三十八 家

 突然の意味の分からない、町中一の行動を見て、ぽかんとしている、皆を尻目に、町中一は、うがちゃんと、そのまま走り続ける。皆から離れて、ある程度の距離まで行くと、町中一は、足を止めて、魔法を使った。




「うががが? これは、何、うが?」




 急に四方すべてを壁に囲まれた、空間に放り込まれたうがちゃんが、戸惑う。




「これは、俺の元いた、あ、いや、これは、えっと、あれだ。ただの家だ」




「家? うが? こんな、壁の家は、見た事がないうが」




「それは、きっと、俺の魔法のセンスが、ないからかな」




「センス、うが?」




「うん。どういうのが良いのか、分からなかったって事かな。うがちゃん、こういうのが良いとかってあるか? あれば、それに変える」




 うがちゃんが、顔を巡らせて周囲を見た。




「このままで良いうが。真っ白で、綺麗だと思うが」




「そっか。それなら、まあ、良かった。それで、これから、どうする? お風呂でも、ご飯でも、なんでもあると思うから、うがちゃんの好きな事をして過ごして良いぞ」




 生活に必要な物が、すべてが揃っている家を出したつもりだったので、町中一は言って、今いる部屋の中を見回した。




「なんでもあるうが?」




 うがちゃんが言い、すぐ傍にあった、ベッドの方に目を向ける。




「そういう家を出したつもりなんだ。ちなみに、ここは、子供部屋、みたいだな。あっちに勉強用の机があるし、ははは。良く見たら、テレビとかゲーム機とかもある」




 町中一は、あのゲーム機、動くのかな? 動くのなら、あれを使って、スラ恵とうがちゃんを遊ばせるとかも良いかも。と思った。




「これは、何、うが?」




 うがちゃんが、ベッドに目を向けたまま言う。




「それは、ベッドだ。寝る時に使う。ベッドとかって、こっちでは、使わないか?」




「こんなのは見た事がないうが。うがが住んでた家にも妖精さんの森にも、ベッドはあったけど、こんなのはなかったうが」




「上に乗ってみな。柔らかくって、びっくりすると思うぞ」




「柔らかい、うが?」




「うん」




「乗って良いうが?」




「この部屋は、うがちゃんの部屋にしようと思っているから、好きにすると良い」




「ありがとう、うが」




 うがちゃんが、嬉しそうに微笑みながら、ベッドの端にゆっくりと腰を下ろす。




「うがががが? 本当に柔らかいうが。こんなの初めてうが」




「上で飛び跳ねても良いぞ」




「飛び跳ねる、うが?」




「ああ。やりたくならないか?」




「うがが。微妙、うが」




 うがちゃんが、何やら、急に沈んだ顔を見せて、顔を俯けた。




「どうした?」




「スライムさん、そのままにして来ちゃったうが。怒ってるかも知れないうが」




「そんな事気にしなくて良い。俺が勝手にうがちゃんを連れて来たんだから。勝負とかエッチとか、変な事言い出しやがって。あれには、困ったもんだ」




「エッチ、うが?」




「いや、それは、どうでも良い事だから、気にしないでくれ」




「そう、うが」




 うがちゃんが、顔を上げると、町中一の目を見つめて来る。




「ちょっとぉん。あんたん。何よこれぉん。ドアに鍵がかかってるじゃなぃん。酷いじゃないぃん」




 家の外から、そんな、ななさんの声が聞こえて来た。




「仲間外れ~? チーちゃんは~?」




「これは、何かしら?」




「何か分からないけど、面白そう」




 チーちゃんとスライム達の声も聞こえて来る。




「もう来やがったか」




「皆を入れてあげないうが?」




「入れてやる気はある。だが、その前に、ちょっと、やりたい事がある」




「何をやるうが?」




「交渉をする」




「交渉、うが?」




「ああ。うがちゃんは、この部屋で自由にしていてくれ。俺はちょっと、皆が集まっている玄関の方に行って来る」




「うがも行くうが」




「来ても良いけど、卑怯な手を使うつもりだからなあ。うがちゃんみたいな良い子には、あんまり見せたくないんだけどな」




「うがは、どんな一しゃんを見ても、一しゃんの事を嫌いにならないうが」




 うがちゃんが、とても真剣な目で、町中一の目を見つめて来る。




「そんな目で見られる程の事は、するもつもりもないんだけどな。まあ、じゃあ、一緒においで」




「うんうが」




 うがちゃんと一緒に玄関まで行った町中一は、靴を履いたままでいた事に気が付いた。




「やべ。いきなり家の中汚した。うがちゃん。靴をって、そっか。うがちゃんは靴とか履かないか」




「靴がどうしたうが?」




「この家の中では、靴を脱ぐんだ。本当は、あそこのドアから、この家の中に入って、この俺達が今いる場所に上がる前に、靴を脱がとないけないんだ」




「うががが。うがの足の裏は、土土つちつちうが。これじゃ汚しちゃううが」




 うがちゃんが、自分の足を見て、困ったような、悲しそうな顔をした。




「それはしょうがない。気にしなくって良い。拭くか洗うかすれば良いだけだ」




「じゃあすぐに洗ううが」




「それじゃ、風呂場に行ってきな」




「どこに行けば良いうが?」




「どこだろう」




 町中一は、家の中を見回した。




「分からん。でも、ちょうど良い。風呂場を探すついでに、どこに何があるのかを見て来てくれないか? それで俺にもどこに何があったのかを、教えてくれると助かる」




「でも歩き回ったら、家の中が汚れちゃううが」




「それは」




 町中一は、あ。魔法。と思う。




「魔法を使っちゃおう」




 町中一は、靴を脱いで、脱いだ靴を靴箱の中に置いてから、家の中の、汚れた部分と、うがちゃんの足を、綺麗にするという魔法を使った。

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