§007 2022,07,29(Fri)

茨城県那珂市 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 那珂研究所




その日、研究所は局所的に東日本大震災以上の激震に見舞われた。

確かに現実の地震のような直接的被害は無いが、総工費5000億円、立地および実験後の解体まで含めば1兆7000億円を掛けた核融合実験装置“JT-60SA”の存在意義が、完全崩壊した。



英国で発行される科学雑誌“NATULE”

米国の“SCIENCES”と並び、最も権威ある科学雑誌として知られる。

その掲載論文は、各学会の論文よりも掲載条件が厳しく、権威に富むとも言われていた。


7月29日に発行される8月5日号―――その表紙にあった赤い大文字は

“URGENT PUBLICATION”:緊急掲載―――。



記事の冒頭に、その原稿がインターネットを通じて投稿されたのは2週間前だと記述がある。

通常、投稿論文は編集部の確認から専門家の査読、そのレビュー応答があり、必要なら修正。

論文の受理まで2か月、受理されても掲載までは平均2か月、つまり通常投稿から掲載は4か月弱が通常であった。

その慣例を覆す理由―――、編集部註として下記内容が記載されていた。


・今現在進行している事態に直結した内容で、且つ、極めて重大な内容であること

・査読すること自体、多方面から様々な障害を招く恐れがあり、編集長特任案件としたこと

・その内容上早期の掲載が望ましいため、全ての慣例を無視し、真偽判断を含め読者に任せること

等と記されていた。


実際最近の論文は、常に利権と虚偽が入り混じる。

中には投稿と特許申請を殆ど同時にすることもあり、査読段階で漏洩等あれば後々大問題になる。

それ故、一般記事と異なり論文は標題とアブストラクトから判断した担当を決めたら、出版まで編集部内でも担当と編集者以外閲覧できないシステムになっているらしい。

フォーマットさえ整っていれば、投稿論文をそのまま掲載できる電子出版ならではのシステムである。

今回は担当を決める時点で編集長が専任となった。

その結果、通常ある次号予告のレビュー版にすら内容は配信されなかった。

論文を見た瞬間、編集長が公開まで完全隠蔽することがベストと判断したからに他ならない。

これが外部に漏れようものなら、どんな圧力が来ることか。

しかし投稿があったということは、著者は公開を望んでいるし、この内容を世界に知らしめないことは何よりも言論の自由という自らの信条にも悖る、とのコメント。

更には筆者からとして、この論文に関し出版社に何らかの不都合が生じた場合、即座に廃棄して構わない、との追記があったことも明記していた。

但しその場合は、世界各国主要な政府関係機関、主要研究機関、関連大学、主要マスコミ等に社からメール発送することに成る、とも。



施設所属の研究員である木村は、欧米人らしいその余りの前置きに何れにしても公開されるのに何を大げさな、と当初失笑した。

が、直後その論文内容を確認し今度は呆然とした。




表題は、“特定炭素系結晶体に於ける新たな量子的動作の一考察”


主筆はDr.E. Kanata Mikogamiただ一人、所属はInterstitial intelligent industry Co.,LTD

―――今現在世界を席巻している新型水素電池、その原理そのものに関する論文だったのである。



ざっと読んだだけでも、その中には幾つもの新たな知見が含まれていた。

余りの内容に、物理学、特に量子関係の専門家あたりには絶叫と興奮、混乱と狂喜、様々な反応を引き起こしただろうことは想像に難くない。

現に周囲でも号泣する者や大声で叫ぶもの。

他の部署では失神するものまで居たとかいないとか・・・。


立方晶炭素錯重窒素硼素:Cubic Carbon Confused Boron & Nitrogen―――。

先日の自動車用水素電池に関する共同記者会見で公表された新型水素電池の最重要“核”。

だが、結晶体の名前は知らされても、発電の原理は何も知らされていなかった。

サンプルの出荷も実際始まっているが、云わば全世界の研究機関・大学・関連企業その全てが望んだわけで、依頼数だけでも相当数になっているらしい。

軍事上の最重要物資にも該当し、日本国内から出すには国の審査もある。

なので実際にはあまり行き渡っていないのも事実、検証は幾つかの有名機関で漸く始まろうとしていた段階だ。

量子科学技術研究開発機構ではサンプル購入を申請したとは聞いたが別部門、基本大規模発電とは別物、と誰もが思っていた。



論文中まず、このダイヤモンドと窒素・硼素の錯重結晶は、水素の核磁気共鳴下という条件で、高い水素吸蔵性を示すことが示唆されている。

今の水素吸蔵合金が自分の体積のおよそ1000倍強の水素を吸蔵するのに対し、付与されたデータによれば件の結晶体は4800~6000倍の水素を吸蔵することが水素暴露後の重量変化により観測されていた。

