第3話 そんなベタな展開あるわけないじゃないですかー
バディシステムを利用して素敵な方を見つける目標を立てた私だけど、何も無策ではない。
何せ、お菓子を食べても、ご飯を食べて寝ても、毎日の魔法練習だけは欠かさなかったのだから。
しかも、精霊王であるシルフィード様から直接祝福を頂いている。
私の魔力量は多分、おそらく、きっと結構すごい。
領地じゃ比べる対象って家族くらいしかいないからはっきりはわかんないんだけど……。
ともかく、きっとすごい私が魔法の授業で実力を示せばモテモテに違いない。
「お嬢様、お顔が少し崩れております」
「え、ちょっとニヤけるだけでそこまで言われなきゃいけないの?」
メイドの言うことなど放っておいて、私は授業での活躍をイメージする。
ふふふ、どうやってずっと練習してきた魔法を披露しようかなぁ。
そんなイメトレと学園生活の準備をしていると、あっという間に入学式の日がやって来る。
寮と学園は繋がっているため、先日のように門をくぐる必要は本来ない。
ないのだが、日本人として何度も繰り返してきたからだろうか。
今日は無性に門からちゃんと入りたくなり、サラには無理を言って一緒に来てもらっている。
門を一度出て、少しブラブラしてから門へ向かう。
だってさ、門を出てすぐまた門の中に入っても情緒がないじゃない。
サラには変な目で見られていたけど、そんな視線ごときで私の心は折れないのだよ。
ふふん。
しばらく歩いてから門に着くと、一人の少女が学院を見上げていた。
私がやりたいことを先にやられているじゃないか、くそう。
ただ、そんな感想などすぐに吹き飛んでしまう。
心を奪われる、という気持ちを私は前世も含めて初めて味わった。
プラチナブロンドの髪は緩くウェーブを描き、肩口より少し長いくらいのミディアムヘア。
身長は私と同じくらいの150cm半ばくらいだけど、ピンと伸びた背筋が実際の身長よりも堂々と見せる。
全体のイメージはとてもかわいらしい。
それなのにどこか儚い雰囲気も持っているのだからもう訳が分からない。
目が離せない。
息が止まる。
その少女はまるで天使のようで。
……私にそっちの気はないのに。
どうにも私の視線は不躾だったみたいだ。
件の少女がこちらに気付くと同時にサラから脇腹を小突かれる。
「ぐっふぅっ」
「あ、あの……。私何か失礼なことをしてしまったでしょうか?」
私の方が不躾な視線を向けていたのに、少女は先程までの雰囲気から一変、おどおどした感じで話しかけてきた。
あ、そうか。
制服が一緒だから気づかなかったけど、この少女は平民なのかな?
学院の生徒は貴族が多数を占めるけど、一部の才ある平民も受け入れている。
とても優秀か、金銭による献金が必要になってくるけど。
少女は恐らく前者だろう。
後者であれば貴族との付き合い方も知っていてしかるべきだから。
「いえ、あなたが何かをしたということはありませんわ。このような所で精霊の息吹を受けたかのような可憐な花を思いもがけず見つけたので、思わず見惚れてしまっていたのですわ」
「えっと、お花……ですか?」
前者で決定ね。
「ふふふ。少し遠まわしな言い方でしたわね。あなたがあまりに可愛いから少し見惚れてしまって。ただ、ここは貴族の馬車も通ります。上ばかり見上げていると邪魔になってしまいますよ」
「わ、あわわわ。か、可愛いだなんて……。えと、そうじゃなくて……。じゃ、邪魔になってしまうんですねっ。私都会に来るのも初めてで……。ご丁寧に教えて下さってありがとうございます」
「困ったときはお互いさまですわ。さ、そろそろ入学式が始まる時間になります。途中まで一緒に参りましょう?」
「あ、はいっ!よろしくお願いします」
ひまわりのような大輪の笑顔だった。
この子は天使かな?
