四 妖精(下乳)女王

 集まって来た、様々な色合いの様々な形の羽を持っている、妖精達が、町中一を取り囲むと、何やら物欲しそうな目で、じいーっと見つめて来る。




「な、何かな~?」




 妖精を殺したのがバレて、その復讐の為に、俺を殺したいのか? いや、違うか。こういう場合だと、死んだ妖精達を復活させる為に、生贄が必要とかか? そうなると、あの目は、俺を生贄にしたがっているっていう目か?




 町中一の妄想が暴走し始める。




「やってー?」




「皆も、爆発したい~?」




「したいー」




「気持ち良いの好き~」




「爆発っ爆発っ」




 妖精達が口々にそんな事を言い始める。




「ど、どういう事?」




「気持ち良いと、爆発しちゃう~」




「ちゃうちゃう~」




「そうなのか?」




「そうそう~」




「そだよー」




「早く早くぅぅぅ」




「死ぬのが怖くないのか?」




「死ぬぅ?」




「死ぬの?」




「誰が? 誰が?」




「死んだ? 君?」




「爆発したら死ぬだろ?」




「死なないー」




「死なないよね?




「うんっうんっ」




「死なないよぉ」




「妖精は無敵ぃぃぃ」




「どういう事だよ」




 本当なのか? それだったら、俺は、殺人鬼、あ、違った。殺妖精鬼、ああ、もう、言い難いから、殺人鬼でいいや。俺は、殺人鬼じゃないって事なのか? そうだったら、これは、やり放題じゃないのか? こいつはラッキーなんじゃないのか?




 町中一は、改めて、自分の周りに集まっている妖精達の姿を見回した。




 大小様々なサイズの、形も千差万別の、下乳。下乳。下乳。ここは下乳パラダイス。




 別に、下乳フェチという訳ではなかったのだが、こうなって来ると、好きにもなるという物だろう。爆発しても死なないらしいし、何よりも、彼女達が、触られる事を望んでいる。




 ああ。女神様。ありがとうございます。俺は、貴方に、転生なんぞさせないでくれと言っていたが、今は、そんな事を言って悪いと思っていますぞ。




 いや。ちょっと待った。




 町中一は、とある事を思い付き、愕然とする。




 これは、浮気になるのではないのか? 俺は、女神様にプロポーズをしている。女神様は貴方の気が変わらなかったらとかなんとか言っていた。これは、気が変わっているうちに入るんじゃないのか? 




 でも、でも、まあ、待て待て。俺。




 こういう時は、まずは、相手の立場に立ってだな。うーん。俺が女神様で、相手の俺の事を満更でもないと思っていたとして、そんな俺が、転生先で出会った妖精達と、くんずほぐれつ、でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁぁぁとかも、うぅ。自分で言っていてちょっと恥ずかしくなって来たけれど、今は我慢だ。みたいな事をし始めていたとしたら。




 まあ、俺だったら、嫌だと思うよなあ。俺ってこう見えて結構嫉妬深いしなあ。




 でも、そうだ。精一杯生きて、とも、言っていたよなあ。それって、自由に生きても良いっていう事じゃないのか?




 町中一は、大勢の妖精達を前にして、沈思黙考を決め込み始めた。




「早くっ早く」




「いつまで待つ?」




「こっちから行く?」




「行っちゃう?」




「ぐいぐいっと?」




「押せ押せ」




「押し倒す?」




「我慢の限界」




「限界~」




 妖精達が、一斉に声を上げ、町中一に突進を始める。




「おおおおお? なんだ? 急に何が起きている?」




 町中一は、妖精達に揉みくちゃにされながら声を上げた。




「気持ち良いー?」




「違う?」




「これじゃ駄目?」




「分かんない」




「気持ちくないー」




「爆発できないー」




「ね、ね」




 しばらくすると、妖精達が、浜辺に押し寄せていた波が引くようにして、町中一から離れ出す。




「な、なんだったんだ今のは? いや、そんな事よりも、今は、浮気かどうか問題の方だ。どうしたもんだろう?」




 これは、これからの事すべてに関わって来るであろう、重要な問題だ。折角の転生。折角の新しい人生。ドストエフスキーも言っていたしなあ。女のいない人生なんてなあ。




「これはなんなの? こんなに皆で集まって」




「人間の子ー」




「気持ち良い事」




「爆発っ爆発っ」




「死ぬ?」




「スキンシップ?」




「女王様も?」




「爆発したい?」




「皆、何を言っているの? そんな事を軽々しく言っちゃいけません。というか、人間の子? そっか。女神様の言っていた子かな? もう来ているの? どこにいるの?」




「あそこー」




 大勢の妖精達が一斉に声を揃えて言った。




「うん? 今度はなんだ?」




 その声が耳に届き、町中一は、思考の中から顔を上げる。




「もう来ていたのね。女神様から話は聞いているわ」




 そんな声がして、町中一の目の前に、途轍もなくボリューミーだが、大きさだけで押して来るのではなく、とってもバランスの取れた美しい造形の、下乳が現れた。




「これは、どういう事だ? さっきまでは、皆、小さかったのに。はっ!? ま、まさか、妖精達は体の大きさを変えられるとかなのか? ムムムム。これは、まずいぞ。いよいよまずい事になって来た。さっきの問題の答えも出ていないのに。俺はどうすれば」




 町中一は、頭をフル回転させつつ、その中身を口から駄々洩れにしつつ、下乳をこれでもかと見つめ続ける。




「大丈夫? 頭でも打って馬鹿になっちゃった?」




「いや、これは、初めまして。俺の名前は町中一。頭は打ってはいませんが、今は、悩み中なのです」




 町中一は下乳に向かって挨拶をする。




「そう。それなら良かった。それでどう? こっちの世界は? とりあえず、分からない事があったら、教えてあげるから何でも聞いてね」




 町中一よりも身長が高い声の主が、前屈みになって、その動作の為に顔に掛かってしまった前髪を、片方の手でかき上げながら、町中一の顔を覗くように見る。




 町中一は、声の主、褐色の肌をしていて、肩くらいまでの長さの髪と瞳の色は虹色で、服は、もちろん、布の少ない他の妖精達と同じような物を着ていて、おっと、服の色は虹色で、スタイルは、あの女神様にも匹敵するような、これはもう、垂涎物の逸品で、顔の方は、美人というよりは、かわいい系の、とても優しそうな感じのする、人の、前屈みになった事によって、よりボリュームを増しつつも、相変わらず美しい造形を保っている、胸の深い深い谷間をじいーっと見つめた。

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