第3話

僕はロボットだった。

言われるままやらされるまま。

でも酷使されるうちに故障した。

ご主人様を攻撃するようになった。


小学六年になった。

俺は成績やスポーツで満たされなかった自尊心を満たすために暴力を用いた。

元々自分に対する尊厳を持たない人間は他人に対する尊厳も希薄だった。

容赦なく攻撃し、捩じ伏せることで暗い虚栄心を満たした。

すっかり家族と会話は無くなり、支配 被支配で成り立つような脆い人間関係を構築した。

人を傷つけ、同時に復讐され傷つけられるイメージにいつも震えていた。

17歳までそんな日々が続いた。

一番、社会から眉をひそられた時期だったが、少なくとも一番自分がやりたいこと、やりくないことをはっきり主張できていた時だった。

17歳でプロに拉致され、結局恐怖のあまりイモ引いた。

もう大人だから更正するとまわりに吹聴していたが、あれは嘘だった。

怖くなっただけだ。

貫き通す強さが無かっただけだ。

それから、大人だからとか社会人だからとかそんな言葉で自分を美化するようになった。

いくつになっても自由に生きているような人に嫉妬し、大人げないとか常識が無いと言って攻撃する。


本当は自分がそうなりたかったくせに。

更正した? 大人になった?

嘘つくな!

本当は怖かっただけだ。相手が強大だっただけじゃない。

自分のメッキが剥がれるのを恐れていただけだ。

17の俺に会いに行く。

拳で自分を表現し、強大な相手に狙われているとも知らずに有頂天になっている俺に。



ストリートファッションに身を包み、返り血で真っ赤な拳で頬を撫で、血化粧をしている俺。 身長は180くらいか、今の俺とさして変わらない。

目はギラつき、怒りと恐れが混在している。

くそがきめ。

それでも最近の俺よりはまだましだ。

今の俺が街でこいつと出くわしたら道を変えるだろう。

「おい!」

17の俺に話しかける。

ギラついた目がひときわ光る。

イメージよりずっと狂気に満ちていたが、魅力的だった。

「とことんやれよ。

お前に何があっても、お前が何をしでかしても俺はお前を大切にする。」


いかれた目をしたクソガキは一瞬きょとんとしてから別人のように優しい目になった。


「絶対に引くなよ!とことんやれ。

怖くても、家族の期待を裏切っても自分の信じる道をすすめ。

どんなときも俺はお前の味方だ」


17の俺は目に涙をためてありがとうと言った。

俺は17の俺を強く、強く抱き締めた。


震える肩 こいつは恐怖に震えながらも幼い頃失った自尊心をこんなかたちで取り戻そうとしていたんだろう。

お前がどんな人間でも俺はお前を愛している。

俺はお前を全力で大切にする。

全力で大切にする。


震える背中は、小学四年の俺と変わらなかった。

大きな喪失感を味わい、愛に飢えながらも、愛がどんなものなのかもわからない、ただの子供だった。

17の俺は泣いていた。

小学四年の俺よりも長く泣いていた。

ひとしきり泣くと、胸ポケットに入れていたナイフとブラスナックルをその場に捨て、胸を張って歩いて行った。

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