三 妖精(下乳)の森

 それから、そこまで思ってからのー。




 だが。俺よ。ちょっと待て。という思考転換。




 そう。我らが愛すべき、とある男、町中一は、馬鹿なのだ! ご都合主義で能天気な馬鹿なのだ!! そもそも、そんな馬鹿でなければ、三十年間も報われない努力などはしはしないのだ!!!




 俺は、もう、一度、死んでいる。だから、さっきまでの話、あれは、あくまでも、前世での話じゃないのか? それに、ここは異世界なのだろう? ふふふふふ。ふははははははは。そうだ。俺は、俺は、生まれ変わったのだ。この世界がどんな世界かは分からないが、もう、あっちの世界での出来事なんぞに、いやさ、その他の様々な事にも、縛られて生きる必要なんてないんじゃないのか?




 思えば。思えば。そうだよなあ。あの頃は、なんて窮屈に生きていた事か。仕事も休まずに毎日行って。上司の言う事も真面目に聞いて。満員電車に、少ない休みに、残業に、コロナに、どっかの国が起こした戦争に、物価上昇。若い頃と違って体調は年中悪かったし、健康を気にして、運動をしたり、食べ物もあれやこれやと我慢していたのに、その結果が、あの病気と来やがって。ああ、思い出したら、腹が立って、そんでもって、鬱になって来た。




「どしたん? なんだかしょんぼり?」




 妖精が、額の辺りを撫で撫でしてくれる。




「新しい扉(性癖)が開いたら、それはそれという事で」




 町中一は、そう言ってから、妖精の胸の部分にたわわに実っている二つの果実を指で突いた。




「うー? うーん? くすぐったいねー」


 


 妖精がキャッキャと笑いながら言いつつ、体をクネクネと捩じらせる。




「これは、これは、この感触は!! 指が埋まるように柔らかいが、お淑やかに自己主張してくる位の程よい弾力があって、なんとも、心が温かくなって、尚且つ、心が踊り出すような、なんとも言い難い、素晴らしい何かが、心を打つ何物かがある。そして、妖精の、表情と仕草と声がまたいい。これは、何度でも、続けてしまうじゃないか」




 町中一は叫びながら、妖精の胸を、主に服の下端からエロく出ている下乳を、中心に、指で弄り倒す。




「う、うくぅ。あふふん。なん、なんか、変な気分になって来た?」




 妖精がはしゃぎつつも、肌を上気させて、言葉を途切れさせながら言う。




 妖精のそんな姿を見ていた、町中一の脳髄に、雷に打たれたかのような、衝撃が走った。




 この感覚、この心の中に湧き上がって来る、甘く酸っぱくほろ苦く、切なくなるほどに、探求したいという好奇心のような物に似た何か。これは、これは、これはああああああ。あれだ。電気あんまだ。炬燵の中での親の目を盗んでのお医者さんごっこと並んで、幼かった俺の性の目覚めに、激しく貢献してくれた、俺の中でのレジェンド級のもう一度経験したいけど、あの頃にしか絶対に経験できないアレなアレだ。




「いっけえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」




 あえて、いっけえの意味が何かは言うまい。賢い読者諸氏には、この手の描写にありがちな、奥ゆかしい、隠蔽、を理解して欲しい。




「もっと。もっとだ。俺の電気あんまを喰らえええええええええええええええええええええ」




 町中一は、そう絶叫すると、片方の手の指で、妖精の股間を、優しくそれでいて激しく突き始めた。




「うおっとぉ。こいつは、一丁前に、濡れていやがるぜぇ」




 町中一は、下卑た声を上げて、指の動きをあれやこれやと工夫する。




「あれ? なんなんこれ? なんか、何かが、来るよぉぉ。凄いぃぃよぉぉぉ。もうー」




 妖精が、切なげに喘いで、それから、突如として、爆ぜた。




 ドン。ビッシャアァァァァァウゥゥゥゥゥ。


 


 ここは、こう、あえて音を言葉にして、表現させてもらおう。




 では、解説をば。ドンという腹の奥に響く爆発音に続き、爆ぜた妖精の、脳漿や肉片や血液などが、ビッシャアァァァァァと町中一の顔面に浴びせられ、ウゥゥゥゥゥという残響が、町中一の頭の中と森の中に木霊する。




 何が起こったのか理解できない、町中一は、フリーズし、ただ、ただ、その場に立ち尽くす。




 しばらくすると、残響の未だに残る、町中一の耳に、何やら、大きめの虫の羽音のよう物が聞こえて来た。




「あらあら。まあ。これは、どういう事なのでしょう?」




 ついさっきまで、目の前から聞こえていた声と、至極似ている声が、聞こえて来て、町中一は、反射的に顔を声のする方に向けた。




「何があったのです? 人間の子?」




 先程の妖精は、植物か何かの妖精だったようだが、今度の妖精は、明らかに虫系のようだった。羽は透明な、トンボの羽のような見た目をしていて、体の、やっぱり、胸とお股の部分だけを隠している服は、艶々としていて、中に吸い込まれて行ってしまうような、深々とした、黒色をしている。髪の色も目の色もその服と同じような色をしていて、顔の方は、眼鏡が似合いそうなおっとり系で、またもや、町中一の好みの顔ではなかったが、これまた、そんな諸々の事など、どうでも良いと即断してしまえる程の、かなり凄い具合の、下乳だった。




 町中一は、下乳を見つめながら、突然の大惨事によって、麻痺していた、思考を取り戻すと、こいつは、こいつは、明らかに、やっちまっている。これは、どうしよう? と思う。




「ひょっとして、爆発?」




 まずい。この妖精、事の真相に気付きこうとしていやがる。そう思った瞬間、町中一の先程の爆ぜた妖精のあれやこれやに塗れている指は、新たに現れた、先の物よりもたわわで迫力のある下乳に吸い寄せられるようにして伸びていた。




「ええーい。ままよ」




 町中一の指が、破滅を導くであろう、スイッチをポチっとなっと押す。




「きゃははは。何? 急に、どした?」




 妖精が嬉しそうに楽しそうに微笑む。




「スキンシップスキンシップ。オレ、ナカヨシ、ナリタイ」




 なぜだか、片言になって、町中一は言う。




「うーん? いいよー?」




 妖精がはしゃぎつつ、くすぐったさからか、身を捩る。




 ああ。神よ。この男の罪深さを赦し給え。



 

 町中一の指と思考は、でぇぇぇぇぇぇぇぇーんきぃぃぃぃー。あんまぁぁぁぁぁぁーっと、加速して行き、やがて、またもや、妖精が爆ぜた。




「うおおおおおお。思わずやっちまった。俺は、このままでは、大量殺人、いやさ、大量殺妖精? かな? ……。とにかく、このままでは、困った事になってしまいそうだ。異世界に来て早々、殺人? 殺妖精? 鬼てぇぇぇぇ」




 辺りに静けさが戻ると、すーっと町中一の感情の昂りがおさまって行き、賢者モードになった町中一は、その場に座り込んでから、天に向かって雄叫びを上げる。




「何々~?」




「どした~?」




「わああああーい」




「人間っ人間っ」




「きゃっきゃ」




「うふふ」




「てへっ?」




「ペロ?」




「楽しい音が聞こえた?」




「爆ぜた?」




 町中一の声を聞き付けたのか、妖精の爆ぜた音の所為か、妖精達が、そこかしこから雲霞の如くに現れて、町中一の周りに参集し始めた。

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