十 分裂とステレオ

 ななさんがキラリンっと光ったと思うと、色が変わり、金色にギラギラと光る卓球のラケットになった。




「どうぉ~ん? これなら気に入るんじゃなぃ~ん?」




 ななさんが嬉しそうに言いつつ、町中一の傍に来る。




「お前、センスねえな。余計に駄目だろ。大体なんだよ、そのギラギラ。もう絶対に嫌だわそんなの」




「何よぉおん。どうしろって言うのよぉん。あたくしだって頑張ってるんじゃなぃん。そもそも、あたくしはあんたんの武器なのよぉん。あんたんの為に、生み出された最高の相棒であり、最高の武器なのよぉん。あんたんがあたくしを使えば、最強なのよぉん」




「そんな事言われてもな。お前のすべてが嫌だしな。そもそもさ。なんでお前なんだ? 他の奴でも良いんじゃないのか? それに、そんなふうに話をしないのだってあっただろうに」




 町中一は、女神様の方に目を向ける。女神様は、相変わらず顔を俯けたままで、しょんぼりとしているようだった。




 町中一は、うーん。どうすれば女神様は元気になるんだろう。と、女神様を見つめて思う。




「あんたん。あたくしの事を考えなさいよぉん。何よぉん。人と話してるのに、他の女の子の事考えるなんて最低よぉん」




 ななさんが悔しそうに身を捩る。




「だってなあ。女神様がかわいそうだと思わないか? まだあんなふうに落ち込んでるんだぞ」




「あんなの自業自得じゃないのよぉん。あたくしのがよっぽどかわいそうよぉん」




 ななさんがまた身を捩る。




「リアクションがいちいちうざい」




「あんたん。しどい。いい加減にしないと」




 ななさんが途中で不意に言葉を切った。




「いい加減にしないとなんかするのか?」




 急にななさんが黙ったので、町中一は不覚にも反応してしまう。




 ななさんが、何やら、プルプルと震えながら、唸り声を上げ始める。




「は? おいおいおい。ちょっと、なんだよ? 大丈夫か? なんか、変なもんでも、拾って食ったのか?」




 町中一は、そろーりそろりと、ななさんから、遠ざかって行く。




「はいぃぃ~ん」




「はいぃぃ~ん」




 ななさんが声を上げると、ななさんの体が、ポンっという子気味良い音を鳴らして二つに分かれた。




「おおう? な、なんだ?」




 町中一は、驚きのあまりにピョインっと飛び上がってしまう。




「ぶぶぶふふふ。あんたん、ピョインって。そんな驚き方するぅぅ?」




「ぶぶぶふふふ。あんたん、ピョインって。そんな驚き方するぅぅ?」




「な、な、なんだお前ら?」




「あんたんにぃぃ。あたくしの凄さをぉぉ、知ってもらおうと思ったのぉぉん。あんたん。今から、あたくしと勝負よぉぉん。女神ちゃん。あんたんは、お手伝い。こっちに来て、あたくし二号を使うのよぉん。これから、卓球で勝負よぉぉん」




「あんたんにぃぃ。あたくしの凄さをぉぉ、知ってもらおうと思ったのぉぉん。あんたん。今から、あたくしと勝負よぉぉん。女神ちゃん。あんたんは、お手伝い。こっちに来て、あたくし二号を使うのよぉん。これから、卓球で勝負よぉぉん」




「でえええーい。ステレオで喋るんじゃねえ。くっそうぜえ」




「私もやるんですか?」




「そうよぉん。ちょうど良いじゃないのぉん。さっきまでの事は、このどさくさに紛れて忘れちゃなさいよぉん」




「そうよぉん。ちょうど良いじゃないのぉん。さっきまでの事は、このどさくさに紛れて忘れちゃなさいよぉん」




「だからステレオ!!」




 町中一は、ななさんとななさん二号に連続で飛び蹴りを入れた。




「おおおお~ん。もっともっとぉぉん」




「おおおお~ん。もっともっとぉぉん」




「もう、こいつら、マジで、嫌なんだけど」




 町中一は、頭を抱える。




「あの、私と勝負して、私が勝ったら、さっきまでの事は忘れてくれますか?」




 女神様がおずおずとしつつ、町中一を上目遣いで見ると、口を開いた。




「いえ。忘れません」




「どうしてですか?」




「エロエロの女神様も好きだからです」




「それは、それは、駄目です」




「じゃあ、エロエロじゃないんですか? それで良いんですか? 俺は、いや、僕は、今、貴方好みのショタなのでしょう? このまま、あっちの世界に帰したら、僕は、きっと、あんな事やこんな事を、それは、もう、ファンタジーという世界ですからね。野蛮な奴らが一杯です。おちんちんが壊れるまで、大変な事になってしまうでしょう」




「それは、困ります」




 女神様がモジモジと体を動かす。




「それなら」




「もうそういう話は良いのよぉん。あんたん。男なら男らしく勝負をなさいぃん。あんたんが勝ったら、女神ちゃんとあたくしを好きにすれば良いわぁん。けど。あたくしと女神ちゃんが勝ったら、あたくし達の言う事を何でも聞く事。良いわねぇん?」




「ステレオしたら絶対にやらない」




 町中一の言葉を聞いたななさん二号が、どこかしょんぼりしたような動きをする。




「それじゃ、早速勝負よぉん」




「いや、ちょっと待て。お前が二つになっているじゃなあないか。イカサマをされる可能性がある。公平じゃないだろこんな勝負」




「あんたんじゃないんだからぁん。そんなセコイ事はしないわぁん。正々堂々と勝負するわぁん」




「信用できんな」




「私が保証します。ななさんはイカサマなんてしません」




 女神様が、ウルウルと艶っぽく濡れた瞳でじいーっと町中一の目を見つめた。

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