一度吸着した水素は800℃以上で放出されるという。

実際には放出させることは無く、その水素飽和した結晶に対し、水素に核磁気共鳴を起こす磁場を掛け、特定の振動数に合わせた2種のファイバーレーザーを照射、更に結晶格子の固有値に合わせた3種目のレーザーを照射すると、結晶内で周囲の《熱》を吸収し電子の連続放出が生じる現象が観測された、とある。

そして何よりも問題なのは、結果観測される膨大な電気量から各種減衰を差っ引いた値―――これがD-D反応(第2世代)、及びそこから生じるTを再利用したD-T反応(第1世代)による放出エネルギーに一致していることが考察されていたのである。

D-D反応とはD:重水素デュートリウム同士の核融合反応、D-T反応はD-D反応で生じたT:三重水素トリチウムと重水素の核融合反応だ。

電子放出を生じさせるレーザーの特定振動数は重水素原子、三重水素原子の固有振動数に一致していることも記されていた。


今現在この研究所にある“JT-60SA”が目指しているのは、この第1世代のD-T反応に至る過程の、更に段階でしかない。



ではこれが核融合反応だとするとD-T反応で出てくる中性子やD-D反応で生じる陽子はどこに? ということになるが、当然核融合反応は結晶格子内で起こっていると推定される。

その周囲は、結晶格子内に固溶体となった水素原子が格子間隙を埋め、その格子は硼素・炭素・窒素で構成された強固な立体のラビリンス。

といって結晶内で水素分子は水素原子に分解されるいわば結晶内プラズマ状態であり電子が電離している。

その全てが中性子を吸着する減速材―――。

固体内部なので、熱核融合時の磁束で無理やり収束したプラズマのようなさはない。


希薄・・・それはそうだろう。

熱核融合の成立するローソン条件の一つでは、1cc内に原子核が100兆個以上存在、と定義している。

100兆個は10の14乗個だ。

だがcCCBNは体積の4800倍以上の水素を吸着するという。

仮に1ccのcCCBN結晶があれば、その4800倍、つまり4.8リットルの水素を吸着する。

気体の1molは22.4リットルなので、その量は水素0.2molよりも多い。

1molは分子の数で凡そ6×10の23乗個、結晶内でプラズマ化する水素原子の数で言えば、更に倍。

つまり核磁気共鳴を起こさせるエネルギーを使って水素を吸蔵しただけで、ローソン条件の以上の密度を結晶内で実現してしまっている。

熱核融合では見通せないくらい遥か先と見られていた第2世代D-D反応をあっさりと起こせるはずだった。


よって一つの推論として、発生した中性子は、主に周囲のHをデュートリウムに変換することで吸収される。

一方、陽子は基本+の電荷を有しておりすぐに同じ+の電荷を持つ水素原子とは結合しないのだが、cCCBN結晶内の炭素が硼素と置き換わったことによる過剰な突起(GAP)には結合しやすく、捕捉された陽子は同じくGAP周辺に捕捉された水素原子と量子反応としてHeに変換される、としていた。

その際、持っていたエネルギーは周囲の原子を振動させる熱となるが、こちらはcCCBN内部のNVC(窒素空孔センター)の量子的振る舞いにより電子流となって変換される。

