第2話 恋をするのに三年も必要ありません!

 王立貴族学院アデリオンへ入学する一週間前。

 私と専属のメイドであるサラは学院の門へと足を踏み入れていた。


 桜の木が花を八分咲きにして私を迎えてくれる。

 前世と同じように四月の桜に迎えられて学院へ入学することになる。


 暦や季節感なんかは日本と同じである。

 四季は日本よりは大分穏やかだけど。


「サラ、今のわたくしどうかしら?」


 学院の制服に身を包んだ私はサラに声を掛ける。

 身長は私より少し高い一六○センチくらいで、金髪の髪をポニーテールにしているメイドである。

 目は少々吊り上げっており、やや冷たい印象を受ける顔立ちだ。


「どう、とは? 制服が似合っているか、学院にふさわしいか、ということでございましたら、まぁ最悪一歩手前という所でしょうか」


「え? なんで?」


「以前に比べればお嬢様の体系は良くなりましたが、まだまだデ……肥満の範疇でございますからね。他の子息子女と比較するとどうしても見劣りしますね」


「デブって言おうとした!? ねぇあなた今デブって言おうとしたわねっ!?」


「いえ、肥満と」


「わがままボディって言ってよ?」


「つまる所、デブですよね。それって」


「何このメイド、きっついんだけど」


「お嬢様が私を連れてきたんじゃないですか」


「そうなのだけど……。もう少し傷つきやすいわたくしに優しく接してもいいのではなくて?」


「お嬢様の装甲は分厚いですから」


「ぶっひーっ!」


「そこはむっきー! とかではないんですか。そんなことよりお嬢様、早く寮へと参りましょう。私の方でお部屋を整えなくてはなりませんから」


「そ、そうね。行くわよ、サラ」


「はい」


 王立である学院は王都に立てられており、通いも寮住まいも許可されている。

 男爵家であるベルガモット家も王都に邸宅を持っている。


 が、私は邸宅から通うことにメリットを感じなかったので寮住まいにさせてもらった。

 その代わりといってはなんだが、専属のメイドとしてサラを付けてもらったのだ。


 ちなみに、お父様とお母様はベルガモット領にいらっしゃる。

 それでも有事のために王都に邸宅を構え、維持費がかかるのだから厄介な物だ。


 この口が悪いメイドだが、我が家の筆頭執事であるブライアンの娘で子供の頃からの専属メイドだ。

 年齢は2つ年上である。


 小さな頃はそこまで仲が良いわけではなかったけど、十歳の時に前世の記憶を思い出してからは、色々あって今や悪友や姉のような感覚で接している。

 それ以来私達はべったりなのだ。

 べったり、だよね? 本人に聞いたらどんな答えが返ってくるかわからないから聞けないけど。


 そんなわけで、私達は学院の寮へと入り、学院生活へ向けて準備を進めるのだった。


 貴族の爵位はゲームと一緒で、たぶん日本人が思い描く中世ヨーロッパのイメージ通りだと思う。

 基本は公、侯、伯、子、男といった階級になっている。

 その他にも一代限りの爵位では準男爵や騎士爵、準騎士爵などもある。




 そんな貴族の子弟たちと少数の平民で過ごす学生生活において、私は運命の人を必ず見つけ出す!!

 ゲームであった『バディシステム』を使って!!



 乙女ゲーである『プリセンスソード』には、他の乙女ゲーと比べて特筆して異色な所が存在した。

 それはシミュレーション要素だ。

 え?  恋愛シミュレーションゲームなんだから当然だろうって?

 チッチッチッ、そうではないのだよ。恋愛ではなく、戦略シミュレーション要素があるのだ。



 この世界には魔物と呼ばれる生き物が存在する。

 魔物は人間を見ると必ず襲ってくる性質を持っており、人間はその脅威にさらされているのだ。


 プレイヤーは魔物の脅威を排除するため、一定期間毎に魔物討伐というイベントを行わなければならない。

 特殊なイベントでは魔物だけではなく、時には他国からの侵略を防ぐために戦闘が行われることもある。

 そのパートが戦略シミュレーション要素だ。



 戦略パートは乙女ゲーとは思えない程に本格的で、一般の乙女ゲーユーザーは挫折してしまう人が続出した。

 けれど、有志の方々がかなり充実した内容を攻略サイトでまとめ上げ、多くのユーザーがそれに救われたのだ。

 かくいう私もそのサイトにお世話になった一人だ。


 ただでさえ面倒な戦略パートだけど、グランドルートに辿り着くためには各種条件を完璧にクリアしなければならず、各攻略対象の好感度も一定以上にしないといけないというハードさ。


 しかも、攻略サイトを見てミスなく進めても運が絡む要素も多々あり、攻略サイト通りにやれば一○○パーセントうまく行くわけではないようなので私は正直諦めた。


 ただまぁその戦略パートも悪い所ばかりじゃない。

 攻略対象の好感度を一番上げやすいのだ。


 戦略パートは二人一組のバディ組み、それを三組を集めて六名で一部隊を作って戦うシステムになっていた。

 この時、バディに選んだパートナーの好感度が爆上がりするシステムになっていたのだ。


 とはいえ、この世界はゲームじゃない。

 でも、でもね? 訓練を共にし、魔物との死闘を生き残れば恋心の一つや二つ芽生えてもおかしくない!

 そう! 吊り橋効果を狙って運命の人をゲットするのだっ!!


 恋したり婚約をするのに、ゲームみたいに三年もかけていられない!


 そのためにも私は学院で優秀な成績を納めるつもりでいる。

 勉強も魔法もトップクラスを目指し、大活躍すれば色んな出会いがあるに違いないからっ!


 素敵な方とバディを組んで、運命の人を見つけ、学院で沢山の素敵な思い出を作ってやるのだっ!


 そして、今度こそ幸せになるっ!




 あ、もちろんちゃんとダイエットしますからそんな目で見ないでくれないですかね、サラさん……。

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