第6話 友達?

 さっきのマリアンヌ様とのやり取りを思い返してみると、クレアの事をかなり評価しているんだと思う。

 心当たりは、先日の魔法訓練でのこと。


 クレアの魔力量とセンスに目を見張ることとなる出来事があったのだ。


 先日、Aクラスの魔法授業の時間のことだ。

 ジョルジオ様、モロック様、スイフト様は魔法の授業には参加していなかった。

 というのも、モロック様、スイフト様は魔法が使えないからだ。

 ジョルジオ様は魔法使えるけれど、武芸の訓練を二人としたいと言って魔法の授業から離れていた。

 武芸は武芸でちゃんと授業はあるんだけどね……。


 三人は順番に模擬試合をすることになったみたいなんだけど、ジョルジオ様が木剣でスイフト様の腕を強かに打ってしまったのだ。

 結果、スイフト様の腕は紫色に腫れ上がってしまったのだけど、それをクレアが瞬く間に直し、「痛い所はありませんか?」とスイフト様に笑いかけていた。

 男子諸君はその笑顔に見惚れていたね、間違いない。


 さらに、模擬試合を続けても怪我をしないようにと教師が詠唱と魔法名をクレアへとレクチャーした結果、すぐに魔法を発動させることに成功していた。


 その魔法は防御魔法で、外部からの衝撃を吸収する者だった。

 木剣での攻撃なら全力でも数度は防ぐことができるようだった。


 ちなみに効果確認の際、自分が怪我をさせたのだからとジョルジオ様がスイフト様に全力で打ちこむように言っていた。

 スイフト様はすごいやりづらそうだったけど、結局木剣でジョルジオ様に打ち込み、ジョルジオ様は豪快に笑いながら魔法が機能していることを確認していた。


 で、その防御の魔法を立て続けに三人に掛けていた。

 どれくらいの魔力量を使う魔法かはわからないけど、最適化されていない光属性で、回復魔法と合わせて連続して使っても少しも疲れた様子が見えないので、魔力量は多い方なのは間違いない。


 回復したり、バフをかけたりするのが得意な光属性だが、精霊から祝福を得られる人は稀である。

 ただでさえ少ない光属性で、精霊王であるティターニア様の祝福を受けられる人はさらに少なく、100年に一人と言われている程に希少だ。

 ゲームと一緒なら、クレア本人はそうと知らずにティターニア様から祝福を受けているはずだ。

 いやぁ、主人公補正半端ないっす。


 さらに付け加えると、偉業を成し遂げた人の中にはティターニア様の祝福を受けた人が多い。

 建国の王や魔物の災害から国民を守った聖女が光属性だった。


 ここまでを前提として、マリアンヌ様が声を掛けてきた理由と、求めるゴールを考えよう。


 今日声を掛けてきた理由は先日の魔法を見たことか、今日一日萎縮してしまって何もせずにいたことか、もしくは萎縮してしまって昨日までの明るさが影を潜めてしまったことか。


 ありえる選択肢は……。

 全部……。


 そこから考えると、光属性の魔法がそれなり以上に使えるという希少性を含めて、政治的な意図を持って私に任せたんだろう。

 責任を持って社交界に出しても恥ずかしくないようにしろ、と。

 もちろん、魔法の実力を伸ばすことも求められているはずだ。


 何より大事なのは、クレアがどうしたいかだけどね。


 まぁ、色々考えたけど、私はクレアのことを友達だと思ってるし、結局やることは変わらない。

 やり方をちょっと変えなくっちゃだけど。


 でも、これはこれで悪くない状況かも。

 私だけでは共通の話題なんかないけど、ジョルジオ様、スイフト様、モロック様はクレアの魔法を受けたので話題はある。

 クレアも一人で貴族達と話すよりは私と一緒の方が気後れしないで済むだろう。




 その夜クレアを誘い、サラに作ってもらった食事を寮の自室で食べながら今日のことを話していた。

 ちなみにサラも同じ食卓についている。

 一人でご飯を食べても美味しくないと思うのは日本人だからだろうか?

 そんな私のわがままのためにわざわざサラに作ってもらい、自室まで運んでもらってる。


「ねぇクレア、今日一日どうだったかしら?」


「フロスト様が一緒にいなかったので、とても寂しかったです。私なんかが皆さんに話しかけてしまっていいのか不安で……。そうしたら、何をしたらいいか全然分からなくなってしまって……。」


「もっと自信をお持ちになって? 先日の魔法はとても素晴らしかったわ」


「でも、でも、フロスト様はもっとすごかったですっ! 詠唱もなしに魔法を使っていたじゃないですかっ! 村では私しか魔法を使えなかったから他の人のことなんて知らずに己惚れてました……。やっぱり私なんかが学院に入るのは恐れ多かったんじゃないかって……」


