四十三 ムラリーニとヌレリーナ

 ドンガラガッシャーンッという音がして、部屋のドアが大きく開き、スライム親子が、液体チックな体だけに、文字度通り、流れ込むようにして、部屋の中に入って来た。




 部屋の中にいた皆の視線が、一斉にスライム親子に向けられる。




「あ、あはははは。たまたまね。たまたま通りかかったら、あれ、あれよ。転んじゃって? 的な?」




 スラ恵が、右斜め上の方に、顔を向けながら、かなり苦しい言い訳を、途切れ途切れになりつつ、言葉にした。




「スラ恵。こういう時は、こうよ。お母さんは、いつだって、正直に生きるようにしてるの。だって、いつ死ぬか分からない身の上ですもの」




 お母さんスライムが、そこまで言って言葉を切ると、町中一のいる方に顔を向ける。




「覗いてたわ。興味があったの。それに、仲間外れは良くないわ。これも、何かの縁よ。スライム親子も、一しゃんの夢への再挑戦を応援するわ」




 お母さんスライムが言い、ドヤ顔をする。




「ありがとううが。皆で一しゃんを応援するうが」




「皆で~? 応援~?」




 うがちゃんの言葉を聞いて、一気にテンションがぶち上ってしまったらしいチーちゃんが、グルングルンと、激しい勢いで、縦に横にと回転した。




「あんたん。いつまで、そんなふうに顔を俯けてるのぉん? あたくし達の心は一つよぉん。後は、あんたん次第なのよぉん」




 町中一は、微かに顔を上げて、皆の表情を確認するように、顔と目を動かす。




「いや、でも、なあ。そんな、簡単な、事じゃない。応援とか、されても、結局は俺が一人で」




「一しゃんは、一人じゃないうが。うがも一緒に書くって言ってるうが」




「一しゃん。貴方の前世での経験がどれほど辛い物だったのかは、話を聞いただけでは、わえ達には分からないわ。けど、スライムにはこういう格言があるの。命短し思いのままに生きろスライム。わえ達は弱いでしょ? それで、いつ死ぬか分からないから。後悔だけはしないようにと生きろという意味よ。貴方は一度死んで、それでも、こうやって、もう一度やりたい事をやれる機会を得た。それを活かさない手はないわ。それに」




 お母さんスライムが、言葉を切って、顔を巡らせて、その場にいた皆の顔を見回した。




「うがちゃんが言ってたように。貴方は、もう、一人じゃない。皆がいる。仲間がいる。これなら、きっと、どんな困難でも乗り越えて行ける。皆の事を信じるの。貴方に必要な事は、それだと思うわ」




 お母さんスライムが言い終えると、スラ恵が、お母さん。と言って、お母さんスライムに抱き付く。




「お母さん。スラ恵、なんだか、ムラムラのムラリー二」




「スラ恵。もう。困った子。でも、でもね。お母さんもよ。ヌレヌレのヌレリーナ」




「お母さん」




「スラ恵」




 ぶっちゅちゅちゅっちゅーん。と、スラ恵とお母さんが、溶け合ってしまうのかと思う程の、熱いベーゼを交わし始めた。




「こらぁぁぁぁ。この家の中ではエッチな事は禁止だっ」




 町中一は、言うが早いか、スライム親子に近付くと、部屋の外に出そうとして、二人の体を押そうとする。




「ふわーおぉぉん」




 スライム親子に触れた途端に、両手がズブズブとスライム親子の体の中に入って行ってしまい、町中一は、その感触に、ゾクゾクとする快楽を感じてしまって、おかしな声を上げてしまった。




「もう。何? なんだかんだ言ってるけど、スラ恵達とエッチしたいの?」




 スラ恵が、唇をお母さんスライムから離し、上目遣いで挑発的な視線を、町中一に向けて言う。




「違~う。とにかく、そういう行為は、二人きりで誰も見てない所でやってくれ」




 町中一は、言いながら、スライム親子の中に、埋没してしまった両手を抜いた。




「あんたん。そんな事言ってもごまかされないわぁん。話の続きをするのよぉん。ちゃんと返事をしなさいよぉん。どうするのぉん? 書くのぉん? 書かないのぉん?」




 ななさんが、町中一に詰め寄るように、町中一の顔に、ラケットの体を近付ける。




「だから、それは、急には、決められない」




「情けないわぁん。皆に、ここまで言われて、それでも、まだ、駄目なんてぇん」




 ななさんが、ふいっと、町中一の顔から離れた。




「なんとでも、言ってくれ」




 町中一は、小さな声で言うと、今は、とにかく、この場から、離れたい。と思い、部屋のドアの方に向かって、歩き出そうと足を踏み出す。




「どこ行くうが?」




 うがちゃんの、不安そうな、寂しそうな声が、町中一の背中に、かけられる。




「ちょ、ごめん。少し、一人になりたい」




 背後で、うがちゃんが動いたであろう、音がした。




「行っちゃ駄目うが。皆が、傍にいるうが。うがも、傍にいるうが。だから、行っちゃ駄目うが」




 背中に勢い良く、うがちゃんの体がぶつかって来て、その両方の、細い腕が、町中一のお腹の辺りに巻き付く。




「うがちゃんを~? また泣かせた~? 問答無用の~? でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁ~?」




 チーちゃんが、目にも止まらぬ速度で、町中一の体の前に移動し、これまた、目にも止まらぬ速度で、足を巨大化させて、でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁ~を、町中一の股間に炸裂させた。

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