二十三 手、脱出す

 妖精女王とチーちゃんとななさんが町中一とうがちゃんの傍に来る。




「あんたん。何してるのよぉん。こんな子供を泣かすなんてぇん」




「こんな子供に、こんな事なんて、野獣だわ。最低の野獣野郎だわ」




「でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁぁ~? チーちゃんも~?」




 三人が言い、妖精女王が町中一の、うがちゃんのズボンの中に入っている腕を掴む。




「うがちゃん。 もう大丈夫だから。だから、手をどけて。そうしたら、すぐに女王が、この男の手をどかしてあげるから」




「うががが~ん。悪くないうが~。ま、町中一しゃんは、悪くないうが~」




 うがちゃんが泣きながら、しゃんとか言いつつ、町中一を庇おうとする。




「うがちゃん」




 町中一は、なんて、良い子なんだ。と思うと、心を決めた。




「俺は、この子の為なら、天使にでも、悪魔にでもなってやる。うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」




 町中一は、雄叫びを上げつつ、手を激しく、だが、とても繊細に、そして、エッチ的な意味では、結構エグく動かした。その動きの内容に関しては、敢えて、敢えて、ご想像にお任せしますという事にしておこう。




「うがががが~ん!? うががうぅがぁ~ん」




 うがちゃんがビクンビクンと体を数回震わせてから、放心したようになって、町中一の手を押さえていた両手を放した。




「今だ」




 町中一は、透かさず手をズボンの中から引き抜いた。




「君~。良い度胸してるね。これは、ちょっと、お仕置きしないと駄目な気がするんだけど」


 


 妖精女王が、町中一の腕を掴んだままでいる手に力を込める。




「大丈夫ぅん? あんたん? こんな事気にしちゃ駄目よぉん。野良犬でも噛まれたと思って、忘れるのよぉん」




 ななさんが、うがちゃんの顔の近くに言って、懸命にうがちゃんを慰めた。




「う、うが? うがう?」




「あんたん?」




「何があったうが? なんか、きゅうぅん、ふうぅってなって、ふわわわーってなったうが」




「そうぅん。まあ、そういう事があったって事よぉん」




 ななさんが歯切れ悪く言った。




「でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁぁ~。気持ちかった~?」




 チーちゃんが、うがちゃんの顔の前に行くと、そんな事を言い出す。




「でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁぁ~? うが。気持ちかった~? うが。」




 うがちゃんが、チーちゃんの言葉を鸚鵡返しに、呟くようにして言った。




「あのね~あのね~」




 チーちゃんがうがちゃんの耳元に近付くと、何事かをゴショゴショと周りに聞こえないような小声で話す。




「チーちゃん。こら。変な事言っちゃいけません」




 町中一は、声を上げた。




「だから~。うがちゃんだけに~? 聞こえるような声~?」




 いや。そういう事じゃないんだけどな。……。でも、待てよ。チーちゃんの事だ。ここで余計な事を言うと、更に状況が悪化する可能性もある。ここは、触らぬ神に祟りなし、だな。このまま無視してしまう。と町中一は、思った。




「うがががが~? うがががが~ん?」




 うがちゃんが、チーちゃんの話を途中から、夢中になって聞きながら、声を漏らす。




「さて。あっちはチーちゃんだから不安もあるけど、これ以上悪い事にはならないはず。あのままにしておきましょ。それよりも、君だよ。どうしてくれよう。あんな子共に酷い事して」




 妖精女王が、怒りの炎を目の中に宿しつつ、町中一を睨んだ。




「待て待て待て待て。そんなに怒るのはおかしい。あれは、しょうがなかったんだ。決して、エロい意図はない。俺は、考えた。うがちゃんをできるだけ傷付けず、できるだけ迅速に、誰も怪我とかをしないように(特に俺の事だがな)あの事態を打開する方法はないのかと」




「ふん。それがあれ?」




 妖精女王が鼻で笑ってから冷たく言い放つ。




「妖精女王。一つ言っておく事がある。俺は、手段は選ばない男だ。いや。前は違ったが、これからは、そうする事にした。もう躊躇ったりはしない。その時に最善だと思った方法を、俺は、俺の信じる俺を信じて、取るだけだ」




 町中一は、どこかで聞いた事のある言葉を交えつつ、熱く熱く語ってから、妖精女王の怒りの目に応じるように、ドヤ顔でその目を見返した。




「ありがとう、うが。君は、また、うがの事を助けてくれたうが」




 うがちゃんが、町中一の着ている服の、腰の辺りの一部分の端っこを、そっと、ちょこっと、摘まむようにして掴んでから、そんな事を言う。




「どうしてそうなった?!」




「おかしいわぁん。それは絶対におかしいわぁん」




 妖精女王が、雷にでも打たれたかのような、衝撃を受けたような表情し、ななさんの方は表情は分からなかったが、二人揃って、大きな声を上げた。




「チータちゃん。グッジョブ」




 町中一はチーちゃんに向かってサムズアップしてみせる。




「チーちゃん~? グッジョブ~?」




 チーちゃんが、町中一に返すようにして、小さなかわいい妖精の御手手で、サムズアップする。




「う、う、うがが~?」




 うがちゃんが、何かを求めているような目を、遠慮がちに、チラっチラっと、町中一に向けて来た。




 おお。これはきっと、自分だけ仲間外れになっているような気持になってしまったんだな。大丈夫だぞ。うがちゃん。町中一は、そう思うと、うがちゃんに向かっても、サムズアップした。




「うがちゃんも、グッジョブ」




「うがが~。グッジョブうが」




 うがちゃんが嬉しそうに微笑み、町中一に向かって、かわいい熊の御手手で、サムズアップする。




「はあ? 何これ? 大丈夫なのかな。この男も、この子達も」




「あたくし、この男とこの子達と、これから一緒に行動をして行く事に、一抹の不安を覚えてしまったわぁん」




 妖精女王が、酷く疲労困憊した表情になり、ななさんの方はやっぱり表情の方は分からなかったが、二人して、疲れたような様子で、そう言った。

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