンシア様の言う通りです」
「……。そうか、まぁ何かあったら言ってくれ。それじゃ、邪魔して悪かったね。俺はもう行くよ」
もーやだー。
何この気まずい雰囲気。
マリアンヌ様はきっと怒って……ない? むしろ少し悲しそう?
そういえば二人は婚約者なはずなのに、教室で話しているところほとんど見たことないな。
ゲームではどうだったかなぁ。
記憶にないし、そんなシーン自体ゲームにはなかったかもしれない。
って、ゲームといえばさっきの会話……。
少し違う所もあったけど、アルヴァン殿下がゲームで言っていたセリフじゃない? 少なくとも学院が平等だからとクレアを助けたシーンは間違いなくあった。
ゲームではこの後からクレアに対してマリアンヌ様から嫌がらせみたいな行為が行われる。
でも、今は人間関係が違う。
こうなるまでの流れが違う。
何より私の貴族として生きてきた経験が、ゲームのイベントが単純な物ではなかったと気づかせる。
単純な嫌がらせだったわけではなく、教育の一環であった可能性だ。
マリアンヌ様には少し、違和感を感じていた。
私と違って普通の15歳にも関わらず、しっかりとしすぎている。
彼女はきっと、貴族そのものなのだ。
貴族令嬢と簡単に呼んでいいものではなくて、なんて言ったらいいんだろう。
貴族であることを求め続けられてきたんじゃないだろうか。
それでも、アルヴァン様がこの場を去る時に悲しそうな表情をしていた。
その表情は乙女だったと思う。
貴族であるべき自分と恋する自分。
そんな二つの気持ちがマリアンヌ様の心の中にあるんじゃないだろうか?
ダメダメ、こんな下衆な勘ぐりは良くない。
まずはこの場をどう平穏に抜け出すかを考えないと。
「あなた達、もう行っていいわ。時間を取らせましたね」
「とんでもありませんわ。それでは失礼致します」
なんとマリアンヌ様から助け船を出してもらえた。
まぁ落としどころが見つからない状態だったから、ある意味でアルヴァン殿下の登場はありがたかったわけか。
マリアンヌ様の元から下がりながら、今後のことについて頭巡らせるはめになる私であった。
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