透過性の弱いその他の放射線はそもそも結晶内を透過できず、そのまま熱として吸収され、同様に電子流に変換される。

このことからこの放電現象は、cCCBN結晶内水素原子による常温核融合反応と、対電子量子効果であると結論付けていた。


推論ではあるが結晶外に放射線が出てこない合理的な説明で在り、今後の他の研究者による証明を待つしかない。

いずれもが正しく主題に書かれた新しい、しかも画期的で革命的な発見に他ならなかった。


実際、実験装置においても、反応中チャンバー近接1cmにおいたガイガーカウンターは有意な放射能が計測できなかったとある。

初期起動時、レーザー振動による熱の発生で結晶内が500℃程度になると、D-D反応が始まり電流値が観測される。

D-D反応で生じる陽子は周辺水素と結合してヘリウムになり、同じく生じるTはD-T反応に再利用される。

D-T反応の際に出る中性子が結晶内水素に吸収されDに変換される原子核循環が生じる。

結果的にチャンバー内に存在する全てのDが消費尽くされるまで、反応が継続する。

過程は何通りかあるが、トータルの入出力で見れば重水素分子2個からヘリウム2個と21.235MeVのエネルギーが生成されることに成る。

結晶内で生じたヘリウムは結晶外に排出され余分な水素とともにチャンバー内の内圧保持に寄与、リサイクル時に回収という工程をとる。


それらの結晶内プラズマに熱を与える反応はNVC連続発振による電流としてのエネルギーで放出され、それにより温度抑制効果を持ち以後安定した温度に落ち着く。

温度と放出エネルギーは結晶格子振動数に合わせたレーザーの出力で制御できる。

これらの現象の根拠として、反応後のヘリウムガスの存在や、起動反応中結晶内チェレンコフ光の画像が掲載されていた。

また追記として原子炉の汚染水から水素を取り出せばTが最終的に放射能を持たないヘリウムに変わることから、Tそのものの除染が可能であることも示唆していた。



結晶内に封じ込められたDとTの核融合反応、NVCを応用した電流の取り出しや、これも新たな知見であるBGC量子反応による陽子と水素のHeへの変換。

何処かのベンチャー企業のキャッチフレーズではないが、それを遥かに凌駕する“掌に乗る核融合”―――をリアルに実現してしまったのだ。

幾つかの重大な新規発見はあるものの、理論構成にも付与されたデータにも何ら破綻はない。

直感的に真っ当な論文に見える。

この論文の正当性はじきに世界中の学者によって検証されるだろう。

そして、この論文は余りにも示唆に溢れている。


立方晶炭素錯重窒素硼素:Cubic Carbon Confused Boron & Nitrogenの水素吸蔵性。

結晶内プラズマの振舞。

何よりNVCやBGCの、核磁気共鳴と振動数レーザー協調制御によるコントロール性。

それにより更に新たな量子効果が発見されるかもしれないのだ。

今回齎された結晶格子内常温核融合は、実はその一つの結果に過ぎない。

論文主題が暗示するように、まだなのである。



だが、しかし―――と瞑目する。


水素吸蔵結晶は、金属の他にケイ素系結晶ではいくつか事例があったではないか。

炭素系結晶で出来たとしてもそれほど驚くべきことでもない。

抑々水素分子の大きさはダイヤモンド結晶構造の格子間距離よりも小さいのだから。


核磁場共鳴についても既に元素存在判断の一つとして様々な分野で知られている既知の事実。

CTスキャンにも使われているありふれた概念。


新たな知見であるBGCは兎も角、ダイヤモンドNVCも一つの量子効果として、既にセンサー等に応用されつつある。



畢竟―――全て既知或いは拡大予想できる事象、ともいえる。


それを核磁気共鳴、原子振動数、結晶格子振動数を重ねることで結晶内核融合という全く新しい事象を励起し、況や既に商品にまでしてしまった。

既存の技術を組み合わせることで新たな未来を切り開く―――。

嘗て何処かのリンゴマークCEOが、パーソナル情報システムに於いて起こしたイノベーション。

同じようなことが、今エネルギーの分野で起こっただけ、ともいえる。




そんな事を考えるのさえ現実逃避だと木村は判っていた。

周囲のデスクでも同僚たちが茫然としたり、机に突っ伏したりしている。

誰も働く者は居ない―――熱核融合の研究は全て無意味と化した。


辛うじて結晶体がダイヤモンド、即ち大型化が難しいという事だけが救いになるだろうか?

