第13話 フロスト流! 質疑応答!

「無詠唱魔法と詠唱魔法は同時に発動できるのか?」


 ジョルジオ様から早速質問だ。


「厳密には全く同時に、というのはできません。」


「う~ん、だったらモロックの背中の水袋が破れたのは何故だ?」


「下位の詠唱魔法であればほぼ同時くらいで発動することは可能なんです。魔法は発動時に魔力を消費します。なので、詠唱魔法と無詠唱魔法を全く同時に発動しようとすると魔力が混ざってしまってうまく発動できなくなるのです。逆に言うと少しでも時間をズラせば発動可能です。ただし、中位以上の詠唱魔法では詠唱中にも魔力を消費するので、同時に使うことはできなくなります」


「そうか! あの時は無詠唱魔法で魔法の準備をしつつ、詠唱魔法で牽制をしていたのかっ!」


「そうです。ただ、これも練習して慣れが必要です。慣れないと詠唱魔法を発動する際に、無詠唱魔法のイメージと魔力が崩れてしまうこともあるので。たぶん、クレアは無詠唱魔法の準備をしながら詠唱魔法を使うことはできないと思います。ちょっとやって見てくれる?」


「わかりました。……。世界を照らす光よ 穏やかな光を盾へと変え 包み固く全てを防げ ホーリーシールドっ! ……あ、無詠唱魔法の魔力が消えちゃいました……」


「なるほど! 実践でそのような使い方をするものは少ないと考えていいな! 余程のへんくつ者でない限り」


 ちょっと言い方っ!


「え、えぇ。ロマンのわかる方が少なくて悲しいばかりです。他に質問がある方いらっしゃいますか?」


「無詠唱魔法はどんなことでもできるんですか?」


 今度の質問はクレア。


「まず、自分が祝福を受けた属性以外の効果は発動しないわね。逆に自分の属性なら大体のことはできると思う。ただし、これもイメージがしっかりしていないと発動できないし、イメージができても規模が大きすぎれば魔力が足りなくて発動できなくなるわ。そうね、例えば火属性で王都全体を火の海で包むということも理論上は可能。現実的には途方もない魔力量なので、まずできないけどね」


「私も、質問しても良いでしょうか?」


「え? サラ? 勿論いいけど」


「もし何者かが襲ってきた場合、その者が無詠唱魔法を使えるか確認する術はあるのでしょうか?」


「多分、ないと思う。実際詠唱魔法が使える人かどうかも判断のしようがないし」


「そうですか……。ありがとうございます」


「次は僕が質問いいかな? 魔物討伐では有効に活用できると思う?」


 スイフト様だ。

 さすが特性『指揮』持ち。

 さっそく活用方法を考えるなんて素敵。


「場合による、としか言えません。事前に数回は使ったことある魔法なら多少時間は掛かりますが使えます。初めて使う魔法であればかなり時間が掛かる上に、上手く発動するかも保障できません。というより、発動する可能性の方が低いと思った方がいいです。なので、その場その場で有効な魔法を都度使うのは現実的ではないと思います」


「逆に言うと、特定の状況を想定して使ってもらいたい魔法をあらかじめ経験してもらえば、魔物討伐時にその魔法を使ってもらうことは可能?」


「そうですね、それであれば可能だと思います。それでも相応の準備期間が必要になりますけど」


「ありがとう。それなら有効に使えるかもしれないね。でも、有効に使える可能性があるのに何故無詠唱魔法の使い手がこんなに少ないんだろう? デメリットを考えてももう少し使い手がいてもいい気がするけど」


