囲い込み・路地裏・逆風

 お祭り当日。

 連盟前の大広間を埋め尽くさんばかりの人、人、人! 大勇者アストラや聖美魔女パーズさんの周りは特に層が厚いようだ。


「リセ・ヴァーミリオンだ!」

「え、マジ? ホンモノ⁉︎」

「わー、ほんとに髪ピンクなんだねぇ」

「ちっちゃ!」

 ……。

 囲まれるのは嬉しいけど、不本意な評判だ……!


「え、あの……ハイ、リセ・ヴァーミリオンです……ハイ」

「すげー! ホンモノ? ホンモノ⁉︎」

「酒場厨房のリセ⁉︎」

 しかもみんな結構ガタイがいいから、威圧感がすごい。怒られてるみたいだ……。


「リセさん、こっちです」

 と、ボクの手を引くちっちゃい手。

「……ふぅ。助かったよ、ありがとアサナちゃん」

 ボクを助けてくれたアサナちゃんに連れられ、人目のつかない路地裏へ。


「きっと困っていると思いまして」

「よくボクがあそこにいるってわかったね」

「一際大きな人の輪ができてましたから。後見人として鼻が高いばかりです」

「はは……」

 ありがたいこと……なのだろう。

 いきなりだらけで追いつけないけど。


「アサナちゃん、こんなとこまで何しに?」

「用がなきゃダメ……ですか?」

「そんなことはないけど……」

 上目遣いがあざとい。あざといのはいいことだ。


「ふふっ。すみません、イジワルを言いました。今年はシン王家が開幕と閉幕の挨拶をすることになっています。クソ親父……お父さま……ラヴァンドラも目を覚ましたので、政治的なものですね。あ、まだリセさんが次期シン王だと発表はしません。あくまで、アレの崩御のあと、です」


「……アサナちゃん、お父さんのこと嫌いなの?」


「あんなの、好きになる人なんてアホですよ」

 じゃあベルさんは好きになるのか。


「……だとしても、思いやってあげられるのも今のうちだよ。後悔だけはしないように」

「はい。ありがとうございます、リセさん」



◆◆◆



「おォリセ、こんなとこにいたのか」

「リオンちゃん」

 アサナちゃんと路地裏で他愛のない話をしていると、呆れた様子のリオンちゃんが来た。


「リオンちゃん、じゃねェよ。ラヴァンドラ陛下の挨拶、終わっちまったじゃねェか」

「えー、もったいない」

「吐いて捨てるべきですよ、アイツの言葉なんか」

「まァ、アタシもパパの話はかったるいしな」

 やっぱり、アサナちゃんの陛下へのアタリが強い。……お母さんが、って言ってたからね。

 ……リオンちゃん、パパって呼んでるのか……お兄ちゃんのことも大好きだし……。


「どんなお話をなさってたの?」

「リセさん、畏まる必要はありませんよ」

「そォいやリセ、王位継承者だったもんな」

「ホントそういえばだよね」

 人に恵まれた以外は特に有り難くない肩書きだ。


「ど、どッ……、どんな、話、してた、……?」

「リセ、顔ォ……」

 口元を抑え笑うリオンちゃん。仕方ないじゃん、恐れ多いんだし。変な顔にもなるよ。


 いやしかし、この背徳感? クセになるな。ニヤニヤしてしまう。


「で、なになに?」

「お、ここにいたか。ラヴァンドラ陛下の話はもう終わってしまったぞ」

 ベルさんと同じやりとりをした。


「大迷宮祭に、王家直属の騎士団が参加するのだよ」

「騎士団?」

 珍しい名前が出たので聞き返すボク。


「騎士団⁉︎」

 肩を竦ませるアサナちゃん。

「え? ……騎士団⁉︎」

「いや、リセは驚くことなのか?」

「わかんない。アサナちゃんが驚いてたから……」

「ふざけてる場合じゃないですよ! ほかに何か言ったませんでしたか?」

「"これは示威だ"ともいってたなァ。なんのだ?」


「――――」

「アサナちゃん?」

 アサナちゃんの顔が青ざめていく。


「みなさん、その……今回の出場、辞退しませんか?」

「ムリ」

 その様子から、並々ならぬ理由があることはわかる。


 でも。いや、だからこそ。


「ねぇ、アサナちゃん」

「あーあァ……」

「まったく……」

 心外だな。


「それって、ボクたちに妨害が入るってこと?」

「……おそらく…………」

 去年までなかったもんな。フツーに冒険者連中がわーって集まって解散、出発! だったし。


 それで今回こうなって示威だっていうのは、あるいは王位を継承したボクへの威嚇だろう。アサナちゃんやエルドラドさまはともかく、針金細工ヤローヴァルハラさまやシャンバラさまはボクのことよく思ってないだろうし。ていうか王都に『赤』の悪評流したの誰だよ。ほとんど事実だけどさ。


 その王家さんが、アサナちゃんの驚くところの騎士団を持ち出したというのだから、妨害が目的と考えていいだろう。あるいは謀殺。はたまた暗殺。ダンジョン内ならそういうこともあるだろう、と。


「お邪魔上等。ダンジョンってのは、理不尽そうじゃなきゃ」

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