一部にはそう強がっている者もいた。

量産化が可能なのは6mmCubeまで。

人工ダイヤモンドの厚みは現状の技術で10mmは超えるが20mmには届かない。

結晶サイズに出力が線形と言うから、仮に20mmCubeが出来れば8MWの出力。

それを幾つも並べればいいだけだ。


少なくとも熱核融合のプラズマ密度を上げるよりも、大型結晶を作る技術を模索した方が難易度は低い。

そう、今の仕事、積み上げてきたキャリアは今日、崩れ落ちた。


正直言えば、熱核融合に限界を感じていたのは確かだ。

余りに高い難易度、余りに厚い、その厚ささえ計り知れない技術的障壁。

第1世代熱核融合が達成できたとしても、その時原料となる純粋トリチウムの精製はレアメタルであるリチウムを膨大なエネルギーを掛けて変換するしかない。

その価格は1gあたり300万円と言われる。

商用化など夢のまた夢なのだ。

全く別のアプローチは無いのだろうか。

そう考えたこともあったが、こんな手法は思いつかなかった。

そういえばcCCBNの原価が同じ価格だと聞いた。

何かの皮肉だろうか。


国家公務員なので馘は無いだろうが、どんな場所に回されるか。

今後の見通しは杳として描けなかった。









Huge Inpuct―――。


ただ只管、余りにも大きなインパクト―――。

それは世界の構造だけではない。

人の・・・人類の在り方すら変える可能性を孕んでいた。




論文が公表されると、当然各国の研究者は開示されたデータや自動車用に供給されたサンプルを求め、検証に走った。

既にEG-Packと言う、実証がある。

当然のごとく完全なる再現性と、結晶内核融合の安全性が確認された。

ある検証によれば、現状のEG-Packの容量からみて水素圧縮圧は100kPa程度であり、高圧容器並みの10MPaまで圧を上げれば今の100倍の容量が得られるとの報告もある。

ただその場合は万が一破損した場合の破裂が危惧されるとも。

もっとも既に市販されている燃料電池車の水素タンク圧力は70MPaあり規制上は何の問題もなく販売されている。


一方で既に市販されている電池と言えど実際には核融合ということもあり、その安全性も取りざたされた。

水素の封入時点ではその放射能量は自然状態に近く何の問題もない。

稼働状態で結晶内にトリチウム中性子が生じているが、放射能漏れは皆無であった。

いずこの検証においても、稼働中の水素チャンバー近傍で6μSvと自然観測グランドノイズ値以上の放射能は存在しなかった。

万が一の際も核磁気共鳴の磁場が途切れると連続発振が解放され過反応で全て熱として自身を焼き尽くすが、そもそも反応量が少ないため有害な放射性物質が残らない。

周囲に水素ガスの無い暴露状態での緊急停止を試みた機関もあったが、その時の瞬間被ばく量は3mSv―――健康診断でCTスキャンを一回受けた程度の量であると結論付けられていた。


水素電池が結晶格子内常温核融合であることが認知された時、自動車用水素電池のライセンス生産に参画できないC国やK国は国を挙げて声高に危険性のみを誇張した。

報告の中にも極めて高い値を示したという事例もありそれを根拠としたが、直にC国のMSS国家安全部とK国国家情報院の関与が疑義され、報告自体にも多数の試験方法不備や虚偽が指摘されたため、全て撤回された。

そもそもサンプルの両国への輸出は認可されていないのだ。

認可されていないサンプルを使用した検証は捏造扱い。

その結果、取引を切望するC国・K国の業者に対し、おたくは自国の政府が極めて危険と評した物品を欲しがるのか、と益々自国への輸入を困難にする羽目に陥った。




前回自動車用水素電池の記者会見では、既存電池会社から自動車会社まで広範な業態に様々な円強を及ぼしたが、今回の論文では核融合関連の研究施設や機関も規模は大幅に縮小される可能性が出てきた。

