四十四 決意?

 股間から伝わって来る、快楽の潮が、町中一の体中に広がって行き、やがて、町中一の全身は、その快楽に支配されて、すべての命令系統が遮断されてしまい、町中一は何もできなくなって、思考をも手放して、奇怪な喘ぎ声を上げ続ける、肉塊と化してしまった。




「チーちゃん。駄目うが~。止めてうが~ん。一しゃんが、壊れちゃううが~ん」




 うがちゃんが、激しく泣き出しながら、声を上げる。




「うがちゃん~? チーちゃんの所為~?」




 チーちゃんが、チーちゃんらしからぬ、元気のなくなったしょんぼりとした声で言う。




「うがの為にやってくれてるのは嬉しいうがあ~ん。でも、一しゃんが壊れちゃううが~ん」




 うがちゃんが言い終えると、ピタリと、でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁ~の振動が止まった。




「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっへ~ん」




 町中一は、痙攣しつつ、喘ぎつつ、息を荒げつつ、うがちゃんをこれ以上心配させまいとして、戻って来た意識が、再び、飛びそうになるのを、必死に、手放さないようにと、歯を食い縛る。




「でも~? 返事によっては~? チーちゃんは~? 鬼になる~?」




 チーちゃんが、羽音も軽やかに、町中一の耳元に近付いて来ると、町中一だけに聞こえるような小さな声で、とっても無慈悲に、なんでもない事のように、囁いた。




「やる。ぜし(ぜひ)、やらせていただきたい。皆と一緒に、小説を書きたい、いや、書かせて下さい。お願いします」




 決して、あの快楽が嫌なのではなかった。むしろ、望むところだったのが、人類には、まだ早いと、町中一の中にある、根源的な何かが、警告して来ていた。町中一は、その警告に従っただけだと、後に、この時の事を述懐している。




「一しゃん。本当うが? 一緒に書いてくれるうが? うがに小説の作り方を教えてくれるうが?」




 うがちゃんが、重く深い鉛色の雲間から、地上に振り注ぐ、天使の梯子のような、笑顔になりながら、町中一の目を見つめた。




「ああ。ああ。任せてくれ。俺のすべてを、君に伝える。それで、その力で、俺の事を助けて欲しい」




 自分でも本音なのか、建前なのかは分からなかったが、快楽の余韻で、まだ、半分溶けかかっている脳髄が、そんな言葉を、作り出させて、すらすらと、町中一の口から、吐き出させる。




「これで一件落着ねぇん」




「お母さん」




「スラ恵」




「それはもう良いから。お前らはもう、部屋から出て行ってくれ。今からは、真面目な時間だ。理由はどうあれ、やるからには、俺は、本気でやる。遊びや手加減は一切なしだ」




 これまた、本音なのか、建前なのかは、自分でも分からないが、そんな言葉が、口を衝く。




「あんたん、あの頃みたいな、目付きになって来てるわねぇん」




 ななさんが、心配と期待とが入り混じっているような、声音になって言った。




「何を今更。こんな俺を望んだのは皆なんだ。俺は鬼になる。小説を書く鬼になる。鬼になって、この世界で、賞を取って、小説家になる」




「賞って何うが?」




「ここで言う、賞というのはだな。どこかしらの出版社などが開催している、なんというか、コンペ、うーん? えっと、なんて言えば、良いんだろう。……。そうだな。賞を取りたい者達が、そういうのを募集している出版社に、自分達の書いた小説を見せて、その中で、一番出版社の連中に気に入られた奴の小説が、本になって売られたり、大々的に宣伝されたり、一番になったというご褒美で、お金を貰えたりする物だな」




「ねえ、ちょっと待って。こっちの世界にそんな物ってあるの?」




 スラ恵が、小首を捻りつつ言葉を出す。




「あるだろう? まさか、本とかがない世界とかじゃあるまいし」




 町中一は、言って、皆の顔を見回した。




「本って何~? チーちゃんは~? 本なんて~? 見た事ない~?」




「そりゃ、チーちゃんだからなあ。絶対に本とか読まなそうだしなあ」




 町中一は、デリカシーなどとは無縁の笑みを、顔に浮かべ、笑い声を上げる。




「うがも、本? なんて、見た事も聞いた事もないうが。お話は、村にいたお爺さんとかお婆さんとかが、話してくれてたうが」




「え?」




 町中一は、この世界についての己の知識のなさに、今更ながらに気が付き、本などが存在しない、もしくは、あっても、貴重品で、上流階級の者達の間でしか、流通していないという可能性を頭の中に思い浮かべ、その事に、恐怖と絶望とを覚えた。




「あんたん。魔法よぉん。魔法で調べれば良いのよぉん」




「そっか。そうだな」




 良し。早速、魔法を使って。って。ちょっと待った〜。どんな魔法にすれば良いんだ? この世界に詳しい誰かを呼び出すとかか? いや、俺にはそもそもこの世界の人間に知り合いはいない。女神様か? それとも、妖精女王か? 駄目だ。女神様や妖精女王を呼んだら、色々と面倒臭い事態になりそうな気がする。くっそう。この世界に、パソコンがあって、ネットがあれば良いのに。検索さえできれば、なんでもすぐに分かるのに。……。これは、まずいな。結構、困った事になりそうだぞ。小説を書くにしたって、うがちゃんに教えるにしたって、何かと、調べたい事が出て来た時に、このままだと、それを調べる術がないじゃないか。そんな事を考え始めて、頭を抱え出した町中一だったが、それは、短い間だけだった。




「おーう。そうか。魔法で、パソコンとネットを、いや、もっと、凄いのを、パソコンやネットなんかなくたって、この世界の事を、なんでも調べる事ができる何かを、作れば良いのか」




 町中一は、閃いた事を言葉にして、誰に言うともなく口から出すと、どんな物を作るかについて考え始めた。

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