九 女神様の立場がないので、ななさんがフォローを始めましたとさ

 町中一は、これ以上相手をするのも面倒臭いので、とっとと、ななさんを見捨てると、女神様の方に顔を向け、じっと、その姿を見つめた。両手で覆われていて、今は隠されている顔も、女神然とした、美しいとしか形容してはいけないような髪も、肌ばかりが露出していて、着ていても意味ないんだよなと思えるような服も、更に、それらが濡れていて、更に更にエロくなっている事も、そんな、女神様のすべてが、町中一には、愛おしく思えていた。




 ああ。女神様。俺は、全然気にしていません。むしろ、エッチな貴方なんて最高じゃあないですか。




 どうするか? 俺は、もう、こっちに帰って来ている。いくらとんでもなく短い時間だったとはいえ、異世界で生きるという目的は果たしたのではないのだろうか? 龍の姫とかの事はこの際置いておいておくとして。




「女神様。改めて。俺と結婚して下さい」




 断れるであろう事は、馬鹿でも分かる。だが。こんなふうに落ち込んでしまっている女神様をこのままにできるはずがないのだ。自分にできる事はなんだろう? そう思った瞬間、町中一は、そんな言葉を口から出していた。




 貴方に対する気持ちは変わらない。端的に言えば、そう伝えたかったのだ。だが、そんな言葉では、町中一の心の中に生まれている気持ちは表現できない。町中一は、女神様の事が、今、心底、好きになって来ていたのだった。 




「!?」




 女神様が顔を覆っている手をどけて、町中一の目をじっと見つめた。




 町中一の目と女神様の目が合うと、昔、某動画サイトで流行ったとある曲が流れるはずもないのだが、町中一の脳内にはその時確かにあの曲が流れていたという。




「か〜。せからしかぁん。あんたぁん達さぁ。もうぅん。そういうのはぁん、どうかと思うわぁん」




 ななさんのダミダミのダミ声がいつもよりも特に酷いダミ声になりつつ二人に向かってかけられた。




「うるせえ。お前は黙ってろ。というか帰れ」




「しどい。あんたぁん。相棒に対してそれはしどいぃん」




「……」




 女神様が何かを言おうとしたのか、口を開きかけたが、暫くの間、そのままでいてから、何も言わずに口を閉じて、顔を俯けてしまう。




「あんたんがそんな態度だから女神ちゃんが驚いてるじゃなぃん? 嫌われても知らないぃんだからぁん」




「ふん。俺は自分を隠さない。俺は相手によっては態度を変える男なのだ。女神様がそういう奴が嫌いなのならそれはそれで仕方がない」




 町中一は言ってから、でも、ちょっとこの発言と今のななさんに対する態度に関しては失敗したかも知れないと思い、切なくなった。




「ほらぁん。女神ちゃん。あんたん、何か言うか、何かするかしなさいよぉん。このままじゃ駄目じゃないのぉん。このしどい男をあっちの世界に戻すとか、あたくしの事を説明するとかぁん」




「今は無理。ななさんがやって」




 女神様が顔を俯けたまま、言葉だけを出す。




「もうぅん。しょうがないわねぇん。あんたん。良い? 今から大切な話をするから、ちゃんと聞くのよぉん」




 ななさんが、そのラケットの体を町中一の顔にグイっと近付ける。




「げげっ。近い」




 町中一はなはなさんをグイっと自身から遠ざけるように片手で押した。  




「もうぅん。照れなくっても良いのよぉん」




 ななさんが楽しそうに町中一に纏わり付き始める。




「うぜえぇ」




 それを町中一は一撃のもとに手刀で叩き落した。




「おおお〜ん。ギモヂィィィン。じゃなかったぁん。あんたん、何すんのよぉん」




 一度は、べチャリという効果音が、似合い過ぎる程に、華麗に、女神様空間の地面であろう場所に、落下したななさんであったが、すっくと立ち上がるかのように再び宙に舞い上がった。




「こっちに来るな」




 町中一は、手刀を手で形作って威嚇しつつ、至極クールに対応する。




「もうぅん。あんたん、良いのかしらねぇ〜ん。あたくしに冷たくしていると、あんたん、痛い目にあうのよぉ〜ん?」




「もうお前と出会うという物凄く痛い目にあっているのだが?」




「何よぉん。そんなにあたくしの事が嫌いなのぉん? おかしいじゃないのさぁん。あたくしが何をしたっていうのよぉん」




 ななさんが泣きそうな声音になって言う。




 そんなふうに言われてもな。だが、待てよ。改めて考えてみると、特に理由なんてないんだけれどもさ。強いて言えば、そうだなあ。あれかなあ。折角、ここまでは美女ばかりのハーレム状態で来ていたのになあ。今の俺の周りにいる面子に相応しくないっていうか、なんていうか。




「何よぉん。その目はぁん」




 町中一はじいっーとななさんを見つめた。




「だって。気持ち悪いんだもん。言葉を話す卓球のラケットだぜ。何かもっとおしゃれな物とかさ。声だってなあ。もっと綺麗な声とかだったら、もうちょっと優しくできたかも」




 と町中一は思い付いた事を、遠慮会釈もなく、そのまま言葉に出して言ってみる。




「おおお〜ん。ご馳走様ですぅぅぅん。そんな事言われたら、ご飯三杯位いけちゃうじゃないのぉぉん」




 ななさんがノリノリで大げさに喜んでみせたが、町中一は、はあ、そうですか。と、とてもぞんざいな、とても冷たい、リアクションとった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る