第4話 やっぱりここは乙女ゲーの世界にそっくりで、やっぱり私は太っている

 クレアが同じクラスだったという衝撃から心を落ち着かせてクラスを見渡す。

 机と椅子が全部で十セット用意されていた。

 しかもそのうち何個かはあきらかに学院の備品とは思えないほどに豪華なんですが、それは……。


 そしてクラスには既に九人が入室していた。

 ヤバッ、私最後じゃん。

 太ってるから歩くのが遅いとかそそそそういうんじゃないんだからねっ!?


 で、クラスメイトの内訳は、おそらく攻略対象だろう三人。

 公爵令嬢と二人のご令嬢――いわゆる悪役令嬢とその取り巻き――。

 そしてクレア。

 残り二人と私がモブになると……。


 あ゛あ゛ぁぁぁあああああああ!

 なんでメインキャラ達が同年代なのよぉぉ!?

 知っていれば巻き込まれないようにBクラスを狙ったのにぃぃぃ。


 あ、そういえばお父様が第二王子もご入学されるから粗相のないようにって言っていたような……。

 私のばかぁぁああ!


 こうなったらモブはモブ同士で仲良くする方向でいくしか……。


「フロストさんっ! またすぐにお会いできて――」


 ワタシモダヨー。


 心苦しいが、一旦クレアの言葉を手で制する。

 貴族にいきなり話しかけるのはマナー違反と周りに受け取られるし、それより私は下位貴族の令嬢としてしなければならないことがあるから。


 少し迷ったが、私はマリアンヌ・エスポワール公爵令嬢の前へと進み、礼をしてそのまま姿勢を固定する。

 学院に入学したので、服は基本的に制服を着ている。

 前世の女子高生程ではないけど、それなりに短いスカートを摘まむのはちょっとアレなので礼だけだ。

 マリアンヌ様はゲームのスチルではなく、実際に社交界で遠目から見たことがあるので、間違えようはない。


「許します」

「ティターニア様の光あふれし日にお目に掛かれたこと、光栄に存じます。わたくしトーマス・ベルガモット男爵が娘、フローレンシアと申します。以後、お見知りおき下さい」

「わかりました。下がりなさい」


 ふぅ……。

 とりあえずは及第点かな。

 第二王子に先に挨拶するべきかと少しだけ迷ったけど、まずは王子の婚約者でいらっしゃるマリアンヌ様に令嬢としての筋を通すことにした。

 王子に気に入られようとしている女っ! とか思われるとすごく面倒な気がしたので。


 男の場合は間違いなく王子へ挨拶に行った方がいいんだろうけど、男爵令嬢が何の根回しもせずに行くとその後の展開がちょっと予想できない。

 もしかしたらひどいいじめを受けるかもしれない。

 まぁ学生だから最悪少しくらいの無礼は許してくれる、だろう。

 だよ、ね?。ともかく、筋は通したし後で王子にも挨拶に行った方がいいかな。


 ってゆーか、マリアンヌ様超怖いな。

 学生らしくないというかなんというか……。


「あ、あのっ、私ク、クレアと言います。これからよろしくお願いします」


 うわーっ! まってぇえ!!

 クレアの声に驚いて二人を目だけ動かして確認する。

 クレアは挨拶の後、会釈の態勢とる。

 一方マリアンヌ様は……。眉をしかめて……。


「平民として礼を尽くそうとする気概は買いますが、次はありません。心に銘じておきなさい」


「お言葉を挟み、申し訳ありません。この者についてはわたくしが最低限の事を教えます。どうかご容赦下さい」


「許します。……それと、あなたは少しお痩せなさい? 男爵位とはいえあなたも貴族の令嬢。そしてAクラスの一員なのだから恥ずかしくないように」


 んだとごるぁ!?


「あ、あの……」


「クレア、いいから一緒に下がって」


 私はマリアンヌ様の前から下がりながらクレアに耳打ちする。

 最初だから多めに見てくれたんだろうけど、これ以上貴族のマナーから反することをし続けたら不興を買いかねない。

 あと私の気持ちが抑えられない。


「あ、あの……。私何か失礼なことをしてしまったんでしょうか……。それに、フロストさ、まは貴族様だったんですね……」


「貴族のマナーに反していたのよ。学院は平等を唄っていても実際は貴族社会の入り口なの。私は男爵家の娘でしかないけれど、これから時間を見て色々と教えて上げるわ」


「あ、ありがとうございます! 私、本当にわからないことだらけで……。でも貴族様が私なんかに色々教えて頂けるんでしょうか……」


「ん? もちろんよ。あと、私なんかなんておっしゃらないで。それにわたくしに対してそんな畏まらなくていいのよ。我が家は男爵家だから。領内では領民達と一緒に騒いだりもするのよ?」


 つい前世感覚で助けちゃったよぉぉおお!!

 貴族らしく本当は相手にしないのがベストな選択だだろぉお!?

 ってゆーか、クレアは天使かよぉぉ!?

 その手を胸の前でギュっと握って上目遣いとか反則だろぉ!

 狙ってやってんのかこいつはよぉぉお!?