 魔法は大きく分けて2種類ある。

 詠唱魔法と無詠唱魔法だ。


 詠唱魔法は詠唱、魔法名を正しいリズムで唱えることで発動する魔法で、発動さえできてしまえば効果は誰が使っても同じものになる。


 というのも、詠唱魔法は精霊に魔力を渡して力を借りる儀式のようなものなのだ。

 自分の属性と一致する魔法で、祝福を授かった精霊の格と魔力さえ足りれば使えるし、長い時間をかけて最適化され続けているので使用する魔力量と効果のバランスがいい。


 対して無詠唱魔法は術者の魔力とイメージで発動する魔法だ。

 自由度はかなり高いが、使用する魔力量が詠唱魔法に比べて段違いに多い。


 詠唱魔法と大きく違うのは、無詠唱魔法は精霊ではなく、術者が魔法を一から作り上げる。

 だから、個人個人の技量に大きく左右されるし、大概の術者は無駄が多くなるため使用する魔力量が大きく、効果とのバランスが悪い。

 さらに一つの魔法を発動できるようになるまで詠唱魔法と比べて膨大な時間がかかる。


 だがロマンだ。


「あまり謙遜しすぎると嫌味になってしまうものよ?

 クレア、あなたは光属性の使い手というだけですごい稀な存在だし、光属性は過去から使い手が少ないから最適化も進んでいないの。それなのに立て続けに魔法を使ったあなたは、やっぱりすごいのよ。

 誇りなさい。それにね、無詠唱魔法なんて所詮趣味みたいなものよ?」


「……。

 すごくなんか、ないです。

 学院に入るのが怖くて、村しか知らない私が貴族様と関わらなきゃいけないなんて、ホントはすごく嫌だったんです……。

 そこにフロスト様が声を掛けてくれたから……。可愛いって、すごいって言ってくれたから……。


 だから、私頑張れたんですっ! 私を可愛いって、すごいって言ってくれるなら、もっと一緒にいて下さいっ! もっと色んなことを教えて下さいっ! 私、ホントは不安で不安でしかたがないんですよぅ……」


 彼女の心を埋めるのは、本来は攻略対象達だった。

 それを私が邪魔してしまったのか。

 だとしても、彼女を支えなければならないのはきっと今だ。

 今ここに私しかいないなら、私が支えるべきなんじゃないか。


 椅子に座って大きな瞳に涙を浮かべるクレアの前に行き、私は自然と抱きしめていた。


「しょうがないなぁ。

 いいよ、クレアが立派なレディになるまで私が側にいて上げる。

 ってゆーのもちょっと違うかな。私もクレアと一緒にいると楽しいし、物覚えがいいからもっと教えて上げたいの。

 本当はね、私貴族なんかガラじゃないんだ。家とか他の貴族のこととか、政治的なことを気にして見栄を張ってただけなの。こんな見栄っ張りな女なんだけど、それでもクレアは一緒にいてくれる?」


「フロスト様、口調が……」


「あぁ、うん。サラといる時はこんな感じなの。これが本当の私。他人に見せるのはクレアが二人目。他の人には内緒よ?」


「あ、あ、ぐすん。嬉しいですっ! フロスト様とホントのお友達になれた気がしますっ!」


「そうだね、私もそう思うよ。で、私の告白に返事は貰えないの?」


「あ……、私と一緒にいて下さいっ!」


 そういって、私を抱き返すクレア。


「フロスト様、フカフカして暖かいです」


「あ? 誰がデブだって?」


「そんなこと言ってないですっ! でも、全部含めてフロスト様が大好きですっ」


「んんっ。わ、私もよ」


 はっ、チョロインか、私。


「もう一つ、わがまま言っても良いですか?」


「ん、言ってみて。約束はしないけど」


「んと、お姉様って呼んでもいいですか?」


「ほわっ!? な、なんで?」


 友達になったんちゃうんかーいっ!


「フロスト様は私に一杯一杯良くしてくれてます。色々なことを教えてくれます。なんか、そういう頼れる人って友達っていうより、お姉ちゃんみたいかな、って……。ダメですか?」


 上目遣いは反則だ。


「えっと、それは……」


「よろしいですか、お嬢様。お嬢様のお姉ちゃんは私。その妹の妹も私の妹になりますが、よろしいのでしょうか?」


「妹がゲシュタルト崩壊するよっ! ってゆーかいつの間にサラが私のお姉ちゃんになったのっ!?」


「はて、主の心の声を聞くのもメイドの努め。間違ってないと思っていますが」


「ぐぬぬ……」


「「それで、いいんですか?」」


「あーもうわかったわよっ! 好きに呼びなさいっ」


 最終的に夜遅くまで三人でずっとおしゃべりをして、なし崩し的に三人で寝ました。

 さすがにサラは拒否していたけど、二人で両脇を抑えて、主のお願いをしてなんとかした。

 貴族ってことを忘れて、久々に前世の女子会みたいな感じで、楽しかった。




 眠りに着く直前、悲しい出来事に気付いてしまう私。

 クレアを抱きしめた時のことだ。

 クレアの腕は私の体を抱き返しきれていなかった。

 小さな子供がお父さんに抱き着いたけど、背中に手がまわりきらないから手をパーにしてギュッとしている微笑ましい光景と一緒だ……。


 そして私自身も泣き笑っているクレアの体に回した手が両手の指を絡められるぐらいまでしか回しきれていなかった……。


 もぅマヂ無理。。。ダイエットしよ。。。


 あの時、サラが冷ややかな目で私を見ていたんだけど、この事だったとき気づいて私の心はさらに抉られた。

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