三十一 合体?

 溶けかけていたスライム達が元の姿に戻ると、小さい方のスライムが、町中一の方に向かって来ようとし、それを見た大きい方のスライムが小さい方のスライムを止めようとし始めた。




「スラ恵。もう止めなさい。スラ恵まで殺されちゃったら、お母さん、どうすれば良いの?」




 大きい方のスライムの体の、どこから声が出ているのかは分からなかったが、そんな声が発せられたのを聞いた、町中一とななさんは顔と打面を見合わせる。




「あんたん」




「ななさん」




 お互いに呼び合い、町中一とななさんは、そのまま、見つめ合っているような、妙な、時間を、共有する。




「あんたん。好き」




 ななさんが唐突に告白して来た。




「ごめんなさい」




 町中一は、反射的に断わってしまう。




「ちょっとぉん。あんたん。早過ぎ」




「なぜか、勝手に口が動いちゃって」




「そんな、しどいぃん」




「お母さん。止めないで。お父さんの敵を討たないと。その為なら、スラ恵は死んでも構わない」




「スラ恵。そんな事言わないで。また、新しいお父さんを見付ければ良いじゃない。今のお父さんだって、三人目なんだから。最初はなんだかんだ言ってても、仲良くなれたじゃない」




「それは。……。お母さん。ごめん。ずっと黙ってた事があるの」




 スラ恵の目に何やら、酷く、後ろめたそうな表情が現れる。




「んん? なんだ?」




「何かしらねぇん。でも、あんたんとくだらない事で、言い争ってる場合じゃないのだけは、間違いないわぁん」




 町中一とななさんは、スライム達の会話に集中する。




「スラ恵。良いの。お母さん、知ってたわ」




「え? お母さん、何を言ってるの?」




「スラ恵と、お父さん、エッチな事してたわよね?」




「お、お母さん」




 スラ恵が、酷く驚き、傷付いた表情をその目に宿す。




「お母さんが、悪いのよ。寂しいからって。お父さんが死ぬ度に、すぐに新しいお父さんを、連れて来たんだもの。スラ恵も年頃だもんね。男の一人や二人、好きになるわよね」




 お母さんが、儚げな笑みをその目に浮かべる。




「あんたん、これは、思った以上だわぁん」




「ああ。ちょっと、立ち入れない、というか、立ち入りたくない、内容だ」




「また、新しいお父さんを連れて来るわ。だから、ね。スラ恵。もう、敵討ちなんて止めて、帰りましょう」




「お母さん。どうして? 三人目のお父さんの事、好きじゃなかったの? スラ恵は、そんなふうには、簡単には、割り切れない」




 スラ恵が泣き出し始める。




「スラ恵。お母さんだって、お父さんが死んで、悲しいわ。けど、それよりも、お母さんには、もっと悲しい事があるの」




「スラ恵は、三人目のお父さんが死んじゃったのが、何よりも辛いよ。お母さんは、尻軽淫乱ビッチだから、そんなふうに思えるんだよ」




「おいおい」




「尻軽淫乱ビッチてぇん」




 町中一とななさんは、小さな声で呟き合った。




「なんて言われても、どう思われても良いわ。お母さんは、スラ恵だけは失いたくないの。スラ恵を失う事が、お母さんとっては、何よりも悲しい事なの。スラ恵が、生きていて、元気で、幸せなら、お母さんは、それで良いの。一番最初のお父さんが、死んだ時、お母さんは誓ったの。スラ恵だけは、どんな事があっても、ちゃんと育てようって。どんな男に抱かれようが、スラ恵だけには不自由な生活はさせないって。お母さんは、誰よりも、何よりも、スラ恵を愛してるの。本当は、男とじゃなくって、スラ恵と、あんな事やこんな事をしたいの。お母さんは、ずっと隠してたけど、バイなの。はっ。いけない。こんな事、言うつもりじゃなかった。駄目なお母さんを許して」




「お、お母さん」




 なぜか、スラ恵の頬が赤く染まる。




「おいおいおいおい」




「あんたん、こ、これは、これから、どうなっちゃうのよぉん」




 町中一とななさんは、二匹がこれからどうなるのかを、固唾を飲んで見守った。




「スラ恵。ごめんね。こんな、お母さんで。嫌いになっちゃうよね」




 大きい方のスライムが目を伏せる。




「ううん。お母さん。スラ恵も、スラ恵もね。お母さんが、お父さんとエッチな事をしてるのをこっそりと見てて、それで、一人エッチしてたんだけど、その時、お父さんの姿よりも、お母さんの姿を見てエッチな気持ちになってたの。スラ恵も、バイかも知れない。お母さん。こんな娘でごめんなさい」




「スラ恵」




「お母さん」




 大きい方のスライム、お母さんスライムと、スラ恵が、じっと見つめ合う。




「スラ恵。もう、我慢できない」




「うん。お母さん。スラ恵も」




お母さんスライムとスラ恵が、くっ付いたと思うと、どろどろと溶け出し、二つの体が溶け合って、一つの塊となった。




「お母さん。凄い。スラ恵、もうらめぇぇぇぇぇぇ」




「お母さんもよ。スラ恵。こんなテクニック。いつの間に」




 お母さんとスラ恵の鬩ぎ合う言葉と、喘ぎ声が、辺りに響き渡り始める。




「何々~? なんか聞こえる~?」




「何かあったうが? 心配うが」




 チーちゃんとうがちゃんの声が聞こえて来て、二人が一緒に、町中一達の方に、近付いて来ようとし始めた。




「い、いか~ん。こんな場面を、子供達に見せるわけにはいかない」




「でも、どうするのよぉん」




「どうしよう?」




 町中一は言ってから、思考をフル回転させ、ありったけの知恵を振り絞った 。






「あんたん。早くしないとぉん」




「閃いた」




「何する気よぉん」




「へいへいへ~い。そこのスライム女子達~。そんなとこで随分と、良い事してんじゃんよ。俺も混ぜてくれよ~。ぐへへへっへ」




 町中一は言って、スライム達を、森の木々の中に、誘導しようと試みる。




「はい? ちょっと、なんなの?」




「嘘? あの人間、話ができるの? スライムの、私達と?」




 溶け合って一つになっているスライムの方から、お母さんスライムとスラ恵の声が聞こえて来た。




「分かるんだぜ~。だから、三人で森の奥に行うぜ〜。それで、俺も混ぜてくれよ~。ぐへへへへへへ」




 ふふふふ。どうだ。この、イチャイチャしていたら、変なオヤジが声をかけて来てムードが台無しにって、更に、そのオヤジがセクハラして来て、もう最悪だから、とっととこの場から離れましょ作戦は。町中一は、そんな事を思うと、ムフーンムフーンと鼻息を荒くした。

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