歩き出す前に今度は私が学院を一目見上げて、再度心に誓う。
素敵な方を見つけて必ずロラン様を見返してやると。
そして、少女の方を振り向いた時、黒髪黒目の男子が目についた。
なんだろう? 見覚えがあるような気が……。
この世界では黒目黒髪は珍しいけど、前世では逆に黒目黒髪ばかりだったのだ。
もしかしたら前世の知り合いに似ているのかもしれない。
そう思い、少女と共に歩き出す。
「お嬢様、よろしいのですか?」
「現実はどうあれ、建前上は学院で貴族と平民の隔てはないんだから、いいんじゃない?」
「お嬢様がそう言うのであれば、私から言うことはありません。ただ、他の方の前では……」
「えぇ、わかってるわ」
小声で話しかけてきたサラに返事をする。
学院側は貴族も平民も平等に扱うと主張している。
だけど、この世界で育った私には実際の貴族社会がそんなに甘くないことを知っている。
貴族同士でさえ階級の縛りを逃れることはできないのだから、平民など上級の貴族からすれば目にも入らない塵芥のようなものだ。
だからこそ、サラは平民である彼女が厄介ごとの種にならないかと心配して忠告してくれたのだ。
私自身のサラに対する態度が貴族としては異端であることは自覚しているし、サラもそれを理解して私に接してくれている。
それでも、見ず知らずの平民に同じように接するなという意味と、他の貴族の前では同じような態度をとるなという意味を込めたんだと思う。
『プリンセスソード』では貴族と平民について具体的に描写されていないけど、貴族として育ってきた今ならやっぱりあの世界はゲームなんだなと思わずにはいられない。
いくら学院の中とはいえ、平民から貴族に声を掛けることなどあってはならないのだから。
そしてもしもめ事になるようであれば、裏で始末されてもおかしくない。
日本人の感覚ではありえないと思っている一方で、貴族としての私はそれが当然のように行われる可能性があるとも思っている。
式が行われる校舎前までの距離は短い。
平民で入学するのだから相当優秀な子なのだろう。
何かしらの縁故を結んでおくのも悪くないと、少しだけ話をすることにした。
「自己紹介がまだでしたわね。わたくしはフローレンシアですわ。どうぞフロストとお呼びになって」
「はいっ! フロストさんですねっ! 私はクレアといいます。これからよろしくお願いしますねっ」
っはーっ。笑顔が眩しいっ! やっぱり天使かな?
ってちっがーうっ!! ま、まさかの主人公と同じ名前!?
ゲームのイラストと現実に差がありすぎない!?
三次元の女の子にこんな衝撃受けたの初めてだけど、ある意味納得だよっ!
もしかしたら万が一極低い確率で主人公じゃないかもしれないけど、この子がマジ天使なのは間違いない!!
すっごい可愛くて、これから是非とも仲良くしたい。
けれど、目の前にいるクレアがメインヒロインだとしたら、これから彼女は高位の貴族達と関わっていくことになる。
そうなると平民と貴族間での厄介ごとが起こる気しかしない。
クレアを守って上げたくなる気持ちはあるけど、男爵家の令嬢としては関わるべきではない、か。
「さて、ここでお別れですね。機会があればまたお会い致しましょう。それでは失礼致しますわ」
「あ……。はい……」
短い距離を歩き、すぐに別れる。
サラともここでお別れだ。
彼女には寮の部屋で待機してもらうことになる。
少し冷たいようだが、ここでクレアとはお別れしなければ。
私達は貴族と平民。
校舎ですれ違うことはあっても、今後一緒に行動することなどはないだろう。
学院の交友関係ですら選ばなければならないなんて、貴族社会とはなんて窮屈なのだろう。
少しだけ、胸が痛い。
式は恙無く終了した。
生徒達は事前に連絡を受けているクラスへと向かう。
クラスは学力試験と魔法か武芸の試験結果で総合的に振り分けられているそうだ。
私は学年でもっとも優秀なAクラスに振り分けられた。
ふっふっふっ、魔法だけでなく勉強もぬかりはないのだっ!
前世で数々の受験戦争を生き延びた私を舐めるなっ!
とはいえ、私はあくまで男爵令嬢。
このクラスには上級貴族も多いはずだ。
あまり目立たぬよう、おしとやかに教室の扉を開けて入る。
……。
……デスヨネー。
えぇえぇ、そりゃそうでしょうとも。
あんな可愛い子が主人公じゃないわけがないし、主人公は光魔法の強力な使い手で、しかも勉学も優秀だからこの学校に入れているんだから。
そう、クラスには先程のクレアがいたのだ。
私の純情、返せ……。
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