二十二 ラッキー的なあれ?
チーちゃんとうがちゃんが、遠慮がちに、けれど、どこか、何かを、微かな、何かを、期待しているかのような目を、おずおずと、伏し目がちにしつつ、町中一に向けて来る。
「おう。俺は、デリカシーのない、悪い奴なんだ。ぐへえへへへへ。誰に対しても、さっき言ったみたいな酷い事を言っちゃうんだぞ」
町中一は、思い切り、二人が笑ってくれそうな、変な顔を作って、声も変な声を作って言い、二人に向かって、走り出す。
「なんで~? 怖い~?」
チーちゃんが、喜びながらも、心底怖がっているような声を上げて、ぶいーんと町中一から逃げるようにして飛んで行く。
「う、う、う、ががあ!? う、あ、がが、い、えっと、うがは、逃げないうが。うがは、君に、感謝してるうが。だから、それくらいの事、我慢するうがー。うががきゃ~」
うがちゃんが、頑張って、その場にいようとしていたが、言葉を言い終える少し前くらいで、チーちゃんを追い掛けるようにして走り出した。
「早く逃げないと、捕まえて、酷い事しちゃうぞー」
町中一は、猶も追い掛ける。
「怖い~。怖い~」
怖さがほとんどんなくなって来たのか、チーちゃんが、きゃっきゃっと笑う。
「うがも怖いうが~。うががが~!?」
地面の上に出ていた木の根に躓いて、転びそうになり、うがちゃんの走る速度が落ちる。町中一は、うがちゃんに追い付きそうになり、もう、ちょっと手を伸ばせば、うがちゃんの手を掴める距離まで迫る。
「うがちゃん~? でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁぁ~?」
「チーちゃん? それは、何うが?」
体勢を立て直して、再度全速力で走り出そうとした、うがちゃんが、言い終えた途端に、なんでもない所で、また、躓いて、今度は、さっきとは違って、確実に、体が前のめりに倒れてしまう位に、転びそうになる。
「危ない」
町中一は、咄嗟に、うがちゃんの片手を掴むと、それをグイっと引っ張って、うがちゃんが倒れないようにと引き上げたが、引き上げた代わりに、うがちゃんからもらった勢いに体を持っていかれて、頭から、地面に向かって突っ込んで行く。
「駄目ええぇぇ~うが~」
うがちゃんが声を上げて、町中一に抱き着き、二人は、地面の上に、勢い良く転がった。
「いってぇー。うがちゃん? 大丈夫か?」
町中一は、言いながら、体を起こそうとする。
「う、が、うがが。大丈夫うが」
「そっか。それなら良かった。じゃあ、起きよう。うがちゃん。俺の体の上から、降りてくれ。このままだと、うがちゃんが上に乗っちゃっていて、起きられない」
「うがう。すぐに降りるうが」
そして、ここで、そう。事件が起きる。お約束のあれである。
うがちゃんが、町中一の上に乗っている体を、起こそうとして、手を無意識のうちに、町中一の体に当てる。
「ふぅ? ふ、ふふ、ふわっふぅぅ~?」
町中一は、力の抜けたおかしな声を上げてしまう。
「どうしたうが?」
「いや、なんでも、なんでも、な、なくはない。うがちゃんの、その手、そこはあんまり強く押すと、問題があるというか、なんというか」
「うがが?」
うがちゃんが、小首を傾げてから、自分の手が当たっている、町中一の体の部位に目を向ける。
「あははははは。そこは、えっと、あれだ。お股でね。そのまま押されると非常に痛いんだよね」
「うががが。ごめんさないうが。ごめんなさいうが」
うがちゃんが慌ててその手に力を入れて、体を起こしてしまう。
「ふうわ。ふふわふ~ん」
「うがががが。間違えたうが。グニャってしたうが。何これうが」
うがちゃんが、町中一のお股を指先でつんつんと突きつつ、町中一のお股をまじまじと見つめる。
「うがちゃん。あんまり、突いたりしない方が。なんか、反応してしまうというか、なんていうか」
町中一は、お股の痛みに耐えながら言い、まだ足の上に乗っているうがちゃんの体の下から、自分の足を抜こうとして、うがちゃんの体をそっと押そうとした。
「あ、ありゃりゃ?」
決してわざとではなかった。所謂、不可抗力という奴であった。あろう事か、町中一の手は、するりんっと、うがちゃんの履いている半ズボンの、腰の部分から、中に滑り込んでしまい、うがちゃんの、お股に、直に触れてしまったのだった。
「う、うが? うがが?」
何が起こっているのかは、分からないが、明らかに、自分の体に、何か、異常な事態が起きている事を察して、うがちゃんが、なんとも表現のできない顔になる。
「いや、あの、なんでもない。これは、事故だから。今、手を、抜くから」
町中一は、そーっとそーっと手を抜こうとして、手を動かす。
「うが、がっん。駄目、うが。そこは、なんか、駄目ぇ、うが」
うがちゃんが、吐息を漏らしつつ、言葉を出して、町中一の手を、これ以上動かす事ができないようにと、ギュウっとズボンの上から両手で押さえた。
「え? うがちゃん? 押さえちゃ駄目だって」
「うがが。でも、動かされると、なんか、駄目ぇん、うが。うががん。触っちゃ駄目ぇんうが」
「でも、どうしても触っちゃうって。とにかく、手を放して」
「駄目ぇんうが。放したら手が動いちゃううが」
「いやいやいや。でも、このままでも、触れちゃっているし、手も、ほら、こんなふうに動くから」
町中一は、うがちゃんに伝わるようと、指を曲げたり伸ばしたりと動かしてみる。
「うがあ~ん。駄目うが~ん」
うがちゃんが、両目にいっぱいに涙を溜めると、それをボロボロと流しつつ、泣き出してしまった。
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