八 まあ、皆、色々あるよね

 町中一は、てっ、夢じゃねえ。駄目だ。こんなん見て寝られるかっての。もう、寝れん。もう完全に目が覚めている。どう頑張っても眠れない。どうしよう? どうしよう? と思った。




「寝ているのなら、どうしましょう。まずは、おちんちんを洗って。それで、何事もなかったようにしておきましょうか?」




 女神様が、とても楽しそうに嬉しそうに言ったので、町中一は、うん。そうですね。それが良いと思います。と、なんだか、自分までも、とっても楽しくなって歌うようにそう思う。




「あらあら。洗っているだけなのに。もう。やんちゃさんなんだから」




 町中一は、これは、そろそろ、描写の限界ではないだろうか。前世で物書きを目指していた者としては心配になる。さてどうした物かな? どこまで書いて良いのだろうか。削除はされたくないし。移転するのも面倒だしなあ。これ以上はなしかなあ。やっぱりここは、起きているという事をアピールして、止めてもらった方が良いよなあ。などとメタ的な事を思った。




「ランラン。ルルル。ウフフのフ。久し振りの、男の子〜。キラキラキラ~」




 女神様が何やら調子の酷く外れた歌らしき物を歌い始める。




 町中一は大いに悩み、大いに後悔した。自分はどうして、こんなタイミングで目を覚ましてしまったのか。女神様はこんなにも楽しそうで幸せそうなのだ。




 そんな女神様の貴重な一時を俺が奪って良いのだろうか。いや、良いはずがない。これは仕方がないのだ。寝たふりをしよう。起きるのは止めよう。これは決して快楽の誘いに屈した訳じゃない。これは女神様の為なんだ。ここは俺が涙を飲んで犠牲になろうではないか。




「は〜い。洗い終わり。でもまだまだ元気ちゃんですねえ。これは困りましたねえ。えへへへへ」




 町中一は薄目を開けて女神様の様子を伺ってみる。




 女神様は町中一が出会ってから、今までの、その短い時間の中で、一番幸せそうな顔をしていたという。




「あんな姿を見て、あの時の女神様をどうこうできる奴がいたら、そいつは人間じゃない。鬼畜ですよ鬼畜」




 後に、町中一は、この時の出来事を振り返りそう語ったとか、語らなかったとか。




 町中一は目を閉じる。最早、俺にできる事は皆無。さあ。女神様。貴方のお気の済むように。あ。そういえばこれってある意味目隠しプレイだよな。俺、こういうの初めてだわ。グヘ、グヘ。町中一は、さあさあ。女神様。いざ参られよ。とばかりに、頭の中を空にして、次に来るであろう悦楽の荒波に備えた。




「えいっ。えいっ」




 女神様が楽しそうに町中一の体を弄び始めるが、女神様が与えて来る甘美な刺激に、町中一の体は、寝ている時とは、明らかに違う反応を示してしまう。




「あら? 何でしょう? 先程までとは、違うような?」




 女神様の動きが止まり、町中一は、何もされなくなって、その間が、町中一を更に興奮させ始める。




 こ、これが、目隠しプレイの真骨頂なのか?! 目隠しプレイの神髄は、放置プレイにあり!! 町中一は、そう叫びたい衝動に駆られたが、自身の内から溢れ出ようとする衝動を必死に堪え、次の女神様の一手に対して、胸がはち切れんばかりに期待を高めて行った。




「あんたぁんも、好きねぇん。でもぉ、この男、起きてるわょん」




 不意に、あの、ダミダミのダミ声が聞こえて来る。




「え? ななさん。いつの間に来たんですか?」




「あらん。もおうん。とぼけてもだめょん。あんたんの、エロエロ爆発な所は、もう、この男にバレてるんだからぁん」




「そんな、そんな事は、ねえ?」




 女神様が町中一の顔を見て、その瞬間に目を開けた町中一の目と女神様の目が合ってしまう。




「すいません。起きてました」




 町中一は、てへへへへ。と爽やかに照れ笑いしてみせる。




「☆▽〇×凸□!!」




 女神様が、何やら判別不明な叫び声を上げて、両手で顔を覆うと、その場に座り込んだ。




「ほらぁん。あんたんも、笑ってないでぇ。なんとか言ってやりなさいよぉん」




 卓球のラケット改め、ななさんが、ふいよふいよと宙を飛んで、町中一の傍に来る。




「この糞がぁ。こっちの世界まで追って来やがって」




 町中一は、ななさんに、これでもかと、蔑むような目を向けながら、これでもかと、吐き捨てるように言った。




「ちょっとぉん。さっきとは随分違うじゃないぃん。さっきはあんなに逃げていたのにぃん」




「この、我が人生史上最大と言っても過言ではないイベントを邪魔した罪は万死に値する。そんな状況なのに、お前みたいな糞野郎相手にビビっていてたまるかっての」




「あんたんって、本当に口が悪いわよねぇん。そういう所は、昔から変わってないわよねぇん」




「ふん。お前が、俺の中学生時代に関係がある事はもう分かっている。そんなふうに思わせ振りな事を言っても、俺はお前の事など知らん。このダミ声のカマ野郎」




 町中一は、言葉で殺さんばかりの勢いで、罵詈雑言を思い切り投げ付けた。




「おおおおーん。もうぅ。あんたんの、その、暴力的な言葉。癖になりそうおぉんん」




 ななさんが、グニャリとラケットの体が大きく捩らせた。

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