 軽く悶えていると程なくして教師がやってきた。

 他の席に全員ついていることを確認して私達は空いている席に急いで座るのだった。




 教師が自己紹介をして、生徒も自己紹介をすることに。

 次々と自己紹介をしていくクラスメイト達。


 この国、アデザール王国の第二王子であるアルヴァン・アデザール様。

 金髪碧眼のサラサラヘアで完璧なイケメンである。

 完璧すぎて他に言うことはない。


 王国一の騎士団を率いる騎士団長の息子ジョルジオ・キットール様。

 茶髪に赤味がかった目をしていて、身長は高く、細マッチョ。

 とても精悍で整った顔立ちをされている。

 ザ・肉体美。いや、制服の上からじゃわからないけどさ。


 ここ10年程で発展目覚ましいパイソン商会の一人息子スイフト・パイソン様。

 灰色の髪と青い目をされた細身のイケメン。

 お二人に比べて落ち着いた印象を受ける。

 スイフト様のお父様である商会長は爵位を買っているようで、商会名であるパイソンを名乗っている。

 本来は一代限りだから子供が名乗るのはアレだと思うのだけど、スイフト様個人としても爵位を買っているのかもしれない。


 以上の三人は私が思っていた通りやはり攻略対象だった。

 この世界に来てから合ったことはなかったけど、明らかに雰囲気が他の人と違いすぎるもん。

 ちなみにあと二人の攻略対象は二年生に一人と、来年新入生として入ってくる後輩が一人いる。


 マリアンヌ様の側にいる二人は伯爵令嬢と子爵令嬢のようだ。

 名前はスージー様とルビー様。

 ルビー様はスージー様の分家筋みたい。


 あとは二人のモブ仲間である。


 一人は他国からの留学生であるハナビス様。

 先程門で見た方だった。

 性も身分も明かさなかったけど、上位の貴族だと思う。

 そもそも他国に留学できるのがどんなに低く見積もっても王国でいう伯爵以上の親族できないとできないだろうし。

 影のある人だけど、そのミステリアスさがちょっと素敵。


 もう一人はモラウロス子爵の息子であるモロック・モラウロス様。

 領地は離れているため初めて見る方だが、男らしい顔と体格をしている。

 すごく頼りになりそうな人だ。


 この二人が私のバディ候補だなっ!


 ちなみに私は自己紹介の時、血の滲むような練習をした無詠唱魔法と共に自己紹介をした。

 室内にも関わらず、その無詠唱魔法の効果で髪と服をサラサラと揺らしながら挨拶したのである。

 無詠唱は緻密に風を操り、強弱も自由にできる優れものである。



 クレアは目を輝かせてくれたけど、他の人達は最初は驚いて、すぐに目を逸らしていた。

 解せぬ。


 自己紹介が終わると教師が色々と学院について説明してくれた。

 日本の学校と同じように三学期制になっていることと、大まかな一学期の予定、バディの事などを。

 ゲームでもそうだったしすんなりと頭に入っていった。


 逆にゲームとは違うというか私が知らなかったというか、バディのパートナーは異性でも同性でも構わないし、BクラスやCクラスの人と組んでも構わないらしい。


 攻略対象には年上も年下もいるので、二年生と組むこともできるのはなんとなくわかっていたけど。

 少なくとも一学期は一年生同士で組むようだ。


 一学期は夏休みの前に初の魔物討伐がある。

 二学期は複数回あるそうなので、モブ仲間とかBクラスの人や上級生とか色々な人と組んでみたいものだ。






 入学から二週間がたった。

 クレアには時間がある時に勉強や貴族社会での礼儀などを教えている。

 クレアは案の定というか、とても頭が良い子だった。

 記憶力はもちろん、頭の回転も速い。

 教えているこちらが面白くなってしまう程だ。


 クレアは教えてもらってばかりは悪いと言って、お礼としてお昼のお弁当を作ってきてくれるようになった。

 最初こそ貴族に自分の手料理を振る舞うことに恐縮していたけど、食べてみたらこれがもうおいしい。


 学園には貴族向けの豪華な学食があるんだけど、男爵家にとっては高すぎとはいかないけれどそれなりのお値段だ。

 もちろん、値段通りにおいしい。

 けど、クレアが作ってきてくれたのは平民のお弁当って感じなんだけど、とてもおいしい。

 どこか前世のお弁当を思い出すので思い出補正もあるかもしれない。


 クレアは決して裕福な家ではない。

 平民でAクラスに入れる程だから学院から援助を受けているのは間違いないけど、食費を圧迫させるのは心苦しいし、貴族としてメンツが立たない。

 なので、サラに晩御飯をクレアの分まで用意してもらったり、お菓子を作ってもらったりしてクレアと一緒に食べた。


「お嬢様、最近また少し……」


「っ!?」


 そんな日々を送っていたある日、お風呂に入って寝間着に着替える時、サラからそう告げられたのだった……。


「ク、クレアは危険だっ! あの子は私を太らそうとする刺客だったのかっ!」


「んなわけあるか、お嬢様」


「そのとってつけたお嬢様って何なの!? ってゆーか何が原因だっていうのよっ!!」


「お嬢様の意思の弱さだと思います」


「すいませんでした……」


 その後、むちゃくちゃふて寝した。

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