熱核型の核融合炉―――。

今目指していたのはD-T反応による継続的な核融合反応の持続であり、その為に投入されるエネルギーは発生する熱量よりも多い、という段階にしかない。

プラズマを保持する磁場の確保に膨大な電力を喰うのだ。

そして実際にその課題を解決できたとしても、今度は経済的に成立するのか、という問題がある。

無限の燃料と謳いつつも、本当の意味で燃料となるT:トリチウムは元々地球上の存在量が極めて希薄で、純粋な形で精製するにはレアメタルのリチウムから変換するしかない。

取り出す際に膨大なエネルギーを消費し、今のところ他の使い道は水素爆弾しかない極めて高価な燃料なのだ。

本当の意味での無限に近いエネルギーを得るには、今の核融合より更にハードルが25倍も高いD-D反応を実現する必要があった。

一方拡散したトリチウム水は通常の水素との分離が出来ないこともあり、福島第1原発跡では汚染水の処理に頭を悩ませている。


片や放射性物質である処理に侃々諤々しながら、他方では燃料としてのレアメタルの枯渇を横目に運転せざるを得ない現在の熱核型の核融合炉。

正直言えばエネルギー源としての未来は余りにも遠かった。



今回論文発表された結晶格子内核融合は、その極めて高いハードルを悠々回避していた。

恐らく今後この分野の研究者の大部分は格子内核融合の研究を目指すことになる。

今回公表された新発見には、まだまだ可能性が隠れているはずだ。

水素を固溶体とし、NVCを制御するレーザー技術―――数多の応用や流用が期待できる。


情報が開示され、研究者の一部は当然cCCBNの物性解明や生産手段の模索にもはしる。

と言うのもIcube社は製法特許を出していない。

秘匿性が高く最も重要だからこそ出していないと思われる。

cCCBN:立方晶炭素錯重窒素硼素:Cubic Carbon Confused Boron & Nitrogen。

ダイヤモンドの結晶構造の一部が硼素と窒素に置き換わった錯体。

内部には空孔Vacancyと呼ばれる空隙と、Gapと呼ばれる突起があり、それぞれに量子効果が得られる。

ダイヤモンドは無色透明だが硼素と窒素が少量添加された結果、濃い赤のレッド・ダイヤモンドに似た色合いを呈する、と言うかレッド・ダイヤモンドは抑々窒素による構造欠陥により赤色を発する。

屈折率はダイヤモンド相当に高いためそのスパークルは他と一線を画す。

更にNVCの効果か、紫外線を当てると特有の赤紫色に蛍光することが確認されており、真贋判断の材料として公知されていた。

cCCBNの取引価格は同じ重さの高品質ダイヤモンドと同じ300万/g

元々ダイヤモンド結晶を用いると推測されるため、今のところの最大サイズは10mmCubeとされており大規模発電所にはなり得ない。

この世界を変えるイノベーションで多大な取り分があるとすれば残りこの1点なのだ。

現状ではcCCBNの供給はIcube社のみ、値段も相応、値崩れの危険もない。



そしてLNGや原油などのエネルギー産業。

CI-LENRの今後の発展次第では電力会社をも根本から揺るがしつつある。

既に自動車が水素電池で走る未来が規定され原油の価値が若干だが下がった。

将来価格を先読みした生産側の都合ではない下落ともいえる。

EG-Packは破壊の危険性さえ排除できれば今の100倍の容量にできるとあるのだ。

今でも一般家庭2,3か月分。

その100倍となればたった一回の充填で約20年分。

燃料の水素は実はそれほど高くない。

100倍の高圧にしても既存の水素自動車満タンの1/100にも満たない量である。

送電線すら要らず、送電損失もない、完全自立。

高圧充填が認可されれば、今後将来的に電気会社との契約を打ち切る世帯が増えるのではないかとの予測も既にある。


それは再生可能エネルギーと言われるその他の発電施設においても同じ。

1kW当たりの施設費が違いすぎるのだ。

風力でも太陽光でもその初期投資は大きく今の電力費用では10年から15年稼働しなければ元が取れない。

利益が出るのはそれ以降だがそのころにはメインテナンスも必要となってくる。

結局カーボンニュートラルの名のもと、税金で補填しているのが現状だった。


EG-Pack一つの初期投資は16万円。

もし高圧水素の認可が下り、経済的な影響を無視すれば、詰め替え作業は2MPaで工賃込み4万円程、水素ガスだけなら100円と試算されている。

そこから得られる電力は92.5MWh

2万としても、なんと1kWh当たり0.21円。

今の日本においても1/150の電気料金。

1か月あたりの標準世帯電気料金が60円となる水準だった。

実際には既存の売電事業をすぐに潰すわけには行かないとして、高圧充填にはそれなりの対価を必要とすることに成るだろうが、ポテンシャルとしてはそれ程安くできる。

遠からず実現されるだろうその事実に太刀打ちできる発電システムなど他に存在しない。


―――正しく電力を、空気のように使える世界が一気に来ようとしていた。





このことはR国や産油国にも多大な影響を与えつつある。

彼らの唯一の安心材料は、格子内核融合のコアであるcCCBNの大型結晶が得られないことであった。

発売当初の爆発的な供給数は過去のストック故。

今後の供給量は日産40万個とIcube社のHPにある。

それでも20億あると言われる世界の全世帯に行き渡るには15年程度かかる。

1.6mmCubeと呼ばれる小型規格はライセンス生産を許可していないので独占状態。

逆に言えば15年後各世帯に行き渡れば需要は耐用年数20年と云われる周辺装置の買い替え分で安定する。

今は小さなかけらでも、それが積もれば将来的に問題となることは確実。


しかし現在はまだ大規模需要に対して石油やNPGがどうしても必要なのだ。

その為、R国もU国への侵攻を止めないし、中東各国にも少なくとも表だった動きはない。

産油国はR国の暴挙に対して、自国原油の高止まる利を取り、態度を濁している。




まだまだ世界は変化を受け入れていなかった。





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