三十六 思わぬ……

「良し。じゃあ、二人の所に行くか」




 言って、うがちゃんと、チーちゃんのいる所まで、行こうと歩き出そうとしたが、自分が服を着ていない事を思い出した町中一は、慌てて、服の在り処を探し始めた。




「でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁぁ~? もう一発行っとく~?」




 服を見付けて、おお。良かった良かった。と安堵している町中一の片方の目の中に、フニュンっと、マシュマロのような感触の物体が入って来た。




「ぐおおおおおお。目が~。目が~。ヂィィィーぢゃ~ん。いくらチーちゃんの柔らかい胸でも、眼球は駄目だ~。ぐおおおおお」




 町中一は、痛みのあまりに激しく仰け反る。




「一しゃん? どうして、裸うが?」




 うがちゃんの言葉を聞いた、町中一は、痛みを忘れて、声のした方に顔を向けた。




「うがちゃん? どうして、ここに?」




 言い終えると、痛みが再び襲って来たので、町中一は、チーちゃんの胸が入った方の目を、片方の手で押さえる。




「チーちゃんが、もう、行っても平気だから、一緒に行こうってうが。うがはまだ来ちゃ駄目だったうが?」




「いや。そんな事はない。ちょうど、そっちに行こうとしていたんだ」




「でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁぁ~?」




 チーちゃんが胸を目に入れた事など、まったく悪びれている様子もなく、キャッキャと笑う。




「うん。やろうやろう」


 


 スラ恵が嬉しそうに言う。




「わえ達は一緒に行かせてもらう事にしたから、これからよろしくね」




 お母さんスライムが、うがちゃんの足元に行って、うがちゃんに声をかけた。




「うが? うがが? お話、できるようになった、うが?」




「ええ。なぜか、できるようになったの」




「一緒に行く、うが? ……。でも、うがは、スライム、あっ、スライムさんを殺しちゃった、うが」




「良いのよ。貴方は悪くない。だから、気にしないで」




「うががが。でも、うが」




「わえ達魔物と、貴方達人間達は、そういう関係。だから、しょうがないのよ。そんな事より、皆で、さっきみたいに、でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁ~してもらいましょう」


 


 お母さんスライムが、優しい目付きになって、うがちゃんを見た。


 


「うがががが。許してくれて、ありがとう、うが」




 うがちゃんが、言ってから、微笑んだが、その笑顔にはどこか、影があるように見えた。




「じゃあ~、皆で~? くえた~でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁ~ですとらくしょんんん~?」




 チーちゃんが言い、グルングルンと宙に円を描いた。




「スライム達には悪いけど、それは、駄目だ」




 町中一は、やっと痛みが引いて来たので、ふうー。良かった。と思いながら、とても真面目な表情を作る。




「なんで? 折角妖精がやる気になってるのに?」




 スラ恵が至極不満そうに言う。




 町中一はスラ恵の傍にしゃがむと小声で、あの子の、あっちの子、うがちゃんっていうんだけど、教育上良くなと思うんだ。あの子はまだ子供だから。と囁いた。




「そんなのいずれ知るんだよ。早いか遅いかの差でしょ?」




「まあ、そう言うなって。あの子がいない所なら、いつやっても止めないから」




「ふーん。そんなにあの子が大切なんだ?」




 スラ恵が、何やら、含みがありそうな声で言った。




「それは、あの、あれだ。あの子はあれだよ。そう。妖精女王から預かった子なんだ。何かあったら、困るからな。俺の責任問題だ」




「へぇー。そうなんだ」




「うがが。一しゃん。どうしたうが? 内緒のお話うが?」


 


 うがちゃんが言いながら町中一の傍に来た。




「いや、違う。何も話してない」




「本当、うが?」




 うがちゃんが、寂しそうな不安そうな、顔をする。




「うん。何も話してないよ。何もね。内緒話なんてしてないよ。男と女のそんなこんなな話なんて、これっぽっちも、してないんだから」




 スラ恵が言って、勝ち誇っているかのような表情を、その目に宿した。




「うが? うががが? どういう事うが? 一しゃん? このスライムさんと何かあったうが?」


 


 うがちゃんが、何やら、怒っているのか、とても、不満そうな顔をしつつ、早口になって言う。




「おいおいおい。どうしてそうなった? というか、スラ恵さん。君は、何を言っているのかな? 俺と君とは何もないよね?」




「ふーん。そんな事言って良いんだ? 一緒にあんな事したのに。ふーん」




 スラ恵が、プルプルと体を震わせたと思うと、ささっと、体を変形させ、うがちゃんと同じくらいの、背格好の、色などは、スライムのままの、女の子に変形した。




「うががが~! 凄いうが!」




「スラ恵。凄いじゃない」




「確かに、凄い。だが、俺は、変形した事よりも、前の時もそうだったけど、あの大きさのスライムの体が、ここまで大きくなる事の方が凄いと思うのだが」




 町中一は、人の形になったスラ恵の透明な体を見て、こんな状況にも関わらず、感心してしまう。




「お母さんと変形した時に、コツを掴んだみたい。おっぱいとかも、こんなふうに調整できたりして」




 スラ恵が言って、胸の大きさを、大きくしたり小さくしたりして見せる。




「チーちゃんよりも大きい~?」


 


 チーちゃんが、スラ恵の胸に吸い寄せられるように近付いて行って、大きさの変わっている胸をじいーっと見つめた。


 


「うががががが。やっぱり、そういうのが、一しゃんは好き、うが?」




 うがちゃんが、自分のぺったんこな胸の辺りを、両手で触る。




「まあ。そうでしょうね。人間の男は、皆、巨乳好きって、聞いた事があるわ」




 スラ恵が、胸を大きくしたままにして、言って、挑発するような目を、うがちゃんに向けた。

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