二十一 些細な言葉
町中一と妖精女王の二人の視線を受けた、ななさんが、ラケットの体をクネクネと器用に、くねらせるように動かしてから、打面を二人から見えないようにする為か、くるりと回った。
「どういう動きだ? クネクネは、ななさんだからしょうがないけど、打面の方は、あれが顔とかって事なのか? だから、隠すようにくるって回ったって事か?」
町中一は、思わず口走る。
「嘘。そんなの。だって、あそこで、球打つんでしょ? 痛いよ絶対」
妖精女王が、自身が痛みでも受けているかのように、顔を顰めた。
「いや。ななさんは、ドMっぽいところがある。それが良いのかも」
「そうなの? とんだ変態さんだわ」
町中一と妖精女王は顔を見合わせる。
「ちょっとぉん。あんたん達、何言ってるのよぉん。誰がドMよぉん。失礼しちゃうわぁん。けど、今は、そんな事より、真面目な話よぉん。あの子の言葉の事もそうだけど、そんな調子で魔法でなんでもやってると、そのうちに痛い目にあうわよぉん」
ななさんが、プンスカプンスカと怒りつつ言う。
「まだ、魔法で何かするなんて言ってねえーし」
「そうそう。女王も何かしろなんて言ってねえーし」
「え? なんなのぉん? あんたん達、なんだか、仲が良いのぉん? 嫌だわぁん。あたくしも交ぜなさいよぉん」
ななさんが、町中一と妖精女王のノリに合わせようとしたのか、楽しそうにそんな事を言い出した。
「魔法を使うとして。人格を変えちゃうとかどうかな? 悪い奴だったら、良い奴にしちゃうとかっていうふうに」
町中一は、ななさんを無視して、急に、真面目な口調と表情になる。
「良いじゃん。女王なんかも森から出て、人の住んでる世界に行ければ、魔法は無理だけど、脅したりしてそうしちゃいたい。女王は、人の住んでる世界には行けないから。だから、あの子の為に、何もできなくって」
妖精女王が、ちょっぴり、切なそうな顔になって、どこか、遠くを見るような目をした。
「どんな理由があるのか知らないけど、ファンタジーだとそういうのはありそうな設定だな。女王が人の世界に行けないのは、女王がこの森を守る結界を張っていて、森から離れて、人の世界に行ってしまうと、女王と森の繋がりが薄れて、その結界の効力がなくなるとかな」
「そうそう~。それそれ~。そういう感じ~。君~。理解が早いから助かる~」
妖精女王が、ノリの軽いギャルっぽい感じで、相槌を打つ。
「何よぉん。二人してあたくしの事を無視しちゃってぇん。それと、妖精女王。あんたん、この男を利用しようとして、さっきから、適当に話を合わせてるんじゃないぃん?」
ななさんが、きぃーっとハンケチの端っこでも、噛んでいそうな勢いで、そんな事を言う。
「そんな面倒臭い事しないですぅ~。本当に、そんなようなもんなの。それにこっちだって、ちゃんと、手伝いを出すつもりなんだから。妖精体のチーちゃんを一緒に行かせるつもり。あの子は、あっと、あの小さい姿の事を妖精体っていうんだけど、あの子はあんなふうだけど、本体の木は凄く強いから、何かあった時には絶対に役に立つと思う」
「妖精体と本体の木か。これまた、ファンタジーらしい設定だな。それにしても、あのチーちゃんが本当に強いのか? あれで?」
町中一は、まじまじと妖精女王の、虹色に輝く瞳を見つめた。
「妖精体はそれなりだけど、本体である木は凄く強いよ。その昔、この大陸にあった、とある超が付く大国を一つ、あの子だけで滅ぼしてるんだから」
「はあ?!」
「あんななのにぃん?」
「うちの森の皆の本体は全部植物なんだけど、あの子の本体の木は、好きな場所に行く事ができちゃったりしちゃうの。普段はできないのよ。だって、植物だもん。だけど、あの子の中に眠る、本能みたいな物が目覚めてしまうと、あの子は、その本能に従って、血を吸う怪物になって自由に動けるようになる」
「怪物? なんだ、変身でもするのか?」
「嫌だわぁん。あんなにかわいいのにぃん」
「変身するの。あの子は血の木の妖精。この世界に、唯一生き残ってる、吸血木の、ああ。きの部分は鬼じゃなくって木の方ね。その末裔なの」
「おいおいおいおい。吸血木って駄洒落かよっ。と、取り敢えずツッコンでおいてからの~。そんなのを、同行させるってのか? 良いよ。俺は一人で、ああ、ななさんがいたわ。ななさんと二人で行くから。チーちゃんは寄越さなくって良いから」
「チーちゃん~? 嫌われてる~?」
町中一の背後から、チーちゃんの声が聞こえて来たので、町中一は、しまったぁ。いきなり悪口みたいなのを聞かれただろこれー。パターン的に、これは、チーちゃんが、怒って、怪物になって、殺されるパターンじゃ? ううん? 待てよ。殺される→ 女神様に所に行ける→ 俺と女神様嬉しい。おおう。これは、考え方によってはラッキーなのでは? と、振り向くまでの一瞬に、そんな思考を巡らせた。
「チーちゃんは、とっても優しくって、うがは、うがは、チーちゃんの事がとっても大好きうが」
うがちゃんの悲しそうながらも、自分の気持ちを伝えようとする、意志のしっかりとこもった声が聞こえて来る。
「君達、いつから、話を聞いてたのかな?」
妖精女王が、ばつの悪そうな、困ったような顔をする。
「チーちゃんが、その、えっと、なんか、言われてたところからうが」
町中一は、自分達はなんにも悪くないのに、しゅんとしてしまっている二人を見て、子供の頃って、こういうのって結構本気で傷付くんだよな。あ。チーちゃんは子供っていう年じゃないのか? まあ、でも、あれは、傷付いている感じだよなあ。と思う。
「あんたん達。この男は、いっつも平気で、こういう感じの事を言う男なのよぉん。一々気にしてちゃ駄目よぉん。こういう時は、何か、この男の悪口でも言って、仕返しでもしてやりなさぃん」
ななさんが二人の傍に言ってから、町中一の方に打面を向けて言った。
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