【短編】狐の子
大和あき
狐の子
そこは街が縦に並んでいるところだった。
そう、縦に。まるで首都圏の高速道路のように。
その中で街は大騒ぎになっていた。
無数の巨大鬼が街中で暴れまわっているのだ。
どうやらダンジョンから逃げ出したらしい。
その見た目は鬼というより、モンスターのゴブリンのような形状をしていた。
ぼくはお母さんと一緒に逃げていた。
ふいにお母さんは立ち止まって、携帯を取り出す。
「らき、お母さんの所にすぐ行きなさい」
お母さんは一言だけそう言って、自転車でどこかへ行ってしまった。
ぼくはお父さんの所へ走っていった。
お母さんはお父さんの居場所は教えてくれなかったが、ぼくはすぐに分かった。
神社である。お父さんは神社で仕事をしていた。
ぼくはこの時まだ六歳くらい。
小さな体で必死に神社へ走る。
お父さんを見つけるやいなや、すぐに「お父さん!」と言って胸に飛び込んだ。
「らき、来てくれたんだね」
お父さんは、ぼくの頭を優しくなでる。
この神社の周辺は、鬼がうろついている街に比べてとても静かだった。
「らき、お父さんはちょっと行ってくるから、社の中で避難しておいで」
お父さんは静かにそう言った。
「お父さん、ぼく、一人だと寂しいよ。鬼こわいよ」
ぼくは泣きながらそう言う。
「大丈夫。ほら、らきの中にいる狐さんが必ず守ってくれるよ」
ぼくは泣くと必ず狐の耳としっぽが出てくる不思議な体質を持っていた。
お父さんは、それをらきの中にいる守り神だ、といつも言っていた。
結局ぼくは社に籠ることになった。
最初は寂しかったけど、お父さんに救われた子供たちが次々に避難してきて、みんなで暮らせるようになっていた。
家事も皆でして、楽しかった。
お父さんとお母さんはいつ帰ってくるんだろうと思いながら、いつのまにか僕は大きくなっていた。
そして僕は髪の長い女の子になり、いつしか耳としっぽも生えなくなっていた。
幸いにも神社には鬼は来ず平和な毎日を過ごし、街は廃れて学校さえなかったが、生きている人も多かった。
16歳の誕生日、他の子どもたちには何も告げずに僕、いや、私は父と母を探しに社を出た。
【短編】狐の子 大和あき @yamato_aki06
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