「……。話は変わってしまいますし、学説の一つとしてあくまで参考までに聞いてほしいのですが、わたくしの魔法の先生がおっしゃっていた説をご紹介します」


 詠唱魔法とは精霊が魔法を再現・・しているというものだ。


 何を再現しているかというと、過去に人間が無詠唱魔法で使っていた魔法を、だ。


 魔法を人間がいつから使えるようになったのかは所説あり、明確になっていない。

 一つだけわかるのは当初、魔法は無詠唱魔法しか存在していなかったということ。


 私の先生は大昔の人間が無詠唱魔法で同じ魔法を数百回、数千回どころか数万回と使ってきたはずだという。

 例えば狩りに、生活に。

 そして、それを見ていた精霊たちがいつの間にかその魔法を真似をするようになった。


 それを知った人間達はなんとか自分達が意図した魔法を使ってもらおうと試行錯誤をし、特定の言葉を言いながら魔法を使い続けることで、魔法と言葉をリンクさせたのだ。


 そして、魔法と言葉をリンクさせて使い続けることで、ついに精霊はそれを学習し、特定の言葉に反応して魔法を使うようになった。

 これが詠唱魔法の始まりだ。


 人間にとってはイメージすることが大変な魔法も、精霊にとっては造作もないことらしい。

 精霊が詠唱に反応して魔法を使う度に、人間は精霊に魔力を上げた。


 すると、精霊は魔法を使うと魔力がもらえるんだと学習して次々に魔法を使うようになっていったという。


 この過程で使う魔法は生活に役立つ魔法だったり、魔物を倒すために有効な魔法だったりして、今の魔法体系が生まれた。

 なので、有用・有効な魔法しか残っていないのだ。


 今では過去の魔法使いが詠唱魔法を使うための詠唱内容を体系化し、かつもっともバランスの良い詠唱を文献に残してくれている。


 余談だが、先生はほとんどの魔法使いが詠唱内容を変えるようなことをせず、お手本通りの魔法しか使わないことを嘆いていた。

 詠唱魔法であっても変化を出せるし、無詠唱魔法であればさらに色々なことができるのに、と。


「という説です。スイフト様がおっしゃっていることは特定の状況下のことと思います。それは何度も使う魔法ではないんですよね。それだったら汎用性の高い魔法を覚える方が優先度が高いので無詠唱魔法は下火になっていったんだと思います」


「興味深い話だね。ありがとう」


「他に質問がなければ今日はこれで終わりにさせて頂こうと思います。後程何か疑問に思ったことがあれば、明日以降にでも質問して頂ければお答え致しますわ」


 いつの間にか日が沈みかけていた。

 私は大分熱を入れて語ってしまったらしい。


 少し恥ずかしいが、前世ではゲームやアニメが好きだった私にとって魔法を使えるというのは嬉しくて堪らないのだ。

 幼かった貴族としての私もやはり魔法が使えるようになることにワクワクしていたし。


 質問が出ることはなかったので、解散となった。

 少し疲れた私はクレアとも早々に別れ、自室のベッドでグダッとする。


「お嬢様、お疲れさまでした。紅茶を入れましたので、ごゆっくりなさって下さい」


「ん~、ありがとう。頂くわ」


 重い体を引きづってテーブルへ着く。重い体は比喩だからね? 物理じゃないからね!?


 暖かい紅茶を飲んで、ホッと一息ついていると、部屋をノックする音が聞こえてくる。

 この時間に誰か来るなんて珍しい。

 交友関係は広くないので、来るとしたらクレアくらいしかいないんだけど。


 サラが確認しに行くと、お相手はやはりクレアだったようだ。

 扉を開けると、手に篭を持って立っていた。

 そこにはたくさんのクッキーが詰められていたのだ。


「お姉様、さっきはお疲れさまでした。ありがとうございました。これは私から感謝の気持ちです。受け取って頂けますか?」


「クレア、お昼もいつもより多くしたのでしょう? せっかくお嬢様がお痩せになってきているのだから、やめてね」


「今日だけは特別っていいましたもん……」


「はぁ……。仕方ないですね、それじゃコレだけ頂きましょう。これでよろしいですね、お嬢様」


 サラは篭に入ったクッキーを取り分ける。

 サラも大概クレアに甘いね。

 私も人の事は言えないけど。


「そうね、せっかく作ってきてくれたんだし、三人で頂きましょう」


 楽しく話をしながら三人でクッキーと紅茶を頂いた。

 夕食前に。


 サラが食事の量を減らしたのは言うまでもない。

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