四十二 これは、間違いなく、運命の出会いですぞ

 すべてを話し終えると、町中一は、口を閉ざし、うがちゃんの、反応を探るように、うがちゃんの顔を見つめた。いつの間にか、泣き止んでいた、うがちゃんの表情は、なぜか、楽しそうな物になっているように、感じられて、町中一は、その事に戸惑いつつも、うがちゃんが泣き止んでいると分かって、ちょっぴり、嬉しくなった。




「うがががが。面白かったうが。お話を聞かせてくれてありがとう、うが」




 うがちゃんが言って微笑む。




「チーちゃんも~? 楽しかった~? お礼に~? でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁ~?」




「チーちゃん。それはいらないから」




 町中一は、慌てて否定しつつ、うがちゃんの、表情を見て、その言葉を聞いて、ある一つ疑念を抱き始めていた。




「あんたん。あの子、あんたんの過去の話を、あんたんが作った物語だと思ってないぃん?」




 ななさんが、町中一の耳元に、打面を近付けて囁く。




「うん。俺も、今、そうかも知れないって、思い始めたところだ」




「どうするのぉん?」




「どうもこうもない。分かってくれるまで、本当の話だって、言い続けるしかないだろうな」




「そうねぇん。でも、あの子の、あの笑顔。あの子は、本当に、あんたんの作る愚にも付かない話が好きなのねぇん」




「言い方」




「冗談よぉん」




 ななさんが、笑いながら言い、町中一の耳元から離れた。




「なあ、うがちゃん。今の、俺の話は、全部、本当の事なんだ。俺が作った話、物語じゃないんだ」




「分かってるうが。一しゃんのお話は、とっても面白くって、うがは大好きうが」




 うがちゃんが、心から、そう思っているという事が伝わって来るような、表情を顔に浮かべた。




「えっと、俺が自分で言うのもなんだけど、あれだ。俺の、女性関係。物凄く、言い難い事なんだけど、女神様の事とか、驚かないのか?」




「……。女神様には、勝てないうが。でも、それは、今のこっちの世界には関係ないと思ううが。一しゃんが生きてる限りは、一しゃんはうがの物うが」




 うがちゃんが言い終えてから、きゃーうが。言っちゃったうが。きゃーうがと、顔を真っ赤にしながら、大きな声で言う。




「たははは。これは。……。どうしよう」




 町中一は、キュウッと心の奥底が冷えるような、感覚を覚えた。




「女の子って、強いわねぇん。あの子、腹を括ったみたいねぇん」




 ななさんが、感極まっているような声を出す。




「一しゃん。でも、うがは酷く傷付いてるうが。一しゃんは、女神様みたいな人がいるのに、うがの心を弄んでたうが」




 うがちゃんが、急に、しょんぼりとした顔になって、顔を俯ける。




「うがちゃん。ごめん。でも、悪気はなかったんだ。なんだか、そんな感じになっちゃったっていうか」




「お話、うが」




「また、何か話をすれば良いのか?」




「違ううが。うがに、お話の作り方を教えて欲しいうが。一しゃんと一緒に、お話を、物語を、うがは作りたいうが」




 うがちゃんが顔を上げて、何かを思い詰めたような顔をしながら、そう言った。




「話の作り方って、それはあれか? 物語の作り方って事か?」




「そう、うが。小説? って言ってた物の作り方うが」




「いや、でも、それは」




 町中一は、困惑し、狼狽え、言葉を失う。




「うがに教えるのは、嫌、うが?」




「そういう事じゃないんだ。でも、さっき話した通り、前の人生での事があって。今回も同じような人生を、歩きたくないっていうか、なんていうか」




 町中一は、歯切れ悪く言い、言葉を濁した。




「大丈夫うが。うががいるうが。前と同じようには、ならないうが」




 うがちゃんが、その目に何やら強い意志の炎を、宿しながら言う。




「チーちゃんも〜? いるよ〜?」




 チーちゃんが言って、優しい笑みを見せる。




「急に、そんな事、言われてもな。どうしたら良いのか、分からなくなる」




 町中一は、うがちゃんとチーちゃんの顔を見ながら、そう言った。




「うがは、これから、何があっても、一しゃんとずっと一緒にいるうが。だから、もう、前の人生とは、違う生き方になってるうが。それで、一しゃんは、前の人生で、一生懸命やった小説をもう一度やってみるうが。一人じゃ駄目なら二人うが。違ったうが。チーちゃんとななさんも入れて四人うが。うがは、一しゃんの夢を応援するうが。だから、うがと、うが達と、一緒に頑張ってみて欲しいうが」




 うがちゃんが、身を乗り出して、必死に、早口に、捲し立てるようにして言う。




「はい。降りて来ちゃいましたぞ~。チーちゃんは長生きしてるからこういう事があるんですな。これは、間違いなく、運命の出会ですぞ。二人はラブラブでんきぃぃぃぃあんまぁぁぁですぞですぞ」




 チーちゃんが、急に、オッサンっぽい声と珍妙な口調になって、言い終えると、足をクイックイッと誘うように動かした。




「チーちゃん。どうしたんだ? 何か、えっと、それは、何かの発作か何かか? それに、そんなふうに、突拍子もなく、運命とか言われても、全然納得できないし、でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁぁ~は今はいらないから」




「あんたん。チーちゃんはともかく、あんな小さい子に、あそこまで言われて、まだ、逃げるつもりなのぉん?」




 ななさんが、町中一の眼前に迫って来る。




「逃げるって、そんなふうに、言われても」




 町中一は、ゆっくりと、項垂れるように、顔を俯けた。

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