三十二 変形?

 一つの塊になっているスライム達が、何を思ったのか、町中一の方に近付いて来たので、町中一は、あれ? なんだろう? こっちに来ちゃったぞ? おかしいぞ。と思い、顔を引き攣らせた。




「あの、あのね。スラ恵。お母さん、一度試したい事があったの?」




「お母さん? 何を言ってるの?」




「お母さん。人間の、あの、形になって、してみたいって思ってたの」




「お母さん、ひょっとして、それって、最初の、本当の、お父さんが、お母さんとエッチしてた時に、お母さんにやらせてた事に関係ある?」




「え? スラ恵? え? ちょっと、あんな頃から?」




「う、うん。スラ恵、一人エッチ覚えたの早かったから」




「ええ? あの頃から一人エッチ?」




「うん。今思えば、あの頃も、お母さんの事、見てたかも知れない」




「スラ恵。もう。お母さん嬉しくなっちゃうじゃない」




「あ、あ~。お母さん。そんな所、ら、らめぇぇぇぇぇぇぇ」




 スライムの体から、プシュッ~と、一筋の透明な液体が、水鉄砲の銃口から発射される水弾のように噴き出した。




 町中一は、何やら、身の危険を感じ始めたが、ここで逃げるわけにはいかない。チーちゃんと、いや、チーちゃんは、もう駄目かも……。でも、あれだ。うがちゃんの教育の為だ。と思うと、作戦の続行を試み始める。




「おいおい。お二人さんよぉ。早く俺を仲間にしてくれよ。お二人さんの事見ていたら、もう、俺っち、ムラムラのムラリーニよ」




 町中一は、言い終えてから、ぐえへへへへへへ。とお下品に笑った。




「お母さん。お母さんの好きにやってみて。だって、お母さん、今まで、スラ恵の為に色々な事我慢して来てくれたんだもん。今日は、なんでも、お母さんの好きにして良いよ」




 スラ恵が、お母さんスライムを、後押しするような事を、言い出す。




「スラ恵。ありがとう。でも、スラ恵も一緒よ。まずは、体の形を変えるわ」




「スラ恵にできるかな?」




「お母さんに合わせれば大丈夫」




「人の形になるんだよね? スラ恵、あんまりやった事ないから、ちゃんと変われるか心配」




「お母さんと一緒ならできるわ。お母さんのリビドーを舐めないで。お母さんは、エッチな事を追求する事なら、誰にも負けないんだから」




「お母さん。格好良い。大好き」




「スラ恵。お母さん、いつも以上に張り切っちゃうわ」




 スライムの形が変わり始める。




「ちょっと、あんたん、これ、どうなんのよぉん?」




「分からん。分からんが、このままにはしておけない。俺が相手をする」




「あたくしも、やるわぁん」




 ななさんが、町中一を庇うように、町中一の前に出た。




「ななさん」




 町中一は言って、そっと、優しくななさんのグリップを、親指と人差し指とで握った。




「あんたん。やりましょうぅん」




「ななさん。その気持ちだけで良い。ななさんは、チーちゃんとうがちゃんの方に行っていてくれ。俺に何かあった時は、二人の事を頼む」




「あんたん。そんな」




「良いんだ。早く行ってくれ」




 町中一は、ななさんを、スライム達の方に向かって、放り投げた。




「あんた~ん。言ってる事とやってる事が違い過ぎるぅぅぅぅん」




 ななさんの、どこか嬉しそうな声が、遠ざかって行く。




「ななさん。後は任せたぜ」




 ふう~。危ない危ない。ななさんには、悪いけど、ここで、また、万が一にも、死んだりしたら、あの子達が悲しむからな。うん? あれ? なんか、ああああああああ! 失敗した。やっぱり、俺が行くべきだった。死ねば、女神様にも会えるし、こりゃあ、間違いなく、あれだろうし? スライムとエッチする展開だろうし? そんな素敵な時間をななんさんにっ。今からでも、間に合わないかな? と町中一は、飛んで行くななさんを見つめながら、そんな事を思った。




「お母さん。なんか、飛んで来てる」




「邪魔よ」




 色はスライムの時のままで、人間の女性、スタイルは、ボンキュボン、しかもスライムだけに、どこか透明感のある顔立ちをした美人さんになった、スライム達が言い、片方の手で、ななさんを、パシッと叩き落した。




「ああ~ん。やれちゃったわぁん」




 ななさんが至極わざとらしく言って、地面の上に落下すると見せかけて、地面に付く寸前で、フワッと、止まり、その場に静止する。




「むうぅ。ななさん。卑怯だぞ」




「はあぁん? ちょっとぉん。あんたんが、そんな事言うのぉん? あたくし、こう見えても、傷付いてるのよぉん」




「そんな。ななさんなら、何も言わなくっても、俺の意図を察してくれると思ったのに」




「意図ぉん? そんな物があったのぉん? 本当にぃん?」




「ななさん。ごめん。その話は、後にしよう。今度こそ、本当に、あの子達を頼む。うおぉぉっぉおおぉぉぉ」




 町中一は、格好悪く、裏返って、変に高くなってしまった声で、吠えながら、スライム達に向かって行く。




「あんた~ん」




 ななさんが、永遠の別れの際に、去って行く相手の後ろ姿に、投げかけるような声で叫ぶ。




「こっちに来てくれるなんて。さあ、人間。一緒に楽しみましょう」




 スライム達が変身している女性が、嬉しそうに微笑む。




「な、何を。お、俺は、何も楽しみなんて。えっと、それで、服は、溶けたりするのかな? 一応、脱いでおいた方が良い?」




「服? そうね。一応脱いでおいた方が」




「ああ。そうだった。それと、向こうにいる子供達には、俺の、そういう姿は見せたくないんだ。だから、あっちの森の中で、頼む」




 町中一は、チーちゃん達の方に、二人を守る為に、重大な決意をしたような顔を向けて、いつもよりもかなり低い、渋い声で言った。

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