三十七 危険な二人

 うがちゃんと、スラ恵が、じっと見つめ合う。ふんっと、スラ恵が、鼻がないように見えるにも関わらず、鼻で笑ったような声を出した。




「あらあら。スラ恵ったら、もう、男を他の女の子と取り合ったりして。スラ恵。負けちゃ駄目よ。お母さん、そう言うの、一度も負けた事ないんだから」




 お母さんスライムが、嬉しそうに、微笑んでいるように、目を細めて言った。




「お母さん。ちょっと。そこは、止めよう。ほらほら。二人とも。えっと、ああっと。そう。出発。早く行こう。もたもたしていると夜になっちゃうぞ。どこか、村とか町とかまで行かないと、野宿だぞ」




「今日も明日も明後日も~? 野宿だよ~?」




 チーちゃんが、言いながら、町中一に必要以上に近付いて来ようとしたので、町中一は、身を捩って、咄嗟にチーちゃんの突進を避ける。




「むぅぅぅ~? なんで~? おっぱいは~?」




 チーちゃんが唇を尖らせつつ、上半身をグイっと前に出し、自身の豊乳を強調するようなポーズを取った。




「チーちゃん。そういうのは、今は、良いから」




「今じゃなきゃ良い~?」




「もちろん~?」




 思わずノリノリになって、チーちゃんの声真似までして、言ってしまった町中一に、皆の視線を突き刺さる。




「皆ぁん。しょうがないのよぉん。男っていうのは、そういう生き物なんだからぁん」




 ななさんが、すすっと、町中一の傍に来て、フォローをしてくれる。




「そうだぞ。しょうがないんだからね。てへぺろ~」




 町中一は、ちぃー。恥ずかしさのあまりに、また変な事を言ってしまったぁっ。二回続けて失言をしてしまうとは。ぎりりりりり。と心の中でハンケチの端を嚙み締めた。




「でも、野宿は、本当だよ。一番近い人間達の村までは、最低でも三日はかかるもの」




 スラ恵が、なぜか、嬉しそうに微笑んでいるような目をする。




「そうなのか。野宿、か。俺はてっきり、どこかしらに泊まれるものだと思っていた」




 町中一から、言ってから、皆の顔を見た。




「でも、このメンバーだぞ。俺とななさんとチーちゃんはともかく」




 ああ。でも、心配なのは、うがちゃんだけか。と思い、町中一はそこで言葉を切る。




「あんたん。魔法があるじゃなぃん。こういう時こそ、使うべきだと思うわぁん。家を出せば良いのよぉん」




「おお。そっかそっか。家を出しちゃえば良いのか」




「そうよぉん。だから、心配ないじゃなぃん」




「そうだったそうだった。問題解決だ。でも、ほら。あれだあれ。距離は、稼いだ方が良いだろうからな。じゃあ、改めて、皆、出発しよう」




 町中一は、そう言って、歩き出そうとする。




「ちょっと待って。まだ、行けない」




「そ、そう、うが。まだ、スライムさんとのお話が済んでないうが」




 スラ恵とうがちゃんの発言で、話が振り出しに戻ってしまう。




「なあ、二人とも。折角、知り合いになれたんだ。仲良くした方が良いと、俺は、思う」




 町中一は、できるだけ当たり障りのないようにと、気を使い、言葉を選びながら言葉を出した。




「これもお互いの事を知る為じゃない。うがちゃん、だっけ? 何で勝負する?」




「勝負、うが?」




 うがちゃんが、戸惑いの色を見せる。




「勝負って。どうしてそうなった? 止めなさいって」




 町中一は、これはまた困った事になって来たぞ。どうにかして仲良くさせないと。でも、どうすれば良いんだ? と思う。




「あんたん。あたくしに良い考えがあるわぁん」




 ななさんが、町中一の耳元に、打面を近付けて言った。




「ななさん。それで、どうすれば良い?」




「物語よぉん。面白い物語に、教訓を入れて聞かせるのよぉん」




「物語……」




 町中一は、呟いて、ななさんの打面を見つめる。




「分かったうが。なんでも良いうが。スライムさんは何で勝負がしたいうが?」




 うがちゃんが、何かを、決心したような顔をすると、そう言った。




「ほらぁん。あんたん。早くしないとぉん」




「いや、でも。ななさん。俺は、もうそんなに、物語の事ばっかりを、考えたくないんだ」




「じゃあ、他に何かあるのぉん? あんたんから、物語を取ったら何もないじゃなぃん。しかもよぉん。その物語だって、箸にも棒にもかからなかったんだからぁん」




「ななさん。それはちょっと、酷くない?」




 町中一は、恨めしそうな目で、ななさんを見つめる。




「じゃあ、エッチで勝負。お互いに、お互いを気持ち良くさせて、先にイった方が負け」




「エッチ、うが? イった方が、負け、うが?」




 うがちゃんが、首を傾げて、不思議そうな顔になった。




「スラ恵。頑張るのよ。お母さん、その手の勝負には、負けた事がないんだから」




「エッチ~? でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁ~?」




 チーちゃんが、スラ恵とうがちゃんの傍に行く。




「あんたん。このままだと、うがちゃんが、周りの変態達の色に染まっちゃうわぁん」




「もう~。なんなんだよっ。どいつもこいつも。ここには、まともな奴はいなのか?」




 町中一は、激しい憤りを感じて、大きな情けない声を出した。




「一しゃん? どうしたうが?」




 うがちゃんが、町中一の方に顔を向ける。




「うがちゃん。こっちにおいで」




 閃いた。うがちゃんだけを、隔離してしまおう。町中一はそう思うと、うがちゃんに向かって手招きをした。




「うががが? 急にどうしたうが?」




「良いから早く」




 言って、町中一は走り出す。




「分かったうが」




 うがちゃんが、しゅたたたたっと走って、町中一のすぐ横に並んだ。


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